第197話 買い物へ行こう!①

 土曜日。時刻は午前10時50分。

 最初に改札口に着いたのは海里と綾佳だった。

 

「皆んなまだ来てないね。こーゆうのは10分前行動が基本なのに」


「そうだな。だけど5分前でもギリギリセーフでいいと思うんだが?」


「ダメだよ!例えばだけど10分前に仕事先に着き、5分前に着替えを終えて仕事をするのは基本なんだよ!これが遅れると凄い怒られるんだから!」


「そ…そうなんだ」


 綾佳の謎の説得力に海里は苦笑した。

 そんな感じでくだらない話をしていると、レイナと麗音がやって来た。


「お待たせしました。麗音さんが準備が遅くて、私まで遅れてしまいましたわ」


「っな!?私ではなくて、レイナの支度が遅かったんだろ!!それがなかったら50分には着いていたんだから」


「あら?麗音さんだってお菓子を美味しそうに食べていたではないですか」


「それはレイナがお菓子を出してきて勿体ないと思ったから…つい」


 麗音は虚空を眺め、腕を組みながら呟いた。


(麗音さんはお菓子を食べたんだ…そしたら彼女も遅れた理由に入るかもな)


 海里はチラッと綾佳の方を見た。

 綾佳は微笑したあと、口を開いた。


「はいはい、二人の言い分は分かったから。あまり騒ぐと目立つから静かにしようね」


 麗音とレイナも出掛けるので多少の変装はしているが、明らかにオーラが出ているので少し騒がしくしたら目立ってしまうだろう。


 綾佳に言われて二人は、「ごめんなさい」と言ってしゅんとしていた。


 それからすぐに残りの颯斗と楓がやって来た。


「皆さん、遅れてごめんなさい。私、楽しみすぎて寝坊してしまい…」


「楓が寝坊するなんて珍しいよな。買い物でこんな調子じゃ、プールの時は大丈夫なのか心配だな」


「それは大丈夫。もうこんな失態はやらないから。あと余計なことは言わないでね」


「う…うっす」


 これは寝坊以外にも何かしらあるんだろうな…って思うほど、楓は颯斗のことを睨んでいた。


「ううん!楓ちゃんは全然遅れても怒らないよ!だって、楓ちゃんは可愛いんだもん!」


 綾佳は微笑すると、楓に抱きついた。

 楓は急に抱きつかれて驚いていたが、すぐに慣れて綾佳のほっぺすりすりを受け入れていた。


 というよりも、綾佳は10分前行動が大事って言ってたのに、意見がぶれぶれすぎるだろ。

 そして麗音とレイナの二人が、呆れた顔をしながら綾佳のことを見ていた。


「海里おはよう。今日はカッコいい水着を選ぼうな。それでプールで色んな女の子から逆ナンされようぜ!」


「えっと…逆ナンは求めないけど、カッコいい水着には賛成だな」


「なんだよ〜 可愛い女の子に話し掛けられたくない…うっ———」


 突然颯斗が横腹を押さえながら、そのままひざまづいた。そして颯斗の横から楓が手刀を構えた姿で立っていた。

 

「海里さん、颯斗の馬鹿が変なことを言ってごめんなさい。(私は海里さんの告白を応援してますからね!)」


「ぜ…善処したいと思います」


 楓はそれを聞いて、満面の笑みを浮かべた。


「何の話をしているのー?」


 綾佳が首を傾げながら聞いてきた。

 海里は頬を掻きながら苦笑し、「颯斗が迷惑かけたの話だよ」と言った。

 綾佳は、「ふ〜ん」と言ったあと———


「それじゃあ、皆んな揃ったからそろそろ行こうか!レッツゴー!」


 それに合わせて、他のメンバーも返事をして電車に乗った。


◇◆◇◆


 電車に揺られて30分。

 一行は目的地のショッピングモールへと着いた。

 

「それじゃあ、ここからは女性グループと男性グループに分かれて水着を買いに行きましょう。買い物を終えましたら、フードコートで待っていてください」


 レイナは手を叩いたあと、ニコニコしながら説明をした。それに合わせて綾佳、麗音、楓、海里、颯斗は頷いた。


「よし!海里、俺たちの水着はこっちにあるらしいから行くぞ!」


「落ち着けって。歩きにくいだろ」


 颯斗は海里の首に手を回して、男性水着の売り場まで歩いて行った。


「もう…颯斗ったら。綾佳さんごめんなさいね」


「ううん。それよりも楓ちゃん、今日謝りすぎたからこれ以降は謝罪をするのは禁止ね!」


「えっ!!それは…その…分かりました」


 楓は人差し指をツンツンしながら返事をした。

 その様子を見ていた麗音とレイナは、お互いに顔を見合わせて微笑した。


 そしてレイナは手を叩いて口を開いた。


「綾佳さん。楓さん。私たちもそろそろ行きましょ」


「そうだね!早く水着も見たいしね!」


「は、はい!」


 男性グループから遅れること5分後、女性グループも水着売り場へと歩き出した。


 女性用の水着が売っているのは、男性用の水着と反対側にあり秘密にするのにはもってこいの売り場配置だった。


 4人(綾佳、楓、麗音、レイナ)は水着売り場に着くと、それぞれ好きな水着を手に取りはじめた。


「それで綾佳さんは、今回どんな水着を選ぶのですか?」


「そうだよな。大会の時は赤い水着だったけど、流石に色は変えるよな?」


「うん!今回はかなり大事な日になるから、ちょっと攻めた水着にしようと思っているの。告白は花火の時だけどね」


 綾佳は頬を赤く染めながら呟いた。

 楓、麗音、レイナはその微笑ましい光景にニッコリしていた。


「それじゃあ、お色気マシマシの黒の水着だな」


「黒の水着って…麗音ちゃんの専売特許じゃないの?」


 綾佳の言う通り、黒系は神山麗音の得意とする色だ。以前も水着は黒を選んでいたし、私服も黒系の服ばかり着ている。


 そんな彼女からの提案に綾佳は驚いた。


「そうなんだが、綾佳が黒の水着を着ている姿を想像したら、色気が凄くてな」


「そうですわね…綾佳さんと黒の水着は破壊力抜群ですわ。海里さんだけではなく、邪な男までやって来そうですわね」


「私も綾佳さんの黒の水着は賛成です!綾佳さんと海里さんの空間は私たちが守ります!!」


 麗音、レイナ、楓は真面目に言っているが、顔はニヤニヤしていた。

 そして楓の言葉に麗音は、「まぁ、ナンパ野郎なんて雑魚だしな」とレイナは、「SPでも雇いますか」と呟いた。


「皆んな…ありがとう。私、絶対に皆んなの期待に応えられる結果を出すね!」


「綾佳さんなら絶対に成功します!」


「そうだぞ。ここまで下準備をして来たんだ。これはもう確定演出でもある」


「海里さんだって同じ気持ちですわ」


 楓、麗音、レイナの言葉に綾佳は目頭が熱くなっていた。彼女たちの言葉がとても嬉しかった。


 綾佳は涙を拭って、口を開いた。


「私、黒の水着にするよ!これで海里くんを悩殺しちゃうよ!!」


「はい!私も綾佳さんの水着に悩殺されます!」


「そのいきだ!」


「それでは私たちも水着を選びましょうか」


 綾佳の水着が決まったので楓、麗音、レイナの三人の水着を選ぶことになった。


 最終的に———


 綾佳は黒の水着。 

 楓は水色の水着。

 麗音は藍色の水着。

 レイナは緑の水着。


 を選んだ。

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