第2話 クリぼっち

 今日は十二月二十四日、すなわちクリスマスイブだ。


 俺たちはもう冬休みに入っているから、一日中遊べる! と言いたいところだけど、残念ながら部活動がある。


 俺も剣道部の練習があって、朝から学校へ行っていた。だけど練習は午前のみで終わり、昼過ぎに家に帰ってきて、食事を済ませると暇になった。


「しゃーねぇ、ゲームでもするか」


 クリスマスに家で一人ゲームをするのはあまり気が乗らない。本当は誰か友達を誘って遊びに行きたいのだけれど、なぜか俺の周りは彼氏・彼女持ちばかりで皆デートに行ってしまっていて、誘える人がいないから仕方ない。


 テレビの前に腰を下ろし、ゲーム機を起動させてオンラインFPSゲームをやり始める。


 このゲームは30人でキル数を競い合うゲームで、生き残りが一人だけになるか、制限時間が過ぎたら終了だ。


 いくら今日はクリスマスイブ、それも世間的には平日だといっても対戦相手に困ることはなくて、すぐにマッチングされた。


 フィールドはランダムで、今回は工場地帯マップが選択されて、俺の初期位置は倉庫の中だった。


 周囲を警戒しながら動いて、フィールド上に散らばったアイテムを回収していく。


「うしっ!」


 倉庫街を探索していて遭遇した敵との銃撃戦を制し、倒した相手からアイテムを奪う。


 いつも最初のマッチは動きが硬くて、すぐにキルされてしまうこともよくあるけれど、今日は割と良く動けている。


 結局このマッチは時間切れで終了し、俺は最後まで生き残って、計3キルで3位タイだった。


「マジか、1位取れんかったかぁ……」


 俺の感覚的には今回参加していたプレイヤーは皆同じくらいの実力で、十分チャンスはあるように思えたから、どうせなら1位を取りたかった。


 まぁでも初っ端から3位を取れることもなかなかないし、今日は調子が良さそうだから、次のマッチでは1位を取ってやる。


 リザルト画面を閉じて、次のマッチの準備を始めた。


 ***


 ピポン。


 リザルト画面を見ていると、スマホの通知音が鳴った。


 杏奈からメッセージが届いたみたいで、ロックを解除してメッセージを確認する。


(今からデートに行ってくる!!)


「そっか。今からか」


 時計を見ると、間もなく五時になろうとしていた。外はもう真っ暗で、デートスポットではイルミネーションが映えているに違いない。


 うきうきと集合場所へ向かう杏奈の姿が思い浮かぶ。


 思いっきり楽しんできなよ、と返信してスマホを足元に置き、コントローラーを握って、視線を再びテレビ画面に向けた。


 ――杏奈と比嘉はどんな風にデートするんだろうなぁ?


 初めてのデートでも落ち合ってすぐに手は繋ぐよな。それでイルミネーションを見に行くって感じか。


 いや、その前にショッピングか? 服見たりするの杏奈好きだし。


 いやいや、クリスマスだから流石にイルミネーションを優先するか。


「わっ、危ね!」


 マッチングされるのを待ちながら、杏奈と比嘉のデートを想像していたら、いつの間にかマッチがスタートしていて、俺は市街地マップの通路のど真ん中で無防備な状態のまま突っ立っていた。


 こんなの、どうぞキルしてくださいと言ってるも同然だ。


 杏奈が今日比嘉とデートに行くことは前から聞いていたというのに、なに今更動揺しているんだ俺は。


「ッ! 集中!」


 バシッと頬を叩いて気を取り直し、ひとまず物陰に隠れた。


 ――よし、近くに敵はいないな。


 周りの状況を確認できたところで、探索を開始する。


 この辺りにはまだ誰も足を踏み入れてなかったのか、アイテムが一切拾われずに残っていて、アイテムストレージがどんどん埋まっていく。


 十分にアイテムが集まったので、アイテム収集を終えて、敵を探してキル数を稼ぐことにした。


 だが、辺りに敵の姿が全く見当たらない。


 しかも、近くで戦闘が起きていたら銃声が聞こえてくるが、それすらしない。


 一ヶ所に人が集中しているのか?


 あまりにも敵が現れないから、暇になってきた。


 ――比嘉といる時、杏奈ってどんな表情してんのかな?


 杏奈のことだから、多分ずっとニコニコしてるんだろう。でも、いつも俺が見ているような笑顔なのかな? それとも彼氏には特別な表情を見せるのか? 


 てか今日、比嘉とキスするのかな?


 いや、流石にキスはまだ早いか。比嘉はどうか分からないけど、杏奈はそういう意味では積極的でないはず。


 それにしても杏奈のキス顔とか想像できないな。


 幼稚園か小学校低学年の頃に一度、杏奈にキスされたような気がするけど、もう覚えてないや。それに子供のお遊びのキスと本物のキスじゃ比べ物にならないか。


 あぁ、やっぱ悔しいなぁ――


「あ」


 バンッ、という銃声が聞こえてはっと我に返り、テレビ画面を見ると、You are deadと表示されていた。


「うわ、やっちまった~」


 油断し過ぎだろ俺……。


 しかも杏奈のキス顔のことを考えるとかどうかしてる。


「はぁ、いい加減諦めなきゃなんないってのに」


 杏奈はついこの間比嘉と付き合い始めたばかりなんだ。杏奈がこんなすぐに比嘉に冷めるとは考えにくいし、杏奈をすぐに手放すような男がいるとも思えない。


 いずれにしても今はゲームに集中するんだ。


 このゲームは自分が死んでも、マッチが終わるまでは拘束され、ここを抜けて次のマッチへ参加することは出来ない。だから決着がつくまでの間に心を落ち着かせることにした。


 だけど、無理やりゲームのことを考えようとしても、すぐにまた杏奈のことを考えてしまって……。


「ダメだ、もうゲームに集中できねぇ」


 俺はコントローラーを握ったまま、大の字になって床に寝そべった。


 ――ゲームが出来ないとなると、何して時間潰そう?


 この時間はテレビを見てもニュースばかりでつまらないし、宿題をするのは嫌だ。


 何かないかと目線を動かして部屋を見回していると、本棚に並んだ、ある漫画が目に入った。


「あ、そういえばあれの新刊まだ買ってないんだった」


 昨日が発売日で、昨日は友達と遊んでいたから、まだ買いに行けてなかった。


 暇だし買いに行くか。


***


「ありがとうございましたー」


 近所の本屋に行き、目的の漫画を入手することに成功した。ちなみに表紙からして面白そうな漫画があったから、それも一緒に買った。


 おつりを財布にしまい、それから財布と買った漫画をかばんに入れる。


 1冊しか買わないつもりだったから、持ってきたのが小さめのカバンで、2冊入るかちょっと心配になったけど大丈夫だった。


「うぅ、寒い」


 店の外に出たタイミングで冷たい風が吹いた。


 部活に行っていた昼間よりもさらに冷え込んでいて、今にも雪が降りそうだ。


 早く家に帰って、買った漫画を読もう。


 そう思って家の方に足を向けようとした。けれど、遠くに青い光が見えて、俺は足を止めた。


 ――そういえばイルミネーションイベントやってるんだったな。


 ここから少し歩いた先に屋外型ショッピングモールがあって、そこで毎年クリスマスまでの一週間、イルミネーションイベントが催されていた。


 せっかくだし、ちょっと見ていこうかな。


 そう考えを改めて、俺はそちらの方に足を向けた。





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