第196話 決意しても彼は何も変わらない

 夏休みを翌日に控えた水曜日。

 朝から教室内にはソワソワしているクラスメイトが沢山見られた。


 今日は授業はなく終業式と担任による夏休みの注意事項を聞いたら解散になる。


「海里くん。いよいよ明日から夏休みだね!」


 綾佳もいつも以上に浮ついた感じになっていた。

 実際、海里も内心は心が躍っていた。


「そうだな。俺も楽しみだよ」


「プールに花火。それに…沢山楽しみがある!」


 綾佳は満面の笑みをしながら夏休みの予定を言っていると、後ろから声を掛けられた。

 振り向くと、手を振りながら颯斗が海里の元へやって来た。


「よっ!朝から楽しそうな話をしているな!」


「うん!明日からの夏休みが楽しみで、もう待ちきれなくて!!」


「俺もだよ。楓とのお出掛けはもちろん、現役アイドルとプールなんて一生分の運を使った気がする」


「おいおい…颯斗は相変わらずだな」


「あはは…楓ちゃんも苦労するね」


 海里と綾佳は顔を引き攣りながら、颯斗の話を聞いていた。


 颯斗の話を楓が聞いたらまた彼女が何かをするかもしれないと思い二人は見逃すことにしたが、当日に何かするかもなと予感はしていた。


「そんなことより、水着買いに行くのは明日だよな?何時頃行くんだ?」


「それなんだけど、私やレイナちゃんと仕事があるから土曜日になると思う」


「………ん?俺、海里と二人で行くつもりだったんだが、何故女子グループも来る話になっているんだ?」


 颯斗は首を傾げながら質問してきた。

 海里はコラボ配信の打ち上げの時に、レイナと話したことを颯斗に伝えた。


「なるほど。それで女子グループも一緒にいる感じになったのね」


 颯斗は腕を組みながら頷いた。


「颯斗くん…ダメ…かな?」


「そ…そんなことはない!なんなら、神山麗音さんや佐倉レイナさんともお出掛けが出来る!こんなご褒美を断る理由がありませんよ!」


 綾佳の上目遣いで颯斗は承諾してくれた。

 海里は颯斗を見つめながら、チョロい男だなと思いつつ、楓に粛清されてしまえと同時に思った。


「ありがとう!」


「それじゃあ時間を決めたいのだが———」


 海里が待ち合わせ時刻を決めようとした時、担任が前方のドアを開けて入ってきた。

 

 なので、話の続きは放課後にすることになった。


◇◆◇◆


 放課後。三人(海里・綾佳・颯斗)は駅前にあるファーストフード店に集まっていた。

 颯斗は楓も呼んだが、学校でやることがあるらしく来れなかった。

 レイナと麗音に関してはメッセで情報共有が出来るので、綾佳が後で教えることになった。


「それで待ち合わせ場所と時刻だが、どうする?」


 颯斗はポテトを食べながら聞いてきた。


「水着はショッピングモールで買うつもりだから、11時くらいがベストかもね。待ち合わせは駅前とか?」


「駅前だな。その方が分かりやすいし、すぐに見つかりそうだしな。時間もそれくらいがいいな」


「分かった。楓にそう伝えとくよ」


「私もグループで連絡しなきゃ!」


 そう言って、綾佳と颯斗は同時に携帯を取り出し弄り出した。

 それらを見ながら何もすることがない海里は、自分の買ってきたハンバーガーを食べながら終わるのを待っていた。


「うん!レイナちゃんも麗音ちゃんもOKでたよ!」


「あの二人返信早いな。仕事ないのか?」


「多分だけど、たまたま昼休憩と重なったんだと思うよ。あっ、楓ちゃんも大丈夫だって」


「……はっ?俺の所に楓から返信来ないのだが。既読も着いてないし、どうゆうことだ?」


 颯斗は視線を綾佳の方に向けて、目を大きく見開いていた。


「それは私に聞かれても…ね。楓ちゃんならすぐに返信してくれると思うよ。多分」


「まぁ、颯斗のことだから何かしら感じ取ったんだろうな。最近の楓ちゃんは直感が凄そうだし」


「海里に瀬倉さんまで…俺、どうしたらいいんだよ」


「どうしたらいいも何も、普通に楓ちゃんだけを見てるしかない。何度も言っているが、彼女の前で他の女性と出掛けられて嬉しいはやばい。今すぐやめろ」


「そうだね。あれに関しては私も同意見。彼女の前であの言葉を聞いたら流石に別れたくなる。それでも嫌な顔をせずに一緒にいてくれる楓ちゃんにちゃんと感謝しなよ」


 海里と綾佳は颯斗に厳しい言葉を言っているが、友人カップルがお似合いだと思っているからこその言葉である。いわゆる、二人からの愛の鞭だ。


「そうだな…これからは楓に心配を掛けることは何もしない。時々、目移りはすると思うけど…楓一筋なことに変わりはないから!」


 颯斗は胸の前でガッツポーズをして決意した。


 海里と綾佳はお互いに顔を見合わせ苦笑すると、同時にジュースを手に取って啜った。


 そして数分後に颯斗の方にも楓からメールの返信が来て、彼は少しだけホッとした顔をしていた。

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