第183話 楓は綾海のアドバイザー

 放課後、三人(海里・綾佳・颯斗)は楓が待つファミレスへとやって来た。

 店内に入ると、颯斗は座席を見渡して楓を探した。そして彼女を見つけて、その席へと向かった。


「楓、お待たせ。掃除で遅くなった」


「別に…私は颯斗のことを待っていませんから」


 楓はそっぽを向き、すでに頼んでいたドリンクバーの紅茶を飲んだ。

 颯斗は頬を掻きながら、海里と綾佳を先に席へと座るように促した。


 座席は楓の横に綾佳が座り、海里は颯斗と共に座った。


「楓ちゃん遅くなってごめんね」


「 !! 綾佳さんの為ならいくらでも待てます!」


「それで綾佳に話があるらしいね」


「は…はい!!」


 楓は緊張した面持ちをしながら返事をして、「あの…」と言葉を続けた。


「綾海チャンネルの配信を見ました。その感想をメールで伝えても良かったのですが…やはり綾佳さんに直接伝えたくて…」


 楓は下を俯きながら、人差し指をツンツンしていた。そして恥ずかしさと嬉しさにより、顔も朱色に染めていた。


「楓ちゃんも見てくれたんだね!ありがとう!!」


「いえ、それで感想ですが…」


 楓は一息吐くと、もう一度口を開いた。


「もう最高でした!綾佳さんのトークは視聴者と楽しめるようになっていましたし、ゲームも視聴者参加型で初配信にしては完璧です!!海里さんの女装はレイナさんに手伝ってもらっているので完璧でしたが、裏声はもう少し頑張りましょう。他に関しては妥協点ですね。あっ、挨拶もよかったですよ!」


 数秒前までもじもじしていた楓が急に元気になり怒涛の感想ラッシュに、海里と綾佳はお互いに顔を見合わせて苦笑していた。


 颯斗も滅多に見ない早口彼女に、「すげー」とボソッと言いながら三人のことを見ていた。


「楓ちゃんはもう私たち綾海チャンネルのファンだね!もしかしてチャンネル登録も———」


「———しました!というより、配信5分前にはしてました!綾佳さんと海里さんの配信ですもん!」


 楓は微笑みながらサムズアップした。


「海里くん。私、とっても嬉しいんだけど…クラスメイトの感想も嬉しかったけど、楓ちゃんの言葉がとても心に染みる」


「そうだな。楓ちゃんにはかなりお世話になっているから、他の人よりも心が籠っているんだな」


 クラスメイトたちに限っては、綾佳が前日に何かしらのアクションを起こした時に言ってくる。

 それに対して、楓は仕事の感想の他にもプライベートでの相談もしている。

 きっと、その差が綾佳の心に響いたのだろう。


「そんな…私なんてまだまだですよ。まともなアドバイスも出来ていませんし」


 楓は手を振りながら真剣な顔をして言った。


 そんな台詞に海里は彼女からまともなアドバイスを貰ったのにと思いながら、出掛かっていた言葉を飲み込んだ。


「そんなことはないよ!楓ちゃんは私や海里くんに的確なアドバイスをしてくれているよ!楓ちゃんがいなかったら、私も前に進んでいないもん」


「俺も楓ちゃんからの押しの強さのおかげで、色んなことを考えるようになったよ」


「綾佳さん…海里さん…お役に立ててよかったです。私でよければ、いつでも相談してください」


 楓は瞼にうっすら涙を浮かべながら、綾佳と海里をそれぞれ見て微笑した。


「ちょっと待て。楓が海里の相談を聞いたのか?!なんで、俺には相談してくれないんだよ!」


 ドリンクバーから飲み物を取ってきた颯斗は、着席しながら海里に言ってきた。


 そう言われても、颯斗に相談をすることは1ミリも考えてはいなかった。彼に相談しても対していい案をくれないし、寧ろ面倒臭い事になると思ったからだ。だけど本人にそんなことは言えないので、誤魔化して言うことにした。


「うん…ありがとうな。気が向いたら相談するよ。(そう…気が向いたらね)」


「気が向いたら…ねか。まぁ、海里がそこまで言うなら俺はいつでも待ってるぜ」


 颯斗はキメ顔をしながらはにかんだ。


 それを見て、海里は絶対に相談することはないだろうと改めて思った。


「あはは…それよりも楓ちゃんから見て、配信の中で物足りないことはあった?」


「そうですね。配信は始まったばかりなので今のところはありませんね。強いて言うなら、グリーンバックを使って背景を変えるのはオススメですね。他の配信者さんもグリーンバックを使って背景で遊んでいますし」


「なるほど…グリーンバックね。海里くん、これはレイナちゃんに言ったら用意してくれるかな?」


 綾佳は手帳を取り出してメモをしながら、海里に聞いてきた。

 海里は颯斗を相手にしながら、彼女の質問に答えた為に口を開いた。


「レイナさんなら用意してくれそうだけど、レイナさんに頼りすぎるのもアレだし、自分たちで用意してみない?」


 レイナに頼めばすぐにでもグリーンバックは用意できるだろう。だが、レイナに頼りきりでは彼女がいなくなった時に何も出来なくなってしまうと考えた。


「そうだよね…レイナちゃんに頼りきりはダメだよね。うん、頑張って探そう!」


「あの…!私も海里さんや綾佳さんのお手伝いをしたいので、提案した身としてグリーンバックは私も探します!」


「楓ちゃん…ありがとう」


 綾佳は椅子に座りながら器用に楓に抱きついた。

 その行動に楓は顔を赤く染めたが、大ファンである綾佳に抱きついてもらえたので我慢をしてその時間を堪能することにした。


「海里… 俺も何か手伝えることがあったら言ってくれよな。楓にいい所を取られたくないわ」


 海里は颯斗の台詞に、「はいはい」と頷いた。


 そして四人はデザートを頼み、配信のことや学校の話をして解散した。

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