第23話 うさんくさい者

「おうおう! てめーFランクのくせに綺麗な姉ちゃん連れてんじゃ・・・ベキッ!」


「俺たちにも少しばかりご相伴に預からせて・・・バキッ!」


「あ、あいつらは新人つぶしのミカッドル兄弟!! あの若い冒険者たちヤベーぞ、誰か助けて・・・え?」


ドゴォッ!! ドンガラガッシャーン!!!


誰かに声をかけられたと思って顔を上げると、木製のテーブルを椅子をひっくり返し、頭からビールをかぶった柄の悪そうな二人組が床で伸びていた。


どうやら俺が無意識に極小攻撃を発動させたらしい。


ま、正当防衛なので問題ないだろう。多分。


「人の女に手を出そうとするからだ。ラナさんは俺のだし。さあ、行こう」


「はい、また助けていただきました。すごく格好良かったです・・・」


ラナさんが腕を絡めて来て、俺に体を密着させる。


「あ、あいつらあのCランクのミカッドル兄弟を一撃でのしやがったのぞ・・・」


「すげえやつらだ、Bか・・・もしかしたらAランク冒険者に匹敵するんじゃねえのか・・・」


とか後ろのほうがうるさいが、まったく興味がないので聞き流す。


そんなことよりも大事なのはラナさんである。


女性の気持ちなんて俺には分からんが、体が少し震えてるのはやはり怖かったからだろう。


とは言え、俺には女性にかけるいい感じの言葉など思い浮かぶはずもないので、


「怖がることない。とりあえず俺のそばにいれば大丈夫だから」


そんな身も蓋もないセリフを言う。


まあ安心なのは本当だけどな。


なにせ充電は完了していて、あと995ポイントもあるし。


「は、はい! わたしはご主人様の女です! ずっとそばにおります!!」


だが、ラナさんはとても嬉しそうにそう言ってから更に体を密着させてきた。


うむ、おっぱいが腕にあたって気持ち良いことこの上ない。


「うーん、気持ちいい」


おっと、知らないうちに口から本音が漏れた。


どうもラナさんと一緒にいると口が軽くなるのである。


だが、ラナさんは俺の言葉を聞くと優しげに微笑み、おっぱいが特に俺の腕に当たるように体勢を少し変えてくれた。


ぐにぐにとこれみよがしに押し付けてくる。


そして、


「どうですか? 好きなだけご堪能くださいね?」


そう言って来た。


・・・やはり天使である。


俺たちはそ

んな風にイチャイチャしながらギルドを出た。


さて、クエストであるが、俺としては薬草採取のミッションをこなすつもりである。


薬草採取は国が常時受け付けているクエストで、難易度もFランク。サンプルも先ほど見せてもらっているので、街の外を適当に探せば見つかるだろう。


俺のような面倒くさがりには、これくらいのクエストがちょうど良いのだ。


・・・が、今日のところはとりあえずここまでとしたい。


仮カードはゲットしたので宿には泊まれるようになったし、クエストに取り組むのは別に明日以降で良いからだ。


今日は色々働きすぎた。はっきり言って、そろそろ宿に引きこもりダラダラしたいのである。


俺がそんなことを考えていた時であった。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


そんな声が俺たちの後ろから投げ掛けられたのである。



◆◇◇◆



俺たちが振り返ると、そこには一人の藍色の髪をした少女がいた。


肌は浅黒く、わりと気の強そうだ。小悪魔のような容姿と言うべきなのだろうか?


俺よりも一つか二つ程度年下に見える。


ローブをまとっていて魔法使いのような印象だ。


杖などは別に持っていない。


「あの・・・お二人に販売したい商品があって声を掛けさせてもらったんです」


「え? 俺たちに?」


「はい。さきほどギルドで冒険者登録をされましたよね?」


どうやら、俺たちを追ってギルドから飛び出してきたようだ。


だが、一体どんな商品を売りつけようと言うのだろう。


基本的に俺は訪問販売では、話すら聞かずにお断りする方なのだ。


ラナさんとさっさとイチャイチャしたいしな。


「悪いが、俺が君から買うようなものはない。すまないが、他をあたってくれ」


「ちょっ、いきなり断らなくても! ・・・あっ、いえいえ、話だけでも聞いていただけないでしょうか。きっとお役に立つ情報ですから」


情報ねえ。


こういうのは話を聞くだけで相手の術中だったりするんだよな。


だから、初めから話すら聞かないのが常道なんだが・・・、


「ご主人様、どうでしょうか、話だけでも聞いてさしあげませんか?」


俺は驚いてラナさんの顔を見上げる。


ふむ? なんとなくだが普段の表情と違うような気がした。


表面上は穏やかそうでいつものラナさんなのだが、どこか思いつめたような瞳なのだ。


ま、普段お世話になっているラナさんにそう言われては、俺としては断ることはできない。


その商品とやらを買うかどうかはともかく、話くらいは聞いても良いだろう。


「おお、そこの女は話がわかるわね! あ、いや・・・ではなくてですね、ありがとうございます。それでは早速ですがご説明させていただきます。お二人は冒険者登録をしたばかりだと聞きました。ということは、本登録に進むために、何か1件、クエストをこなす必要があるはずですね?」


俺たちは頷く。


「薬草採取でもしようかと思ってるんだ。街の外に生えていると聞いたんでな。サンプルは見たんで多分大丈夫だろう」


「えっ!? あ、そうなんですか。・・・あーえーとですね・・・」


なんだ、いきなり言葉に詰まったぞ?


「どうしたんだ? 話は終わりか?」


「いっ、いや違う! あっ、いえいえ、違います。えーっとですね、あ、そうそう。今の時期は薬草採取はおすすめしません! 最近、冒険者に採取し尽くされて減っているのです。なかなか見つかりませんよ!」


へえ、そうなのか。だとすると別にクエストにしたほうがいいかもしれないな。


「じゃあ、お使いのクエストでもするか?」


「そうですね、それでしたら私もお手伝いできます」


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待った! なんであんたそんなに強いのに、クズクエストばっかり選ぶのよ! モンスターの討伐とかに行かないわけ!?」


おいおい、口調が素になってるぞ?


「興味ないからなあ。で、結局君の商品というのは何なんだ?」


「え? ええ。はぁ、もう疲れたから言っちゃうけど、しばらく私を仲間にしない? ってことを言いに来たのよ。仮登録から本登録に進めるための、まあお手伝いをしてもいいわよ、ってこと。どうかしら?」


その言葉に俺とラナさんは顔を見合わせたのであった。

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