第7話 充電出来てる・・・

「御主人様・・・、御主人様・・・、朝ですが、どうされますか? 起きられますか?」


「んー?」


俺が寝ぼけて返事をすると、唇に柔らかい何かが押し当てられた。


そしてそのまま、


「どうなさいますか? このままもう一眠りされますか?」


と俺の唇をついばむようにして誰かが聞いて来る。うーん、何だか気持ち良いぞ。


えっと、俺は今どこに・・・ああそうか。異世界に転生したんだったな。


それで、そうか、昨日は盗賊を倒したり、怠惰ポイントとかがあって・・・、そう言えば充電をどうしたら出来るか考えるの、結局出来てないな・・・。えーっと、それから、そうだラナさんっていう、ちょっと年上のお姉さん奴隷を手に入れたんだった。


と、そこまで考えて急速に意識が覚醒してくる。


「・・・あれ、ラナさん何して・・・」


俺は途中まで口を開きかけるが、その口を塞ぐようにラナさんの唇が重ねられた。そして長いキスの後、唇をついばむようにしながら話し掛けてくる。


「おはようございます、私の御主人様、御目覚めですか? チュ。今は昨晩ご命じられた朝のご奉仕中ですよ? ん・・・どうですか? 起床されますか? ちゅっ、それとも・・・ん・・・はぁ・・・もう少しお眠りになられますか?」


何かめっちゃ情熱的だ。俺、そんなに好かれることしたか? あと、それ以上されると下半身がやばいです!


俺は誤魔化すようにオーダーを出す。


「えっと、じゃあ食事で。軽くでいいから」


「分かりました。今運んでくるので待っていて下さいね? ちゅっ」


そう言ってラナさんは部屋から出て行った。


うーん、朝からあんな美人なお姉さんのチューで起こして貰えて、朝ごはんも持って来てもらえるなんて・・・これは・・・。


「実に怠惰で良し!」


俺はそう納得して、起きる・・・と見せかけて、もう一度ベッドにもぐりこむ。彼女が食事を持ってくるまでもう一度まどろむつもりなのだ。食事もベッドの上でとろうかな。


あ、でもその前に一つ考えておかないといけないことがあった。


そう、怠惰ポイントの『充電』のことだ。一体如何やったら貯めることが出来るのか、これは早い目に解明しておかないといけない。何しろ、この能力が俺が異世界で生きていくための生命線なのだから。


さて、どうすれば増やすことが出来るのか?


確か昨夜の時点で充電残量は50ポイントと言われていた気がするが・・・?


と、俺が怠惰ポイントの充電残量が幾らだったか思い出そうとすると、いつものアナウンスが俺の脳内で流れた。


『怠惰ポイントの充電は残り230ポイントです。ご利用は計画的に』


うん、いつも通りのちょっと女性っぽい音声のアナウンスだな。充電残量も230ポイント。昨夜から変わってないな・・・。


「って、増えてるじゃねーか!?」


230ポイント!


つまり、昨晩の50ポイントに比べて180ポイントも増えているのだ。


えっ、どういうことだ? 俺、何かしたか?


「いや、してないよなー・・・」


ほんっとーに何もしていない。していたことと言えば、ラナさんとベッドでイチャイチャしていただけだ。そして、そのまま眠ってしまった。


怠惰というか駄目人間というか、異世界に来て一日目ならもっと色々とすべきことがあるはずなのに、ほとんど何もしていないのだ。


さぼりも良いところである。さぼっていて180ポイントも増える理由なんてあるはずが・・・。


ん? さぼり? それに180ポイント?


俺は少し思い当たる節があって、うーんと頭を巡らせる。


「えーっと、俺が宿屋に着いた時間はいつだったかな?」


馬車で運ばれている間に奴隷商ワムさんにさりげなく聞いたところ、この世界の時間の考え方は地球と同じ24時間ということだったはずだ。で、宿に着いたのは確か・・・そうだ、多分午後4時頃だったはず。


そこからは基本的にダラダラしたりラナさんのチューしたりオッパイに顔を埋めたりしながらベッドで眠りこけていたはずだ。


「えっと、今の時間は?」


俺が時間を確認しようと部屋の中を見回すが、そうだ、この部屋には時計ってものがないのだ。


と、そこへラナさんが帰ってくる。


お盆に載せられた食事は二人分のお粥とミルクだ。ラナさんには俺と同じものを食べる様に言ってある。抵抗されたがソコは押し切った。


「ラナさんラナさん」


俺が呼ぶとラナさんが「はーい」と言って、俺の傍まで寄って来る。


「今、何時頃か分かるかな?」


「そうですね、太陽の上り具合からすると10時頃です」


「なるほど。ありがとう」


やっぱりそうか!


俺は心の中でガッツポーズを作る。何が「やはりそう」なのかというと、充電の法則に気が付いたのである。


そう、俺がベッドでダラダラとし始めたのが午後4時、そして今の時間が午前10時。つまり、18時間差なのだ。


怠惰ポイント、というのは要するに、俺がダラダラとさぼったり、のんびりしている時間に比例して充電されていくのではないか?


そして、その単位はおそらく、1時間に10ポイント!


つまり、1日ダラダラしていれば最大240ポイント貯めることが出来る、というわけだ。


「素晴らしい・・・」


「何か言われましたか?」


「あっ、いや、何でもない」


俺は慌てて首を振る。だが、ついついニヤけてしまう。


だって、本当に素晴らしい能力なのだ。


一体何がそんなに素晴らしいって、俺が能力を使用しようとした場合、その前に必ずダラダラしないといけないのだ。


それが実に素晴らしい。


前世で俺は余りの怠け者っぷりに、家族からも社会からも、親からも教師からも落伍者の烙印を押されて久しかったのだ。


だって、しょうがないじゃないか。ダラダラしたいし、ゴロゴロしたいのだから・・・。


だが、この世界で俺は幾らダラダラしても怠けても怒られることはない。なぜなら、そうしないと能力が発動できないからだ!


逆に何か努力したり、頑張ったりしている時間・・・昨日ならば盗賊を倒したりしている時間は怠惰ポイントが減少するばかりとなる。


そう、俺は合法的にダラダラと過ごす権利を手に入れたのだ!


まさに完全勝利!!


俺にとって怠惰に過ごす日常こそが、この世界においては最大の修練になるということだな。


いや、実に素晴らしい!! 神様、転生させてくれて本当にありがとう!!


「御主人様? あの、お食事はベッドの上で取られますか?」


おっと、しまった。ラナさんが食事を持って来てくれたんだった。


「ああ、そうするよ」


「では、お手伝いさせて頂きますね? ちょっと熱いですから、ふーふー。はい、あーんして下さい」


な、なんだと・・・。このお姉さん、人を甘やかす才能に溢れすぎではないか? まあ、頂くんですけどね。


うん、味の方も大丈夫。日本にいた時の味と変わらないな。普通にお米っぽい。


「こういったお食事でよろしかったですか? 朝は軽めのものが良いかと思って、昨晩のうちに宿の店主に伝えておいたのですが・・・」


「うん、むしろこういうのが良い。朝は小食なんだ。あ、それから今日も今後も基本的には何もせずに過ごすからよろしく」


「はい、承知しました。私はご主人様の身の回りのお世話をさせて頂きますね?」


「ああ、よろしく頼むよ。とりあえず食事したら、お昼まで寝る。あ、そうだ、またラナさんに抱き枕になってもらおうかな?」


俺が冗談でそう言うと、ラナさんはにっこりと笑う。


「はい、もちろんです。いっぱい可愛がってくださいね?」

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