第2話 恋又は確認
「昨日補修サボったでしょ
名も知らぬ不思議なアルビノ少女と邂逅した翌朝。いつも一緒に登校する幼馴染である
「その様子は、先生にフォローしといてくれたんだ。わざわざありがとう」
「早退扱いにしといたよ、こういうのはあんまりいい気分しないから今回きりね」
そういうとナズナは先に歩き出してしまう。仕方がないので慌てて追いかける。彼女には6年前、朧気にしか思い出せないが傷心中であった自分に世話を焼いて貰ってから何かと頭が上がらなかった。後に本人の言によると「放っておいたら死にそうだったから仕方がなく」とのことだが、その後も何かと親しい友人として関係が続いているので、彼女が基本的に面倒見がいいのだろう。
そんな事を考えていると、実はサボり自体にはそれほど怒っていなかったのか興味が移ったのか昨日の事を尋ねられる。
「サボった後、何か良い事でもあった?」
「なんで分かるのさ?」
「スッキリした顔してるもの」
そんなに顔に出ていたか、指摘されるほど丸分かりだとは気を付けねば。
「昨日、偶々会った子に成り行きで悩みを聞いて貰っちゃって」
「私じゃ駄目なの?」
「僕たちじゃ、お互い気心知りすぎてるだろ」
「ふーん、そういうものなんだ」
個人的には親しい間柄だと恥ずかしく、赤の他人にならその場限りの関係なので何でも話せるという感覚に近かった。
「どんな子だったの」
「恥ずかしながら年下の女の子です」
「自首する?」
「冗談よしてくれ。……ここらで見かけないアルビノの子だったんだけど名前聞きそびれちゃったんだよね、何か知らない?」
「……年下でアルビノ?」
一瞬ナズナの足が止まる。期待していなかっただけにその反応が予想外で心廻はつい気になって聞いてしまった。
「心あたりでもあった?」
「ううん、特に。……唐突な性癖暴露で驚いただけ」
「い、いや、そういうつもりじゃないです……」
嫌な返しをされて言葉に頭を抱えたせいか、その後続いたナズナの独り言は心廻に届かなかった。彼女の普段は柔和な表情がその時ばかりは真剣そのものであったが、それを心廻は気づかない。
「そうか、あの子が動きだしたのね」
「……え、何か言った?」
その言葉の真意など当然認識するまでもなく、何事もなく他愛のない話をして登校するのだった。
───
時刻はお昼休み、心廻はもそもそと購買のパンを食べていると同じ食卓で弁当を食べ終えたらしきナズナが雑談のタネとしておもむろに尋ねてきた。
「心廻、貴方って恋はしないの?というか興味がなさそう」
「君は保護者か」
「世話は焼いてるね」
「……だとしても、ナズナはいつから恋を語れるほど偉くなったのさ?」
「君よりも上ではあるよ」
「モテるからって偉そうだな」
「フフッ、誉めなくても良いのに」
ナズナは日本ではそれなりに珍しい金髪でさらには端正な顔立ちをしている。そのため彼女に告白する男子が少なからずおり、その悉くが振られていた。その様子から色恋に興味がないと思っていたが向こうからその話を振ってくるのは意外だった。
「で、実際はあるの?」
「僕は恋を愛してみたいお年頃なんだ」
「何それ?」
僕の言葉に首を傾げる。無論その一言だと言葉が足らないので続けて説明する。
「恋は冷めて消え、愛は燃えて狂うって言うだろ?それじゃあ駄目だ。消えるぐらいなら愛して狂う方がマシ」
「詭弁ね、愛と恋両方入れ替えても成立するでしょ」
「ナズナと付き合いたいとか言うよりもマシだろ」
心廻としては適当な軽口のつもりだったが、ナズナは存外真面目に受け取ったらしくこう返してきた。
「ふむ、ならその言葉通り、私とかどう?」
その言葉に心廻は露骨に顔を顰める。お互い何かと長い付き合いで仲も良い。それに加えナズナは目鼻立ちが良く客観的に見ても美人の部類だ。普通の青少年なら慕情に繋がるものだろう。だが心廻にそれは当てはまらない、その理由もナズナは察していない筈も無いが敢えて聞いてきたのだ。
「僕はこの関係を無理に変える必要はないと思うし、この
「だろうね、心廻は人間関係だろうがお金だろうが何だろうが手放すことが怖いんでしょ」
「昔からこうなのは知ってるだろ」
「だから意外だった、昨日抜け出して帰った事が」
「自分でも投げ出すのは意外だった。でもそもそも無謀なんだよ、全部を全部手放さないなんてことは」
慕情を得る為に友情を犠牲にしたくない。心廻としては極度の変化を恐れる保身的思考と言われればそれだけだが、対象が目に見えないものまで含まれているのは稀有な部類だと思っていた。
心を立てば世間体が立たず。馬鹿馬鹿しいかもしれないが心廻にはいたって真面目に考えるべきことであった。言い換えればそれだけ6年前に両親を失ったトラウマは心に未だ根深く刺さっていた。もう何も失い、別れたくないというトラウマが。
「でも自分より年下の女の子に甘えるのは良くないと思うの」
「それには返す言葉もございません」
道を踏み外しかけた友人を止める為ならばと心廻と恋仲になるぐらい仕方ない。それはナズナにとって許容できる範囲の事なのだろうか?世話を焼かれても、世話を焼いた経験はあまりない心廻はイマイチ分からなかった。その事を尋ねようにも丁度昼刻の終わりを告げるチャイムが鳴ってしまいそのままお開きとなってしまった。
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