第192話 午前中はゲーム収録をします
一週間後の土曜日。海里たちは朝から事務所でバタバタとしていた。
今日は午前中にゲーム収録をして、午後からレイナとのコラボ生配信とスケジュールが組んであるからだ。
「綾佳さん。私の方は撮影の準備が出来ましたよ。いつでも収録OKです」
「私も準備は出来ているんだけど、海里くんの方はどんな感じ?」
「あと少しで終わりますわ。今日の海里さんの肌は化粧ノリが良くて塗りやすいので」
綾佳の声にレイナが答えた。
彼女は午後からのコラボ配信なのだが、海里のメイクをする為に朝から来てくれたのだ。
「了解!」
綾佳は敬礼ポーズをしてから微笑し、撮影用の椅子に先に座った。
「海里さん。こちらも準備が終わりました」
「レイナさんいつもありがとうございます」
「私がやりたくてやっているので。それよりも早く撮影場所に行ったほうがいいですよ」
海里は頷き、綾佳のいる場所に向かった。
午前中の仕事を終えたレイナは化粧品類を片付けた後、撮影の邪魔にならない場所に行き二人のことを見ていた。
「お待たせ」
「それじゃあ、撮影を始めようか」
海里は頷き、綾佳は北島に撮影カメラのスイッチを押すように頼んだ。
北島は指で3・2・1とやり、二人に向けて右手を振り、左手でカメラのスイッチを押した。
「皆さんこんにちは!どうも綾佳です!そして隣にいるのは私の自慢のマネージャーの———」
「———海ちゃんです」
「「二人合わせて綾海です」」
最初の挨拶を終えたので、綾佳は次の話題へと話を振った。
「それで海ちゃん。今日は何をやるのかな?」
「今日はゴルフをやります」
「ご、ゴルフ?!この前練習したのはボーリングなのに、ゴルフってどうゆうこと?!」
「視聴者の皆さんに説明しますと、この撮影の前に綾佳とボーリングの練習をしました」
海里はカメラに向かって綾佳の言葉の補足をした。そして彼は、「なので」と言葉を続けた。
「練習をしていない別の競技にしようと思い、結果的にゴルフをやることになったと」
「なるほど…話は分かったよ。だけど一言くらい教えてほしかったな〜」
「あえて言わないのが面白いんだよ。ということで、早速始めましょう!」
「ほんといきなりだねー」
綾佳は微笑しながら、海里と共に準備を始めた。
だけど準備のシーンは編集でカットされるので、一言も話すことなく黙々と手を動かした。
「はい。という訳で準備が出来ましたが、今の気持ちをお願いします」
「とてつもなく不服です。ゴルフで海ちゃんに勝てる訳がない」
「俺だってゲームのゴルフやるのは初めてだから、勝負しないと分からないぞ」
綾佳は、「そーですか」と言ってから頬を膨らせた。そして海里は苦笑しながら、ゲームの設定を進めていった。
「それではキャラも選び終わったので、早速プレイしていきたいと思います。今回は何ターン制にする?」
「そうだね…私、初めてだから2ホールマッチでお願いします!」
「おけ!」
海里は2ホールマッチと書かれたアイコンを押し、ゲームがスタートとした。
第1ホール。
先行は海里になり、海里は勢いよく腕を振った。
海里が放ったボールは真っ直ぐ飛び、バンカー手前でボールは止まった。
「危なかった…バンカーに入るとなかなか出せないって聞くからよかった」
「そのままバンカーに入れば良かったのに…」
「そっくりそのまま綾佳に返してやるよ」
「ふっふふ。私がそんな失敗をする訳ないじゃん」
綾佳は丁寧にキャラの位置を決めていき、勢いよく腕を振った。
ボールはそのまま真っ直ぐに進み、地面に着地をするとコロコロと転がり、グリーンを狙える場所で止まった。
「どうだ!これがトップアイドルの実力だ!」
「いやいや、トップアイドルとかは関係ないやろ。実力は認めてあげるけどさ」
「そんなことを言って、海里くん負けるのが怖いんでしょ〜」
「そんなことないし!!」
海里は自分のターンが来たので、今回はキャラの向きを軽く動かして腕を振った。
ボールは軽く上に飛んでいきグリーンに乗った。
「これで俺は負けることはないな」
「ゴルフの勝負ってどうやって決まるの?」
「………ゲームが終われば分かるだろ」
海里もゴルフのルールを理解していなかったので、綾佳の質問に答えることは出来なかった。
つまりドヤ顔でお互いに言い合っていたが、最後までやらないとお互いに勝ち負けが分からないということだ。
「そうだね!いまは勝負に集中しないとだね!」
そう言って、綾佳はさっさと腕を振った。
ボールは海里と同じく高く飛び、ホールの手前で止まった。
「あー!!惜しい!!」
「危なかった…これは俺も次で決めないとだな」
「いい勝負になりそうな予感!!」
そう言いながら綾佳はホールに入れて、海里も続けてホールへと入れた。
第1ホールの結果はお互いにパーだった。
続けて第2ホールへと移った。
このホールは大広場に行く途中がギザギザになっており、下手したらウォーターハザードになりそうだ。
「このステージはなかなか難しそうだね」
「2ターンで決めてやる」
「それなら私も2ターンで決めるよ!」
今回のステージは綾佳が先行になった。
彼女はキャラを動かさず振り、一直線にボールが飛んでいった。が、崖に当たりぽちゃんと海へと落ちていった。
「な、なんだと。海里くん海に落ちたんだけど。私、泣きたいんだけど」
「こんなことで泣くなよ。とりあえず、俺のターンだから少し離れて」
近づいてきた綾佳を少し離して、海里は自分のキャラを動かした。
腕を振ると、ボールが一直線に飛んでいった。崖に当たることもなく、グリーンに乗った。
「よし!これで俺の勝ちは確定かな」
「まだ分からないよ!!」
綾佳はリモコンを海里に向けたが、彼女はウォーターハザードの意味を分かっていなかった。
ウォーターハザードに入ると、ターン数が1増える。なので、海里が2ターン目の時は綾佳は3ターン目になるのだ。
海里が次のターンでホールに入れたら、ほぼ海里の勝ちは確定だ。
そんなことを知らない綾佳はリモコンを振り、今度はグリーンに乗せた。
「これで分からなくなったでしょ!」
「残念だが、この勝負は俺の勝ちが決まったよ」
海里はグリーンに乗せたボールをパターで軽く叩き、そのままホールへと吸い込まれた。
続けて綾佳も軽く叩きホールへと入った。
「結果発表の時が来ました。それじゃあ、海里くんお願いします!」
綾佳に促されて海里はボタンを押した。
第一位 海ちゃん
第二位 綾佳
結果予想通りだった。
「くぅ〜負けちゃったよ!!」
「綾佳があそこでウォーターハザードをしてくれたおかげで俺が勝てたのもあるな。ありがとな綾佳ちゃん」
「次!!次回の勝負は絶対に負けないから!!」
「受けてたとう!」
海里と綾佳はカメラに視線を向けて、最後の挨拶をする。
「もしこの動画が良かったらグッドボタンを押してね!」
「チャンネル登録もお願いします!」
そしてお互いに顔を見合わせて、「せーの」と言うと
「「またね!バイバイ!」」
と挨拶をした。
これにて午前中の仕事が終わった。
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