第27話 帰宅
「どうだ! 魔王第4軍の指揮官、魔族クワリンパだ! 怖いだろう! 降参しろ! 部下になれ!!」
俺たちをこのモンスター狩りの穴場まで案内してくれたクワリンが、急に笑いだしたと思ったら、少女から悪魔の様な姿に変身したのである。
・・・が、なんというか、クワリン・・・じゃなくてクワリンパか。
彼女の姿の変わったところといえば背中には真っ黒な羽を生やし、いかにもなしっぽが生えただけである。
元日本人であった俺からすると、よくできたコスプレでしかない。
なので、正直全然怖くない!
っていうか、ちょっと勝気な表情をした可愛い小悪魔コスプレ少女にしか見えないのである。
それに、部下になるというのもありえない。
「えーっと、なりません。ごめんなさい」
俺は即座にお断りする。
なぜなら彼女の言葉に俺にとってのNGワードが含まれていたからである。
まあ、本当なら彼女が俺たちをこの魔の森まで案内した理由なんかを問いただすべきなのだろうが、俺としては彼女の言葉を聞いた瞬間、それすらも不要だと判断したのだ。
クワリンパは俺に断られるとは思っていなかったのか、ガーンといった表情になって焦りだす。
「魔族からの直接の脅しにも屈しないとは・・・私が見込んだ男だけあるな。強いだけでなく、勇気まであるとは・・・格好良い・・・。いや! そうじゃない! おい、ミキヒコ、あなたはきっと後悔するぞ! 私はミキヒコを殺したくない。もう一度言う、私の部下になって仕(つか)えろ!!」
やはりだ。やはり彼女の言葉に従うわけにはいかない。
部下になるわけにはいかないのだ。なぜなら・・・。
「すまない・・・。働くのはちょっと・・・」
そう、それだけは出来ない。
部下になるということは就職するということじゃないかっ!
お友達になるくらいなら大丈夫なのだが、例え脅されようとも、相手が可愛い小悪魔であったとしても、労働だけは断固拒絶しなければならないのである。
それが俺の生き方なのだから。
「くう、意思は固いようだな、ミキヒコ・・・。だが、ますます欲しくなったぞ。そうだ、良いことを教えてやろう。この場所は一度迷い込めば永久(とこしえ)に彷徨(さまよ)うと言われた魔の森! 転移魔法でもなければ森から脱出することは不可能だ! いかにミキヒコが強くとも、この森で餓死することになるぞ!!」
ふむ、と俺は顎に手を添えて考える。そして、スキル一覧を呼び出した。
「私の部下になれば一緒に脱出できる。あっ、別に部下でなくても良い。例えばその、片腕っていうか・・・人間で言う、パ、パ、パ、パートナーとかでも・・・」
「”帰宅部”のスキル発動」
「へ?」
クワリンパの間抜けな声が聞こえたのと、俺の脳内にスキル発動のアナウンスが響いたのはほぼ同時であった。
『帰宅部が発動しました。怠惰ポイントから120ポイントが差し引かれます。怠惰ポイントの充電は残り525ポイントです。ご利用は計画的に』
と、次の瞬間、俺とラナさんは見慣れた宿のカウンターの前にいた。
そう、今日宿泊しようとしていた、2件目の宿屋である。
カウンターの奥にいたオヤジが佇む俺たちを見つけて声を掛けてきた。
「いつの間に入ってきたんじゃ? まぁ良いわい。冒険者ギルドのカードは発行してもらえたんかの?」
俺とラナさんは懐から仮登録のカードを差し出したのである。
というわけで俺たちは無事に俺たちは部屋を借りることが出来たのだった。
◆◇◇◆
「はー、やっと休めた・・・」
俺ベッドの上でグダグダとしていた。
もちろん、ラナさんを抱き枕にしながらである。
やっぱりラナさんのおっぱいは柔らかくて良い匂いがするなぁ。
「本日はたくさん動かれてお疲れでしょう。ゆっくり私の胸の中でお休み下さい」
