第178話 初配信 前編

 いよいよ配信開始一分前になった。

 レイナは起動したパソコンを操作し、配信できる状態にした。さらにゲーム機本体とパソコンを同期して準備万端となった。


「それではお二人とも準備はよろしいですか?」


 開始15秒前になりレイナは席を2人に譲り、準備が出来たか確認を取る。


「大丈夫だ。心の準備も出来ている」


「私も大丈夫だよ」


「では配信を開始します」


 レイナは頷き、配信を開始した。


「皆さんこんにちは!どうも綾佳です!そして隣にいるのは私の自慢のマネージャーの———」


「———海ちゃんです」


「「二人合わせて綾海です」」


 開始早々、綾佳の考えた挨拶をした。

 海里は恥ずかしさを堪えながら、最後まで言い切った。綾佳に至っては胸の前でガッツポーズしながら喜んでいた。


『綾佳ちゃん待ってました!!』

『うぉぉぉ!!!!!海ちゃん!!』

『綾海最高だよー!!』


 配信のコメント欄には次々と流れて行く。

 同時接続者数を見ると、一万人を超えていることを確認できた。


「綾佳。同時接続者数が開始すぐに一万人超えたぞ」


「ほんとだ!!皆んな、生配信見てくれてありがとうね!チャンネル登録もよろしくね!!」


 綾佳は画面に向かって手を振った。それに倣い、海里も画面に向かって手を振る。


『もちろん!チャンネル登録したよ!』

『綾海からのお願いなら宣伝もするよ!』

『恥ずかしながら手を振る海ちゃん可愛い』


 コメント欄にはチャンネル登録したよという文章が沢山流れてきた。

 

「今日の配信予定だけど、最初は質問コーナーを数分やってからゲームをやりますよ」


「ゲームは誰でも分かるレースゲームをやるよ」


 二人でスケジュールを話して、早速視聴者に質問を受け付けた。


『海ちゃんは女装して最初感じたことは?』

『綾佳ちゃんは何で配信やろうと思ったの?』

『挨拶のコメントは誰が考えたの?』


 沢山の質問コメントが流れて行く。


「それじゃあ、海ちゃんの女装して最初に感じたことを教えてもらおうかな〜」


「最初の質問にそれを選ぶのかよ。普通は配信やろうとした理由とかだよね?」


「そうかなー?皆んなも女装の話を聞きたいよね?」


 綾佳が視聴者に声を掛けると、コメント欄には『聞きたいー!!』というワードが沢山流れた。


 海里は嘆息したあと、質問に答えるために口を開いた。


「最初に感じたことは、男なのに女の子にしか見えなくて驚いたね。レイナさんの技術に驚いたよ」


「そうだよね。私も最初見た時、マネージャーが別人になったと思ったよ」


「そのあと点数を聞いたら90点で残りは声がダメって言ったんだよな」


「そうそう!今回も声がダメだから、90点ね!」


 初めて女装した時の感想で盛り上がっていると、コメント欄も同時に盛り上がっていた。


『レイナちゃんの力で海ちゃんの女装が出来ているの?!レイナちゃん凄いね!!』

『確かに声は男だね(笑)』

『海ちゃん。ちょっとでいいから、裏声で女の子ぽいのやってみて!』


 今度は女子の声をやってみてのコメントがものすごい勢いで流れて行く。


「ということで、コメントにて多数の提案を頂いた裏声を海ちゃんにやってもらいましょう!」


「……っは?」


「それでは、海ちゃんお願いします!」


 綾佳が海里に合図をすると、コメント欄にも同じように合図をするワードが流れた。


「分かったよ」


 海里は渋々頷き、近くに用意していた水を一口飲み、軽く咳払いをしてから口を開いた。


「わ…私は海ちゃんです。裏声だとこんな感じなんだけど、どうか…な?」


 海里は裏声かつ女の子ぽい仕草をして、ファンサービスを行った。

 が、

 海里は自分がやったことに、段々と恥ずかしくなりそのまま手で顔を覆った。


「海ちゃんは恥ずかしくなって手で顔を隠してしまいました。でも裏声の海ちゃんよかったよね?」


 海里に代わり、綾佳は視聴者に問い掛けた。


『よかったよ!!新しい扉を開きそうかも』

『これなら綾佳ちゃんも満点あげちゃうかな?』

『海ちゃんの仕草がとっーても可愛いね』


 好印象のコメントが流れて、綾佳も嬉しくなった。


「そうだね。今回の裏声チャレンジで海ちゃんの女装は満点になったね!おめでとう!」


「嬉しいような嬉しくないような…とりあえず、満点くれてありがとう」


 海里は顔から手を離し、綾佳の方に視線を向けて感謝を伝えた。


『おめでとう!』

『裏声やらないと、点数下がるぞ〜』

『綾佳ちゃんの男装も期待!!』


 海里はコメント欄の中で一つ気になるワードを見つけ、不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。


「視聴者の人が綾佳の男装を見たいらしいよ」


「…… 私が男装を?!似合わないからやりたくないよ」


「視聴者の人たちが、綾佳の男装を見たいと言っているんだよ〜」


 海里はコメント欄に視線を向けながら言った。


『見たいよ!』

『綾佳ちゃんが男装で海ちゃんが女装。完璧』

『めっちゃ面白そうな企画だね!』


 どうやら視聴者も見たいようだ。

 これは綾佳にもやってもらわないといけないな。

 そう思い、海里はさらに彼女に追い討ちをした。


「皆んなの期待に応えるのがトップアイドルだよね?これをやらないと、視聴者が泣いちゃよ」


「……ぐっ。海ちゃん、それは卑怯だよ」


「やるの?やらないの?どっちにするの?」


「近いうちにやりますよ。SNSにあげますから、期待しててください。(海里くん、覚悟しといてね)」


「(怖いけど、視聴者のためだ)視聴者の皆さん、SNSを確認してね〜!」


 海里の言葉にコメント欄には、『これは期待大!!』『楽しみにしています』と沢山流れていった。


「それじゃあ、いよいよゲーム配信に移るから少しだけ待っててね!」


 ゲーム配信に移るために、二人は準備を始めた。

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