第9話 馬鹿息子

「あら、誰か来られたみたいですね・・・どうも公爵様の御子息、ジキトラ様・・・という方のようですが」


そうみたいだな。くそう、せっかく気持ちよくまどろんでたというのに、ベッドから出たくねえよ・・・。


「私の方でとりあえずご対応させて頂きましょうか」


「そうだな頼むよ。俺はこうやって何もしないでダラダラ・・・精神修養する事が必要なんだ。というわけで申し訳ないんだがラナさん、隣の部屋で、ちょっと用件を聞いておいてくれないか?」


「はい、承知しました」


ラナさんは身だしなみを整えると部屋から出て行った。


うん、こうやってとりあえず用件だけ聞きに行かせられるのも、奴隷を持ったことの利点だな。一人だったら全部自分で対応しないといけないもんな。


そういえば前世でも人付き合いが面倒で色々とずさんだったなあ。


いやあ、地球でよく社会生活送ってたな俺・・・。いや、送れてなかったから周りから顰蹙(ひんしゅく)かってたのか。


と、俺が再びベッドの中でまどろんでいると、玄関口の方が騒がしくなり始めていることに気が付いた。


何だよも~、ゆっくり眠らせてくれよー。一体、なんなんだよ?


俺は耳を澄ます。


「貴様ぁ、ジキトラ様を公爵様のご子息と知っての狼藉か! さっさとミヒキコとやらをここに呼んで来ぬか!!」


「そう言われましても御主人様は別件で立て込んでおりますので・・・。あの、ご用件でしたら、まずは一旦私が伺いますので・・・」


「奴隷如きがでしゃばるでないわ! ミヒキコとやらが中にいるのは分かっておるのだ! ジキトラ様もご多忙の身、それをこのような薄汚れた、下々の者たちがいる場所まで、わざわざお忍びでお越しになられたのだぞ!!」


「お忍びかどうかは存じませんが、ともかく私はご主人様からご用件を代わって聞くように言われておりますので・・・」


「話にならん! ジキトラ様、どうなさいますか?」


「ふむ、そうだね。出入りしている奴隷商から腕の立つ魔術師がいると聞いてやって来たが、とんだ無駄足だったようだね。こんなに礼儀知らずの奴隷がいるようじゃあね。うん、よし、そのミキヒコとやらは僕に無礼を働いた罪で死刑、ということにしちゃおうじゃないか。依頼があったんだけど、他に頼める宛てがないわけじゃないからね。あと、そこの奴隷の君。なかなかの美人だから、ぼくのハーレムに加えてやるよ。さ、出発の準備をしなさい。なあに、感謝の言葉はいらないよ? 君にとっても悪い話じゃないだろう?」


「そ、そんな! いかに公爵様のご子息でも、その様な無法が通る訳がありません!」


「ふん、何が無法だ。父に言えば法などどうにでもなるさ。特に君みたいな奴隷が何を言おうと、誰も聞いちゃくれないよ」


あ、こらアカン。


俺はいそいそとベッドから抜け出す。


しかしあの奴隷商、なかなか口が軽いな。一言俺のことは他言無用と釘を刺しておけば良かったぜ・・・。


「さ、分かったら僕とともに来るんだ。そうだな、君が一緒に来るなら、ミキヒコとやらは国外追放の処分だけで助けてやろう」


「おお、寛大な御処分ですな。さすがジキトラ様です。さ、娘よ、言う通りにするのだ」


「い、嫌です。私は御主人様とずっと一緒にいるんです!」


「うん? 何を言ってるんだい? まさか、将来公爵の子息である僕よりも、そのいかがわしい魔術師とやらを選ぶっていうのかい?」


「当たり前です! 例え私が殺されようと、ミヒキコ様を殺させたりはしません。私の命と引き換えにしてでも、御主人様を守ってみせます!!」


あー、確かそんなこと言ってたな。あれは本気だったのか・・・。しかし、普段はふんわりした印象なのに、言うときは言うもんだ。


「はぁ、とんだ所に来ちゃったな。もういいや、両方とも殺しちゃおう。いや、半殺しにして持って帰ろうか。拷問して楽しむとしよう」


「はっ、分かりました。馬鹿な奴だ。抵抗せずジキトラ様のもとに来れば、女としての幸せを手に入れられたものを」


「そんなものは頂く必要はありません! それに、幸せならもう既にご主人様からもらっています!!」


「ふん、生意気な! これでも喰らうが良い!」


ガギン!!


鋭い音が周囲に鳴り響く。そして、一瞬遅れてドスっ! という音も聞こえて来た。


「はあ、人の部屋の前で何してるんだか。ダラダラするという重要な用事をこなしてたってのに」


それは俺が貴族の部下の剣を弾いた音と、その際に根本からボキリと折れた剣の柄が、木製の廊下に突き刺さった音である。


『極小防御が発動しました。怠惰ポイントから5ポイントが差し引かれます。怠惰ポイントの充電は残り245ポイントです。ご利用は計画的に』


同時にアナウンスが俺の頭の中に響く。


消費5ポイントの軽い攻撃をしのぐためのスキルが自動発動したのだ。


「きっ、貴様、何のつもりだ!」


厳(いか)つい筋骨隆々とした男が、唾を飛ばしながら聞いて来た。


「いや、ここ俺の部屋の前なんだけどね? 超近所迷惑なんですけど」


俺の言葉に男が額に青筋を立てたのが分かった。

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