第28話 敵対
「ぜえぜえ、街中を探し回ってやっと見つけたぞミキヒコ!! ・・・って、え!?」
俺たちの姿を見てクワリンパが衝撃を受けた表情で固まる。
何せラナさんが馬乗りになって俺と抱き合ってる訳だからな。
まあ勝手に人の部屋に入ってきたのだから、完全なデバガメなわけであるが。
「クワリンパ、ちょっと今は取り込み中だから後にしてくれないか? 」
俺がそう言うと、固まっていたクワリンパがハッとした表情になった。
だが、やはり俺たちの方を見ると顔を赤くして、
「その、あの、えっと・・・」
と、もじもじとしだす。
ちなみに、ラナさんもついっさっき慌てて布団を頭からかぶって隠れてしまった。
「は、恥ずかしい・・・私ったら・・・我慢できなかったからって、あんな・・・」
「二人がしてたのは・・・やっぱり・・・そういう関係で・・・」
「・・・」
と、誰もまともに口を開いていない。
・・・こういうのは三すくみと言うのだろうか?
まぁ多分違うのだが、何にしてもこのままじゃ話が進みそうにない。
いちおう一番冷静なのは俺のようだし、とりあえず口を開く。
・・・俺が気を使わないといけない理由はよく分からんが。
「クワリンパ、何しに来たんだ?」
そう尋ねると彼女は更に耳まで真っ赤になって、いかにもしどろもどろといった感じで何とか返事をする。
「えっと、あの、なんだっけ・・・その・・・あっ、そう、そうだ、さっきは驚いたぞ!まさかミキヒコが転移魔法を使えるなんてな! 人間でこの魔法を使える奴がいるなんて思いもしなかったぞ! ・・・えっと、だから私、ますます気に入っちゃって、その、一緒に来て欲しいなって・・・。あ、もしラナ姉さんが正妻なんだったら、私は二人目でも全然・・・。うん、そう、安心して。ま、魔族では強い男に何人も妻がいるのが普通だし、だから私は別に気にしないから・・・」
そこまで言ってからクワリンパは急に首を振った。
「って、違う違う!! そんなことが言いに来たんじゃない! えっと、そうじゃなくてだな、その、そうだ、もう部下になれとは言わないから、わたし専属の執事にならないか? それで、ずっとわたしと一緒にいて欲しいっていうか・・・。その、どうかな・・・?」
彼女は言い終えると窺うように上目遣いをして来た。魔族の証拠である黒い翼やら尻尾が生えてはいるのだが、どこからどう見ても美少女にしか見えない。
・・・ふむ、それはそれとして、途中言ってることが、支離滅裂でよく分からなかったのだが、最後の部分を聞く限り、どうやら俺に執事になって欲しいということらしい。
ならば残念ながら答えは一つだ。
「断る。俺はお前の執事になることは出来ない」
・・・信念的に。
部下であろうと執事であろうと、働くことは断固として拒否する。
それに執事ともなれば、彼女の身の回りの世話やスケジュール管理など、非常に忙しく立ち回らなくてはならないだろう。
それこそ、俺の怠惰道に真っ向から反する行為だ。
「なるほど。あくまで魔族の・・・魔王様の軍門には下らないというわけか。やはり誇り高い人間のようだな、ミキヒコは」
いや、何やら勘違いしている気がするぞ?
誇りなんてものは多分、母のお腹の中に残してきたと思うが。
「だが、私も魔王4軍のうち1軍を預かる魔将軍クワリンパだ。軍門に下らないとなれば、もはやミキヒコ・・・あなたを・・・貴様を殺さなくてはならない」
彼女は悲壮な顔をしながら、
「・・・どうだ、最後のチャンスだ。わたしとともに来ないか?」
と俺に問い掛けた。
残念だが、来ないか、というのは働け、ということだろう。
「何度も言わせるな。俺はお前の元で働くつもりはない!」
「そうか・・・」
クワリンパは残念そうに頷く。
だが、次の瞬間、凛とした表情になって俺に向かって言い放った。
「ならば私はお前の敵だ。もはや、貴様を我が軍に誘おうとは思わん。せめて私の手で葬ってやろう!」
「そううまくいくかな?」
俺はニヤリと笑う。
サボりの力を見くびるなよ?
だが、クワリンパも負けじと微笑んだ。
「ふふふ、忘れているんじゃないかミキヒコ。私には転移魔法があるんだ。今、この場は引いておこう。だが、いずれ貴様の隙を突いて殺す。人間は必ず眠る生き物だ。私はこれまでも、そうやって数多(あまた)の要人を葬ってきた。幾ら貴様が最高の魔術師であろうとも、人間である以上例外ではない。さあ、夜の恐怖に抱(だ)かれ短い余生を過ごすがいい!!」
そう言った後、クワリンパの姿がその場から掻き消える。
「ご、ご主人様・・・」
ラナさんがかぶっていた布団を脱いで俺に不安そうに問い掛けて来た。
「ん? ああ、続きか?」
「え? い、いえ! 違います。クワリンパちゃんですが本気のようでした。確かに彼女の転移魔法を使えば、私たちが眠っている間に襲いかかることも可能です。鍵をかけていても入ってこれてしまうのですから。ですから、今日から私が寝ずの番をさせていただき、ご主人様の安全を命に代えても・・・」
「ああ、そのことか。心配しなくていい」
俺の返事にラナさんは目を見開いた後、
「で、ですが、いつ殺しに来るか分からないのに・・・」
「んー」
俺はスキル一覧をもう一度確かめてから頷く。
うん、やっぱりあるな。
「本当に大丈夫だ。えーっと、そうだな、無心流魔術にはそういった暗殺を防ぐための魔法も用意されてるんだ。だから問題ない」
俺が適当にそう言うと、ラナさんは「まあ」と驚いたあと、安心したようにホッと息を吐いた。
そして俺を抱き寄せて呟く。
「とても心配しました。もしもご主人様に何かあったらと思うと・・・」
「俺のことをそんなに思ってくれる人はラナさんだけだよ。ありがとう。でも、まあ、万が一、本当に万が一の話だが、俺に何かあったときはラナさんは自由だから」
俺がそう言うと、
「はい。そのときは自由にさせて頂きます」
とラナさんは思ったよりも素直に頷いた。
ふむ、そのあたりは結構あっさりしてるんだな。
「ああ、そうしてくれ」
「ご主人様の後を追わせて頂きますので」
え?
「いや、出来ればそういうことはしないで欲しいんだが・・・」
「とてもその時、生きる意志が残っているとは思えませんので・・・。どうか、その自由だけは頂戴したく思います」
俺の目を見てはっきりと言った。
いつも優しいふわふわとした感じのお姉さんが、今は鉄の様に確固たる意思を瞳の奥にたたえていた。
うーん、これは何を言っても聞かなさそうだな。
まぁ頑張って生き残るとしよう。別に死ぬつもりはないんだし。ラナさんには今まで不幸だった分、幸せになって欲しいしな。
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