第24話 安かろう

「で、なんでそんなことしてくれるんだ?」


確かにこちらとしては助かるけど、そっちにメリットがないんじゃないか?


「だから、多少は報酬をいただくわよ。あくまで商売よ、商売」


ああ、なるほどね。


つまり優しい先輩冒険者が、初心者の俺たちのためにアドバイザーを買って出てくれているということだ。


「なるほど、確かに受付嬢も、誰に協力してもらっても構わないと言っていたな」


「そりゃそうよ。冒険者なんて基本的には結果が全てなんだから。誰と組もうが結果を出せればそれでいいのよ」


まあ超絶ブラック職業だもんな。


死ぬこともある訳だし。


結果が全てという考え方にもなるだろう。


「で、ちなみに幾らなんだ?」


「お、ちょっと乗ってきたわね。良心価格よ、1万ゼルで良いわ」


確かに安いな。普通に働いた場合の日当程度じゃないか。


「本当に良いのか?」


「いいのいいの。その代わり、さっさと済ませたいのよね。やるならこれから、今すぐよ」


それはえらい急だな。俺としてはラナさんのおっぱいを堪能するという重要な仕事があるのだが・・・。


とは言え、相手の言い分も分かる。


こんな安い仕事に時間をかけすぎては割に合わないだろう。あくまで良心からの提案というわけか。


ふーむ・・・。


「ラナさんはどう思う?」


「私も冒険者業についてはよく知らなくて・・・。先輩がアドバイスしてくださるならありがたいですね」


そうだな・・・。確かに冒険の”ぼ”の字も知らない俺たちだけクエストをこなすのは効率が悪い。


つまり怠惰時間を結果として削ってしまうだろう。


だとすれば、目の前の怠惰を選ぶことは逆に怠惰道から外れると考えることも出来る。


まあもちろん、もろもろの心配はあるんだが。


例えば、何せ相手はまだ出会ったばかりの少女。


実は詐欺を働こうとしているだけかもしれないのだ。


けれど、それも含めて何とかなるかな、と俺は感じた。


「いいよ、そのサービスを買おう。で、どこでどういったクエストをこなすんだ? あまり面倒なのは嫌だぞ?」


「え? 本当? よっしゃあ! あ、いえいえ、うふふ、大丈夫よ。それに面倒じゃないクエストっていうんなら、むしろモンスターを倒す方が単純で簡単よ? 採取やお使い、護衛なんかはすごく時間がかかるから」


それもそうだな。確かにモンスターならぶっ倒して、指定部位を持ち帰れば終わりだ。


やはり、先達(せんだつ)の言葉は色々とためになる。


安物買いの怠惰失いという格言があるくらいなのだから。


「というわけで、今回はモンスター討伐をしましょう。常に出てる依頼だから安心してね。ああ、もちろん弱い奴しか相手にしないから大丈夫よ。そういう森に行くわ。スライムを倒しましょう。あ、それからね、移動もラクチンよ。だって、実はわたし移動魔法の達人なの。だから今からひとっ飛びよ」


「へえ、そりゃすごい」


それにスライムか、なら大丈夫そうだな。何せ弱いモンスターの代名詞だ。


すういうことならあまり危険なこともなく、すぐに終わるだろう。


「じゃあ、手をつないで。呪文を発動させるから。あ、私の名前はクワリン。よろしくね!」


俺とラナさんも軽く自己紹介をしてからクワリンと名乗る少女と手をつないだ。


ぐわんぐわんと視界が揺れる。


と、次の瞬間俺の視界はブラックアウトし、周囲に鬱蒼とした木々が生い茂る見知らぬ場所に到着していたのであった。



◆◇◇◆



「到着したわ。ここが魔の森よ」


「へー、なんだか思ってたよりおどろおどろしい場所だなあ・・・」


木々はぐねぐねと曲がっており、霧なのか瘴気なのか分からないがうっすらと靄(もや)がかかっていて視界がよくない。


しかも遠くからは獣か何かの恐ろしい咆哮が聞こえてくる。


「はい、ご主人様。それに何だか色んな視線を感じます。丸で獲物を狙っているような・・・」


ラナさんが怯え始めたので、俺は彼女の手をそっと握ってやる。すると、彼女は安心したように俺に体をくっつけてきた。


だが、警戒する俺たちに対して、クワリンと名乗った少女は笑って言う。


「あはは、気のせいよ、気のせい。弱いモンスターしかいない初心者用の狩場なんだからさ。しかもここ、あんまり人も来ない穴場スポットよ? せっかく転移魔法で連れてきて上げたんだから感謝してよね」


ふーん、誰も来ないのか。でも、それだと何かあった場合に救援を呼ぶこともできないが・・・。


けれどまあ、確かに誰にも気兼ねしないで済むというのは利点ではあるか。


「とりあえず礼を言っておこう。移動に何時間もかかる場所は、俺の無心流魔術とは相性が悪いからな」


そう言うと、なぜか興味津々といった表情で少女が俺を見つめた。


「へ、へ~、ミキヒコが使うのはそういう魔術なんだ。ちなみに、どういったことができるの? わたしちょっと見てみたいな~」


そう言って何かを窺うように視線を向ける。


だが、そこをペラペラと喋るほど俺の頭はお花畑ではない。


「悪いが魔術は隠蔽することが基本でな。教えてやることは出来ないんだ。それよりもクワリンはまだ小さいのに、よくこんなすごい魔法が使えるな?」


逆に俺が問い返すと少女は、


「えっ!? あ、そ、そーかなー? 魔法使いならフツーだよ? ふつー」


急に興奮しながらフツーを連呼しだした。


「そうなのか? いや、俺も俗界には降りてきたところなんでな。常識には疎いんだ。勘弁してくれ」


「そ、そうなんだ。う、うんうん、許しちゃう。私って昔から転移魔法が得意でね。色んな国とか場所に行ってるんだ。だから、色んなスポットを知ってるわけ。この場所も、そういうわけで見つけたんだよ」


なるほど、そういうことか。


「弱いモンスターを狩れる絶好の穴場ってわけだな?」


俺がそう言うと、クワリンは「えっ?」と首をかしげてから、


「ああ、そうそう。うん、弱いのばっかりだよ。スライムが多いんだ。多分、楽勝だよ?」


何だか変な間があったような気もするが、まあ良い。


さっさと倒して、ラナさんとちゅっちゅするとしよう。


と、その時、ガサリという物音とともに、俺たちの背後から巨大な紫色の塊りが出現したのであった。

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