第5話 ラナさんラナさん
「というわけで、もう一度自己紹介だ。俺の名前は
奴隷商のワムさんに近くの街シュヴィンまで馬車に乗せてもらい、その後、信用の出来る宿を紹介してもらった。部屋は寝室と居間の二つで出来ていて、俺たちは現在、居間でお互い椅子に座って自己紹介をしているところだ。
何せ馬車の中は異様にぎすぎすしてしまっていて自己紹介どころではなかったからな。
なんでラナなんかが選ばれるんだ、きっと魔術の人体実験の材料なんだ、といった悪意ばりばりのぼやきが聞こえてきたりしたので、とてもラナさんと会話するチャンスなどなかったのである。
いやあ、女の子同士のいじめって怖いね。
ちなみにラナさんなら無料で良いと言って譲り受けた。服や靴もサービスしてもらっている。
「けほけほ。はい、よろしくお願い致します。私はラナ・シュライアーツと申します。歳は16です」
とすると俺よりも少し年上だな。
ワムさんに聞いたところ家事などは一通り出来るらしい。また、教養も高いらしい。ただ・・・。
「さっきから咳をずっとしてるけど長いのかな?」
俺の質問にラナさんはとても済まなさそうな顔をする。
「はい、本当に申し訳ありません。お医者様に診てもらったこともあるのですが、手に負えないと言われてしまいまして・・・。あと、本当に申し訳ないのですが、よく体調を崩して寝込んでしまうのです。今も少し熱がありまして・・・。あ、もちろん、家事はしますので」
うーん、そうか。俺も小さいころは結構病気がちだったから大変なのは分かる。
何とかしてあげたいところだが・・・。
「あっ、そうだ」
俺は『怠惰ポイント』のことを思いだす。
一体どういう能力なのか今一つ分からないが、今のところ俺がピンチのタイミングで”絶対防御”と”極大攻勢防御”とかいう力が発動している。
確か、消費ポイントはそれぞれ100ポイントと150ポイントだったはずだ。そして、充電残量が250ポイントだったはず。
今の残量が幾らなのか分からないが・・・
『怠惰ポイントの充電は残り250ポイントです』
うおっ、残量を確認したいと思ったら頭の中にアナウンスが流れた。最初は無機質っぽいと思ったが、どちらかと言えば女性よりだな。機械っぽいような感じはするが。
ま、それはともかく・・・ふうむ、色々と試したいところだが、とりあえず現在の残量は250らしい。
俺が今からすることが、そもそも『怠惰ポイント』を消費して出来ることなのかどうか、出来る事だとしても『充電』が足りているのか不明だが、試してみる価値はあるだろう。
「ラナさんラナさん、ちょっと手を出してくれる?」
「あ、はい。汚れていますがよろしいでしょうか。あ、それから私のような奴隷相手に”さん”付けは不要ですよ?」
「うーん、ラナさんの方が年上だし、身長もちょと高いしね。だから、そこは大目に見てよ」
俺の言葉に驚いた表情をするラナさんだが、俺はかまわずに彼女の手を取ってあることを念じる。
どうだろう、いけるかな?
『完全治癒を発動しました。怠惰ポイントから200ポイントが差し引かれます。怠惰ポイントの充電は残り50ポイントです。怠惰ポイントの充電をしてください』
よし、行けたっぽい!
俺は期待してラナさんの表情を見る。
すると、ラナさんの青白かった顔色にたちまち朱が差し始め、先ほどまでずっとしていた咳が止まっている。
成功だ!
どうやら完全治癒というだけあって、彼女の病気を治してしまったらしい。
「な、何かされたのでしょうか? 何だか体がいつもと違うみたいなんですが」
突然体の調子が変わってしまって戸惑っているようだ。全部を話してしまうのは得策じゃないだろうから、うまくごまかしておこう。
「修業時代に習った回復魔法で治療したんだ」
「す、すごいです。色々なお医者様に見てもらいましたし、その中には魔法使いの方もいらっしゃいましたが、どんな魔法を掛けてもらっても駄目だったのに。盗賊から救って頂いた時も思いましたが、やはり御主人様は大魔術師様でいらっしゃるんですね」
と、尊敬のまなざしで俺の方を見てくる。
いや、ただの怠け者です。本当に申し訳ありません。
だが、うーん、あんまり出来の良い人間と思われるのはあとあと困りそうだな。何せ怠惰に過ごすのが人生の方針なんだから。ここは釘を刺しておこう。
「いや、本当に大したことじゃないんだ。今の治癒魔法でほとんどの魔力を使ってしまった。しばらくは大した魔法を使うことは出来ない。だから、しばらくのんびり過ごさないといけない」
うん、いちおう嘘は言ってない。
さっきのアナウンスで、怠惰ポイントの充電は残り50ポイントだと言われているからだ。例えば絶対防御は100ポイントを使用するから、今何者かに襲撃されればその効果はおそらく発動できないということなのだ。
そしてアナウンスはこうも言っていた。充電しなさい、と。
だから俺はしばらく宿にこもって、怠惰ポイントの『充電方法』が何なのか調べなくてはいけないのだ。
「そうなのですね・・・。私なんかのために貴重な魔力を使って頂いたのですね・・・。ええ、大丈夫です。もしも今、何者かが襲って来ても私が命に代えてもご主人様をお守り致しますから!」
そう言ってラナさんは椅子から立ち上がってぐっと拳を握りしめた。
「そ、そうか。よろしく頼むよ」
「はい~」
病気が治ったら本来の明るさが戻って来たらしい。
どうやらもともとの性格は、少し天然なお姉さん系なのかね。
と、その時、ラナさんが窓から外の様子を見て口を開いた。
「そろそろ夕食のお時間ですね。私も作れますがどうしますか? 下で注文して持ってくることもできますが」
「いや、実はお腹は減ってない。今日は色々あって疲れたからもう寝たいんだが」
俺がそう言うと、ラナさんは顔を真っ赤にして、しばし立ち尽くしたのであった。
どうしたんだ?
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