第10話 人の形
「ほう、貴様が魔術師のミキヒコとやらか。貴様の奴隷が大変な粗相をしでかしてくれたんだぞ? 一体どう落とし前を付けてくれるんだ?」
「ふむ?」
「あろうことか、ジキトラ様に口答えしたばかりか、寛大な御処分にも反抗的な態度を取って愚弄したのだ」
「むむー?」
「仮にも公爵様の御子息様の御意向・・・そう来れば公爵様の御意向も同然」
「ほー?」
「つまり、ジキトラ様が黒と言えば黒なのだ。それをあろうことか奴隷の身分で意見するとは、これは主人もろとも罰せねばならんな!」
「へー?」
「貴様、先ほどから真面目に聞いておるのか!!」
「いや、いちおう聞いてはいたけどな、聞くだけ無駄だったかなーって」
「なんだと!!」
唾を飛ばして怒鳴り声を上げる部下のおっさん。汚いから勘弁して下さい。
それに、そもそもだなあ。
「俺は馬鹿なんで色々言われても理屈はよく分からんが、お前らが貴族かどうかなんて知ったこっちゃないんだ。早く帰れ。依頼も受け付けるつもりはない。俺はラナさんと昼までゴロゴロしたいだけなんだ。充電の邪魔すんな」
そう言ってシッシと手で追い払う仕草をする。
それを見たおっさんは顔を紅潮させて、今にも躍りかかって来そうな雰囲気だ。
ううむ、何か気分を害することを言ったかな?
だが事実なのだ。俺にとっては相手が貴族かどうかなどどうでも良い。
俺の事は俺が決める。それがシンプルながら俺の方針なのである。
が、そんな部下の左後ろに隠れて居た、いかにもキザっぽい若者・・・俺よりは少し年上くらいだろうが・・・が前に進み出て来た。
何やらニヤニヤとしている。
「うーん、これは大問題だね。あろうことか僕たち貴族を愚弄するような発言を主従ともどお繰り返したんだからね。これは厳罰が必要だね!!」
そう言って、見下すような目線で俺たちを見て来た。
いや、具体的にはラナさんの胸とかをジロジロと見ているようだ。
うーん、ちょっと鬱陶しいな。
まぁいい。いちおう聞くだけ聞いてやろう。
「罰って何だ?」
ふふん、とジキトラ・・・いや、貴族のボンボンはキザっぽく髪をかき上げながら言い放った。
「そうだねえ。貴族の僕に対してこれだけの粗相を働いたんだ。本来なら即刻死刑! と言いたいところだが、僕は寛大なんだ。最後のチャンスをやろう。そうだね、まず、君には不釣り合いなそこの奴隷・・・ラナとか言ったかな? それは僕が持って帰ることにしよう。没収だよ。そして、君・・・ミキヒコとか言ったかな? そうだな、君には炭鉱で・・・」
「御主人様から引き離されるくらいなら舌を噛んで死にます!!」
ちょっ、ラナさん、せめて最後まで言わせてあげて!
ほら、言葉を最後まで言えなくて、イケメンの貴族のボンボンが口をぱくぱくしてるじゃないの。
「ふ、ふん、何と言おうが運命は変わらないさ。さ、連れていけ」
「はっ!」
そう言って、部下がラナさんの腕を掴もうと手を伸ばす。
けれどお客さん、お触りは禁止ですよ?
ガシャン!!!!!
「・・・・・・・・・え?」
バカ息子のジキトラの間抜けな声が響いた。
恐らく、こいつには何が起こったか理解できていなかったはずだ。
それはそうだろう、俺がスキルを使用して部下のおっさんを思いっきり弾き飛ばしたのだから。
おっさんは廊下で泡を吹いて伸びている。
『極小攻撃が発動しました。怠惰ポイントから5ポイントが差し引かれます。怠惰ポイントの充電は残り240ポイントです。ご利用は計画的に』
へいへい、せいぜいこの後、ラナさんを抱き枕にして充電する事にしよう。
「きっ、君!! 抵抗する気かっ!!!」
いや、当たり前だろう。さっきから何言ってんの?
「だから、お前は何なんだよ。人様の部屋の前まで来て、さっきから何を意味不明なことを捲し立ててるんだ? 貴族ってのはお前みたいに馬鹿ばっかりなのか? 俺の言ってることが分からないなら、医者に診てもらえ、な?」
貴族か何か知らないが、迷惑なことこの上ない。俺はただのんびりとしたいだけなのだ。
「くっ、ぐぐぐっぐぐぐぐ」
うわ、何か呻き始めたぞ?
「ぐぐぐ・・・はは、はぁーはっはっはっはっは!!」
と思ったら笑い始めた! 何だこいつ、頭がおかしくなったのか?
「これ程僕を愚弄したのは君が始めてだよ。覚えておくといい! 部下100人を連れて、必ず殺しに来るからな!! それまで首を洗って待って居るといい!!」
「ん? この後、復讐しに来るってことか?」
「ははっ、そうだ! せいぜい残り短い余生を怯えて過ごすがいい! はーはっはっは」
「そりゃまずいな」
「今さら怯えてもどうしようもな・・・ぎえっ!!」
うわ、えげつない声を出したな。まあ、しょうがないか。
『極小攻撃が発動しました。怠惰ポイントから5ポイントが差し引かれます。怠惰ポイントの充電は残り235ポイントです。ご利用は計画的に』
了解、了解。あと一発だけだ。
さて、と。
俺は吹っ飛んだ貴族のバカ息子とその部下の前に立つ。あ、鼻血出してやがる。かなり間抜けな面だな。
「ぼ、僕に手を上げて、ひ、ひい、ど、どうなるか、分かってるんだろうな・・・!」
お、ちょっと手加減気味に放ったせいで気絶しなかったらしい。
・・・かわいそうに。これからされることを考えたら気絶していた方が幸せだったろうに。
「お、恐ろしい拷問にかけてやる・・・簡単には殺させないぞ? お前の前でその女を辱めて、考えうるすべての拷問を試してやる・・・! も、もう、いくら僕に命乞いしても助けてやるつもりはない。せいぜい、後悔するんだな!!」
ふうん、やはり俺への殺意はなくなってないらしい。ま、もうその方が心置きなくやれるってもんだ。
「なら仕方ないなー。正当防衛ってやつだからなー」
そう言って俺は拳を振り上げた。
「ぐっ、なっ、何をするつもりだ!? ま、まさか僕を脅すつもりなのか!?」
俺はその言葉を聞いて心底呆れる。
「・・・お前、本当に馬鹿なのか? どうして人を殺そうとしておいて、自分が殺される可能性を考えないのかね?」
俺は溜め息とともに、前見た時にスキル一覧にあった技を思い出し、使用を決定する。
「ま、待て! 僕を殺せば兵が動く! それに殺しをすれば幾ら隠しても証拠が残るぞ! そうすれば君が逃げ切ることは不可能だ!! どうだ、ここは僕に素直に謝罪するというのは! そうすれば命だけは助けて・・・」
「さっきからペラペラとうざい」
俺はそれだけ言うと、手を振り下ろした。
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