第4話 奴隷の少女ラナ

「ど、奴隷ですか?」


「ええ、そうです。あまりお詳しくはないですか?」


「は、はあ・・・」


俺が驚きでうまく反応できない内に、ワムさんは流ちょうな口調で奴隷というものについて語ってくれた。


いわく、奴隷は王国に認められた正式な商品であるらしい。基本的には借金奴隷と犯罪奴隷があり、前者は借金さえ返せば自由の身になれる。といっても、奴隷をしながらお金を稼ぐことは難しいし、主人が良い顔をすることは稀なのだが。反対に後者は刑期のような扱いらしく、そもそも街にはいない。戦争の前線やきつい重労働に行かされるようだ。


主人と奴隷は奴隷契約を結ぶ。奴隷は基本的に主人に絶対服従だが、主人は理不尽な暴力を振るってはならないし、ちゃんと奴隷の衣食住を保証しなくてはならない。


奴隷は奴隷の首輪というものを付けられていて、主人を傷つけたり逃亡が出来なくなっているとのことだ。なお、主人のみ、その首輪を外すことが出来る。


「だいたい以上です。どうですか、うちの商品をご購入されませんか? 高級奴隷として販売する予定ですので一級品がそろっていますよ?」


そういってワムさんがずらっと馬車の前に並ぶ少女たちを見せてくれる。全員で5名いて、ぶっちゃけみんな可愛い。


が、まあそこはぶっちゃけ二の次だな。


ああ、もちろん、俺が別に女の子に興味が無い訳ではない。紹介された少女たちはみんな可愛いし、俺が前世で話すら出来そうになかったレベルの子ばかりだ。俺は何をするのも面倒に感じる駄目人間だが、不能だったりあっちだったりする訳じゃない。


ただ、俺の優先順位は、ともかく俺をのんびりとさせておいてくれることなのだ。だから、あまり周りで忙(せわ)しなくされると困る。ともかく昼はいつまでも眠らせていておいて欲しいし、最低限のことさえしたら後は放っておいてほしい。仕事だって最低限生きていけるだけの分をしたら後はだらだらと過ごしたい。


なので、あまり元気な子や、やる気が高い子はダメだ。あと美人すぎる子やばっちり化粧をきめている子も厳しいだろう。前者の子たちは何か活動しようとするだろうし、後者の子たちには裕福な生活をさせてあげないといけないだろうから俺が頑張って働かないといけなくなる。


奴隷を持つことで、ダラダラのんびり怠惰に過ごせないのなら、本末転倒だ。


この世界の事を知らない俺としては、奴隷を通じて色々なことを教えてもらうのは悪くないんだが、この中から選ぶのは厳しいかな? 何せ(良い事なのだが)みんな元気で明るそうだ。


いや、むしろギラギラとした目をしている。恐らく、それなりの主人に買われることを望んでいるからだろう。本当は違うが、俺自身は今のところ、盗賊たちを一瞬で打倒したヒーローに見えているだろうから、自分を売り込むつもり満々なのだ。


参ったな、やっぱり彼女たちの中から選ぶのは難しそうだ・・・。


と、そんなことを考えつつ5人の少女たちを見ていると、他の子たちに比べて見劣りのする子がいることに気が付いた。


あ、さっきもワムさんに言われて俺に渡すお金を持ってきた子か。


他の少女が堂々と立ち並ぶ中で、隅っこの方で大人しくしていて、俺と目を合わせても無表情のままだ。あ、そう言えばこの子、盗賊に襲われた時に真っ先に犠牲にされそうになっていたな・・・。顔が青白くて、さっきから頻繁に咳をしている。顔立ちが悪い訳ではないし、背もスラっと高いのだが、他の子たちが髪の毛から爪まで徹底的に磨かれているのに対して、彼女だけが金色の髪の毛はくすんでいてぼさぼさで体も薄汚れている。立つのもつらいらしくフラフラとしているが、何かの病気なのだろうか?


「えっと、この5人の中から、っていうことですよね?」


「えっ? ああ、失礼いたしました。おい、ラナ、お前は外れていなさい。命の恩人のミキヒコさんにご紹介するには余りに貧相だ」


うわ、はっきり言うなあ。だが、ラナと呼ばれた少女はうなずくと後ろに下がって行った。


うーん、とすると4人の中から、ということになるのか。ただ、残念ながら俺に合いそうな子はいないっぽい。


俺はワムさんにこっそりと告げる。


「すいません、ちょっとこの中には・・・」


「そうですか・・・。いえ、街に行けば私の娼館の方にもっとお勧めの奴隷たちがいるのです。そちらで用意しているのは更に磨きのかかった美しい少女や、教養豊かな元貴族の令嬢もおります。そっちをご紹介しましょう」


えーっと、どうやら俺とは絶対に相性が悪そうだぞ。


これは話が大きくなる前に収集を付けた方が良さそうだが・・・。


あっ、そうか!


「さっきからずっと咳をしてた子がいましたよね?」


「えっ、ああ、ラナのことですか? いやあ、失礼を致しました。ミキヒコ様ほどの大魔術師の身の回りをさせるにはとても器量が・・・」


「いえ、そうではなくてですね、むしろ、あの子を譲ってくれませんかね?」


一番覇気がなくて、活発そうではなくて、化粧もしてなくて、それほど裕福な暮らしも求めていなさそう。うん、俺にぴったりじゃないか!


だが、思わず興奮して大声で指名してしまった俺の言葉に、その場にいた全員がしばし固まった。


そして数秒後、ラナを除いた他の女の子たちから、悲鳴じみた声が上がったのであった。


いや、俺が特殊なだけですので、そんなに悔しがらないでくださいね?

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