第17話 女の扱い方

湯船に浸かり、すっかりリラックスできた僕は、寝室に戻って驚くことになる。


「ど、どうしたんですか⁉」


「ゴメンね。だって素面じゃ恥ずかしくて……

飲んで勢いをつけようと思ったの。でも、全然酔えなくて、馬鹿みたい」


僕が風呂に入っている僅かな間に、海咲はビールを3缶も飲み干していた。

少し顔が赤くなってはいるが、元々お酒に強い方なので、それほど酔ってはいないようだった。


「でも、少し良い気分にはなれたわ。

ね、一緒に寝ようよ、そこでお話ししよう」


そう言うと、海咲はベッドの中に潜り込んだ。


「ぼ、僕はソファーのほうに……」


「まだそんな事言ってる。私がお酒飲んでまで勇気出してるのに、横で寝るくらいもできないの?」


この状況で一緒に寝ると、その先にも進みそうだ。

だが、このまま押し問答を繰り返しても仕方ない。僕は海咲の横へと潜り込む。


「なんだか、少し眠くなってきました。お風呂が気持ち良かったから」


「そうね。私も眠いかも……

ねえ、傍に寄っても良い?」


「はい」


海咲が身体を寄せて、二人は密着する形でベッドに横たわっていた。

海咲からは石鹸の匂いがする。その匂いだけで頭がクラクラするのに、さらに腕を絡めてきた。


当然、僕の下半身は反応を示す。



「驚いた……

これだけされても、手を出さないのね。

私の事が嫌いなのかな?」


「そんな事ありませんよ。ただ、急だったから……」


「じゃあ、アイリさんの代わりだと思って抱いて」


「愛莉の?」


「そう。それだったら抱けるでしょ? 私は、アイリさん。

最初はアイリさんの代わりでも良いよ。そのうちミサキにしてくれたら」


今にもキスをしそうなくらい、顔が近づいていた。

もしキスをしたら、それを合図に僕たちは始めてしまっただろう。

だけど、海咲の言葉を聞いて、僕は意志を固くした。

もちろん、下半身はもっと固くなっている。


「愛莉の代わりだなんて、そんなんで久保田先生は抱けません。

もし、そういうことになったら、『海咲』として抱きたいです」


僕の言葉に、海咲の身体がビクンと反応した。


「なにそれ?

よ、良く分からない」


「だから、愛莉の代わりじゃなくて、『海咲』を抱きたいです。

でも、今はその時じゃないと思います」


「あはは、上手く逃げたわね。

ね、もしかして女の扱い方だけじゃなくて口も上手い? 笑」


「す、すみません」


「でも、今ので分かっちゃった~~」と言いながら、海咲は絡めていた腕を解き、仰向けになって天井を見つめた。


「森岡先生には、好きな人がいるんだって」


「へっ?」


「もう、バレバレよ。

だって、普通の男の人なら、ここで我慢なんてしないもの。

もちろん、森岡先生が真面目って言うのもあるんだろうけど……、

絶対に私と、一度きりの仲も許されない理由があるのね」


「そ、それは……」


もしかしたら気づかれたのだろうか?

言葉に詰まってしまう。



「雪村先生だな~~」


やはり、気づかれてしまったようだ。僕が小梢を好きだという事を。

「いや、それは……違いますよ」

何とか反論するが、自分でも弱々しいものになってしまう。


「良いのよ、私が知ったところで、誰かに言ったりしないって。

それに、相手が雪村先生じゃ、敵いっこないもの。

ゴメンね、困らせて」


そう言うと、海咲は「少し寝る」と付け加えて僕に背中を向けた。

僕も、かける言葉が思い浮かばず、仰向けで天井を眺めていたのだが、そのうちにウトウトとしてしまった。


おそらく、30分と寝ていないのではないだろうか。

身体に重みを感じて目が覚めたのだが、その状況に少なからず狼狽した。


いつの間にか、海咲が僕の上に重なるように寝ており、更には、僕の浴衣の胸元に手を突っ込んでいるのだ。

しかも浴衣がはだけて、小さな乳首をさらけ出しいて、それが僕の胸にコリコリとした感触を伝えていた。



「く、久保田先生?」


声をかけるが、海咲はスヤスヤと寝息を立てている。どうやら寝相が悪いみたいだ。


「と、とにかく浴衣の胸元を整えないと……」独り言を言いながら下から浴衣を直そうとするが、いくらスレンダーとはいえ脱力している人間は重い。

思うようにいかず。かえって浴衣を乱れさせてしまい、肩が出るまでになってしまっていた。


(こ、これは……マズイ)

こうなったら、と思い、僕は身体を反転させて海咲と入れ替わろうと試みた。

しかし、なんとか入れ替わったものの、海咲の浴衣は完全に乱れ切っており、何も着けていない下半身も露わになっていた。


「うう~~ん、どうしたの~~?」


「いや、これは、違うんです」

どうみても僕が寝込みを襲っている図式である。僕は必死に弁明しようとした。



「きゃっ! なに? え?」

状況を飲み込んだ海咲が、明らかに慌てふためいているのが分かった。

なにせ、裸同然の格好なのだから、驚くのも当たり前だ。


「いや、これは、違うんです。

寝ていたら、久保田先生が」


そこまで弁明したところで、僕の下半身が温かいものに包まれた。


「こんなになっておいて、何が違うの?

それに、いつの間にかわたしの事を裸にして……。

もしかして、気が変わったの?」


「いや、本当に違うんです、さ、触らないでください」


「良いわよ。男なんて、そんなものでしょ。

それに、私から誘ったんだし」

と言いながら、海咲は下から腕を絡めてきた。しかし、片方の手は僕の下半身に添えられて刺激を繰り返している。


「く、久保田先生……、本当に、ダメです。これ以上は……」


「我慢できない?」


いつの間にか僕の寝間着の帯が解かれ、僕も裸同然の格好になっていた。

頭の中で、理性と欲望が激しいバトルを繰り返していた。



「良いよ、好きにして」


海咲は自分の寝間着の帯を解き、肌の露出を最大限にして、僕の耳元で囁いた。



「しよ……」





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