第22話 暗躍する者もいたり
「ほう、アレが我が直属の部下ゲラゲロを打倒した者か・・・」
その視線は真っ直ぐに二人の人間の姿を捉えていた。一人は珍しい黒髪の少年。歳は15、6といったところだろうか。もう一人はその男よりも少し年上の美少女だ。
「魔王4軍のうち1軍を預かるこの魔将軍クワリンパに歯向かえばどうなるか、思い知ることになるだろう・・・」
くっくっく、とその魔族は笑う。
その姿は一見すればまだ10前半の少女にしか見えなかっただろうが、背中には羽を持ち、悪魔のごときしっぽも生やしている。
そして何よりも、その身より溢れ出る瘴気と邪悪さは隠し様もなかった。
まさに悪のカリスマを権化というべき存在である。
何とか今は体全体をすっぽりと覆う魔封じのローブをまとい目立たないようにしているが、それを外せばたちまち街は地獄と化すであろう。
「くっくっく・・・。ん? あいつら周りを何か確認してやがんな。ま、まさか、こっちの視線に気づいたってのか!? ・・・いや、違うな、すぐに視線が外れたし。ん? 今度はなんかお互いの顔を見つめだしたぞ? それが徐々に近づいて行って・・・、わっ、わっ、あ、あいつら今、道端でキスした!?」
魔族の少女はウブだった。
「こ、こ、こ、こんな屋外で、キ、キ、キ、キスなんて!! な、なんてハレンチなんだ!」
そんな風にしばらく悶える。
とてもではないが、あんな光景をずっと見ているわけにはいかない。
心臓が破裂してしまう。
少女は少しばかり目を閉じて彼らのキスが終わるのを待った。
そして、頃合だろうと思い顔を上げた時、
「あれ? アイツらどこ行った?」
そこにいたはずの二人はすっかり姿を消していたのである。
◆◇◇◆
俺とラナさんは宿のオヤジさんに勧められたとおり冒険者ギルドへとやってきた。
ギルドで冒険者カード・・・いわゆる身分証を入手して、宿へと泊まるためである。
「あそこのカウンターで登録受付をしてくれるみたいですね。並びましょうか、ご主人様」
「ああ」
ラナさんの言葉に頷いて列へと並んだ。
2、3人が並んでいるだけだから、すぐに順番が回ってくるだろう。
ざわ・・・ざわ・・・
俺たちが列に並ぶと、ホールでたむろしていた何人かの冒険者たちがニヤニヤと笑ったり口笛を吹いたりした。
うーん、これは・・・。
「なんでしょうか。どうも皆さんご主人様の方を見ていらっしゃるようですが」
知らぬは本人ばかりなりといったところだな。
まあ、事実を伝えて驚かせても仕方ない。注意だけはしておこう。
「ラナさんは余りひとりで行動しないようにね。美人だから誘拐されたりすると思うから」
「え? は、はあ。ご主人様ったらおかしなことをおっしゃるんですね。うふふ、私のような端女(はしため)をさらうようなもの好きはいませんよ?」
だめだこりゃ。
おっぱいが大きくて金髪でスラッと背が高い、優しげなお姉さん的性格の天使が微笑んでいるようにしか見えないのだが、本人のその自覚はないようだ。
男どころか神様でもまず放っておかないレベルなのだが。
と、そんなやりとりをしているうちに俺たちの番になった。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。初めてですよね? 新規登録をされますか?」
俺は頷く。
ちなみに、ラナさんも冒険者登録をしておくつもりだ。今後、宿屋以外でも身分証が役に立つかもしれないからな。
「当冒険者ギルドでは・・・」
「はいはい、ふむふむ」
とまあ、退屈な説明を聞き流す。要するにクエストはSランクからFまであるらしい。
ちなみに冒険者もSからFまでランク付けされるらしい。
両者のランクは釣り合いの取れた難易度になっているという。
だが、クエスト受注は自己責任なので、特にどれを選ぶかは制限されないそうだ。
俺たちは初心者なのでFランクからのスタートだ。だが、Sランクのクエストを受注することは別に問題ないらしい。しないけどな。
あと、特定の採取部位は冒険者ギルドで換金してくれるとのことだ。
以上だいたい終わり。他にも色々と注意事項なんかも言ってくれたのだが、まあ良識に沿って行動しましょうといったところだ。
だが、一番面倒なことを受付嬢は最後に言った。
「では、仮登録カードをお二人分、発行致しますね」
「え? 仮ってどういうことですか?」
俺の質問に受付嬢は答える。
「はい。ギルドではただの身分証としてカード発行を求める方を除外するために、一旦仮カードを発行します。いちおう仮カードも身分証代わりにはなりますが、その効力は1ヶ月で失効します。それまでに最低一つ、クエストを達成して頂く必要があります。達成後に本登録、並びに正式な冒険者カードを発行しますので」
げ、そうなのか。これは想定外だったな。
・・・まぁ、でも考えてみれば合理的か。
確かに身分証のためだけに冒険者ギルドに登録されてしまうのは防がなくてはならない。本当に冒険者になりたい人間なら、1ヶ月の間に1つくらい、クエストをこなすことは当然だろう。
「了解しました。何でも良いんですか?」
「はい。薬草採取でもお使いでも討伐でも護衛でも何でも結構です。誰に協力してもらってもかまいません。社会に貢献してくださいね?」
ニコリとして受付嬢は笑う。
くっそー、俺ともあろう者が社会に貢献するハメになるとは・・・。
「まぁ、仕方ないか、さっさと何かクエストを選んでこなしてしま・・・」
俺がカウンターを離れ、愚痴を言いかけた瞬間であった。
「おう、てめーら待ちな!!!!」
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