第190話 どうしても告げ口をしたい

 綾佳たちが女子会をした翌日。海里は颯斗に呼ばれて喫茶店に来ていた。


「それで話ってなんだよ。折角の休日なのに、出掛けるから綾佳に拗ねられただろ」


「悪かったって。でも楓からの海里に伝言を伝えてくれって言われたんだから仕方がないだろ」


 颯斗は苦笑しながら合掌ポーズをすると、頼んでいたりんごジュースを啜った。  


「伝言?いつもなら楓ちゃんが俺の所に来るのに、わざわざ颯斗に頼むことか?」


「俺、信頼されてなさすぎだろ……とりあえず俺に伝言を頼まれたのは、予定の都合が合わなかった楓が早急に海里に伝えて欲しいことだからって」


「なるほど。そんなに急用を要する伝言なら、颯斗に頼むのも仕方がないな」


 もしそれが例の件なら今すぐに聞かなければならない。だけどおいおいメールをすると言いながらあれ以降なかったのに、ここに来て急展開すぎるだろと思いながら颯斗の言葉に耳を傾けた。


「ほんと海里は俺に辛辣な言葉を言うようになったよな。んで、楓からの伝言だが、『夏休みにプールに行くよ。花火見るよ。ゴー!』って言ってた。最後の"ゴー"ってどうゆうことだ?」


 颯斗は首を傾げながら海里に尋ねた。


「ゴーは皆んなでプールへ行くぞ!見たいな感じだろ。楓ちゃんは楽しみにしているんだよきっと」


 海里は颯斗にこう言ったが、実際には楓の言っていた言葉の意味を理解していた。


 楓が言っていた"ゴー"は、海里にとっては『そこで告白をしましょう』と言っているようなものだ。


「その可能性は高いな(笑) 聞いたところによると俺と楓、海里と瀬倉さんの他に佐倉レイナさんと神山麗音さんが来るって言ってたし」


「………っは?!もはやダブルデートでは無くなってるじゃん!!」


「なんかねー 女子会をしていた時に盛り上がり、そのノリで行くことになったとか言ってた」


「ははは…女子のノリって怖いな」


「そうだな」


 颯斗は微笑しながらりんごジュースを啜った。

 海里も自分の前にあるアイスティーを啜りながら、颯斗の言葉を思い出していた。


『佐倉レイナさんと神山麗音さんも来る』


 レイナも麗音も海里が告白をすることを知っているに決まっている。そして綾佳の方にも何らかの行動があると思う。(これに関しては海里の直感)

 それなのに告白予定の日に彼女たちが来ることになったら、自分は恥ずかしくて出来ないかもしれないと想像していた。


 すると、颯斗はいきなり手をポンと叩き口を開いた。


「それでさ、楓は女子同士で水着を買いに行くらしいんだよ。だから俺らも買いに行こうぜ!」


「水着か…確かに俺も学校指定の水着しかないから、普通の水着はないな」

 

「その水着で行ったら、女子たちに笑われてしまうな(笑) しかも女子たちは水着を真剣に選んで来ているのに、男がそれではカッコ悪いな(笑)」


「ぐぬぬ…それは言えてる」


 海里の頭の中には、その時の様子が想像出来た。

 特にレイナと麗音の二人が、『海里の水着ダサすぎるだろ』や『海里さん。なぜ?』と言ってきそう。


「よし。七月に入れば水着も種類が出てくるだろう。颯斗、予定合わせて俺らも買いに行くぞ」


「おっ!急にノリノリになったな!」


「颯斗には分からないかもしれないが、俺には水着を真面目に選ばないといけない理由があるんだ」


「そ、そうか。それなら俺も佐倉レイナさんと神山麗音さんに素敵だと言ってもらえる水着を選ばないと!」


 颯斗は何かを決意したような顔をしながら、胸の前でガッツポーズをしていた。


「相変わらずだな。楓ちゃんに怒られても俺は知らないぞ?」


「海里が楓に告げ口をしなければバレることはない!という訳で、内緒でお願いな!」


 颯斗は右手の人差し指を立てながら口元に持っていった。

 それに対して海里は一言、「分かった」と言ったが、内心は楓に軽く報告はしたいなと思っていた。

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