第177話 配信前の準備 後編

 応接室に着くとレイナに、「ここで待ってください」と言われ、海里はドアの前で立っていた。


「綾佳さん。ゲームの調子はいかがですか?」


「最初は虹のコースをやってたんだけど、何回もコースアウトをして泣きたくなった。今は別のコースをやってるよ」


「虹のコースはかなり難しいですよね。私も初めてやった時はコースアウトをしてました。ですが、そのコースアウトでショートカットできる裏技があるのですよ」


「なにそれ?!それを聞いたら、虹のコースを極めたくなるんだけど!!」


 海里はドアの外から彼女たちの話に頷いていた。


 確かにそのコースには裏技がある。とある場所にてコースアウトをすると、下のコースに移動できて一気に一位になれるのだ。だけど成功率はそんなに高くないので、やる人は少ない。自分も数回ほどしかやってことがないのだ。


「配信の時は一つだけに絞ること出来ませんので、他にも慣れないとダメですね」


「だね〜 他のコースにも裏技とかあるの?」


「ありますよ。例えば、アイテムを使ってショートカットをするコースなど」


「なるほど。このゲームはやり込み要素がたくさんあって、遣り甲斐があるんだね」


「そうですわね」


 二人の楽しそうな声はドアの外にいる海里にも聞こえていた。


 が、そろそろ中に入らせてほしいと思っていた。


 海里はドアの扉を叩いて、中にいるレイナと綾佳に声を掛けることにした。


「綾佳、レイナさん。そろそろ中に入ってもいいですか?」


「えぇ、大丈夫ですよ」


 レイナから入室許可を貰ったので、海里は室内へと入っていった。

 中に入ると、コントローラーを持ったまま綾佳が近寄ってきた。


「海里くん。今日の女装の姿はこの前と違って、新しい感じがするよ」


「新しい感じ…?は分からないけど、今回は薄化粧で挑戦したんだよ。レイナさんも自己採点高いし」


「そうなのー?」


「えぇ。今回は自己評価としても高得点を出せました。ですが、満点目指してさらに腕を上げたいと思っています」


「つまり、俺はその度に女装することになるのか」


「そうなりますね」


 海里はそれを聞いて苦笑していた。

 レイナの話は、自分が彼女の実験台になるということだ。まぁ…それは諦めていたから、今更とやかく言うつもりはない。


「その時は私も海里くんの化粧をやりたいな!」


「いいですね。二日間掛けて、どちらがよりクオリティーが高いか勝負するのもいいかもしれませんね」


「そしたらSNSに投稿で、いいね数対決だね」


「私、凄いやる気が出てきましたわ」


「私だって負けないよ。それまでに化粧を勉強しとかないと」


 目の前にいる本人の意思を無視して、どちらかよりクオリティーが高くできるか勝負が決まった。

 だけど、ここで海里が何言っても無視されるだけなので、自分は静観することにした。


「……っと、女装の話はここまでにして、配信の話にしましょうか」


「そうだね。いよいよ配信まで三十分切ったんだね…ワクワクの気持ちもあるんだけど、緊張もしてきた…」


「綾佳さんの気持ちも分かりますよ。誰だって初配信は緊張しますよ。海里さんもそうですよね?」


 突然話を振られて、海里はビクッとした。


「そ、そうだね。俺も緊張しているよ。(女装の評判やちゃんと話せるかなど)」


「うふふ。私と一緒だね。それじゃあ、緊張している者同士、一緒にこの配信を頑張ろうね」


「そうだな。とりあえず、手のひらに3回人の字を書くことにするよ」


「だね!私もあとでやるから、配信直前までやらないでね!」


 綾佳の提案に海里は頷いた。

 すると、レイナが口を開いた。


「お二人とも配信5分前になりましたよ。そろそろパソコン前に座りましょう」


 海里と綾佳は頷き、パソコン前に座った。

 綾佳はSNSに、『もうすぐ配信開始だよ』とツイートしてパソコンを起動させた。


 そして2人はお互いの手に人の文字を書いて、口元に運んで飲み込んだ。

 

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