そう言って俺の頭を抱きかかえてヨシヨシと頭を撫でてくれる。
うーん、癒される。
しかしラナさんの言うとおり今日は100年分くらいの労働をしてしまったような気がする。
まあ、その甲斐(かい)あって薬草を一つ入手することが出来たからよしとするか。
「ご主人様、ところで先ほど使用された魔法は、やはり転移魔法なのですか? おとぎ話か何かで聞いたことはありますが、実際に見たのは初めてでした。やはりご主人様は、すごい魔術師様なのですね」
俺は彼女の質問に答える。
「いや、クワリンパが使用したような、場所を選ばずに転移できる魔法じゃない。あくまで自分が拠点としている場所へ戻るだけの魔法だ」
だから”帰宅部”というスキル名なのだ。
恐らく、学校から一直線に自宅へと帰るための魔法である。
学校での部活動や放課後の雑談などを一切拒絶する強力な魔法と言える。
「それでもすごいです。きっと彼女も・・・クワリンパちゃんもご主人様のその力が欲しかったから、魔の森へわざわざおびき寄せ、勧誘したのでしょうね」
そうなんだろうな。
俺は何となくラナさんのスベスベとしたお腹を撫でながら考える。
ラナさんの体は全体的に柔らかくてサラサラとしている。
だからどこを触っても気持ちがいいが、特にお腹はぷにぷにとしていて具合がいい。
「んっ・・・」
だが、手がお腹の上を動くたびに・・・特におへそ辺りを撫でると、彼女は押し殺したような声を上げる。
なぜだろう? ああ、きっとくすぐったいんだな。
そう思っているとラナさんがその白い肌を少し赤くしながら口を開いた。
「あ、あのご主人様、それ・・・」
「ごめんごめん、くすぐったかったかな。もうやめる」
「そ、そんな・・・やめて頂く必要はありません・・・。途中でやめられては生殺しです・・・いじわるです・・・ですから、その、ほかの所も遠慮せず・・・」
「?」
ラナさんがよく分からないことを言っているが、俺は思考を続ける。
いちおう言われたとおり、手はお腹をなでなでとしながら。
まあ、ともかくだ、クワリンパの目的は俺の勧誘だ。恐らくあのダークオークを倒した瞬間でも見ていたのだろう。もしくは、魔将軍とか言ってたから、直接の上司だったのかもしれない。
だが、相手が誰であろうと曲げてはならない信念がある。
そう、クワリンパが俺に労働を課そうとする以上、彼女は俺の明確な敵だということだ。
魔の森という雑魚モンスタースポットを紹介してくれたことには感謝するし、結果として薬草を手に入れられたことも彼女のおかげかもしれない。
だが敵だ。
今度再び俺に労働を勧めてきたら、そこははっきりとさせるとしよう。
と、そんなことを俺が考えていると、ラナさんが「あっ!」とすこし高い声を上げて、俺を今までよりもずっと強い力で、ぎゅーっとしばらく抱きしめた。
うぐぐ、おっぱいで窒息しそうだ!
ちょっとイタズラが過ぎたか。
俺が謝ろうとした瞬間、ラナさんが俺をおっぱいから引き剥がした。
そして、俺が何かを言う前に、馬乗りのような形になる。
なんだなんだ?
「ご主人様、わたしのご主人様・・・ラナは・・・ラナは・・・愛しています」
なぜかラナさんは目を潤ませて、俺にゆっくりと口づけしてきた。
俺はよく分からないながらも、彼女の体を抱きしめて口づけを受け取る。
「んっんっ、ちゅっちゅ、好き、大好き・・・わたしの王子様・・・」
ラナさんがそんな風に荒い息を吐(つ)きながら、俺の唇に吸い付いていた時である。
「こっ、ここかあああああああああ!!!」
そう言って、クワリンパが部屋に飛び込んで来たのであった。
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