第176話 配信前の準備 前編
いよいよ配信日当日となった。朝から海里と綾佳は各自準備をして、昼頃に事務所へと来ていた。
「海里さん、綾佳さん。いよいよ配信日当日がやって来ましたね!」
事務所に着くと北島が出迎えてくれて、笑みを浮かべながら楽しそうにしていた。
「はい!昨日の夜から海里くんと打ち合わせをしていたから、とても楽しみです!」
「そうですね。女装云々は置いといて、俺も配信するのを楽しみにしています」
「二人とも意気込みは十分ですね!」
北島の呼び掛けに二人は頷いた。
そして三人は配信ルームへと向かった。
「海里さん、待ってましたわ」
配信ルームに着くと、椅子に座りながら優雅に紅茶を飲んでいる佐倉レイナがいた。
「レイナちゃん。いつの間に事務所の中にいたの?!」
「えっと…三時間前くらいから、ここで待ってましたわよ」
レイナは時計を見ながら親指、人差し指、薬指を曲げていくと、二人(海里・綾佳)の方を向きニコッとした。
「三時間前って…レイナさんは神出鬼没ですね」
「北島さん!!何で教えてくれなかったの!!」
「その…私も知らなかったもので。レイナさん、どうやってここに入ったのですか?」
北島は怪訝そうに尋ねた。
「ここに来た時に国見社長にお会いしまして、中に入れてもらいました。その時にお湯も使っていいと言われたので、こうして紅茶を飲んでいたのです」
「社長…そうですか。社長は全て知っていたのですね」
「ちょっと社長の所に行ってきます」と言って、北島は社長室のある二階へと降りていった。
「慌ただしいな…(笑)」
「あはは…それでレイナちゃん。頼んでいたゲームは…」
「綾佳さん、大丈夫ですよ。ここにありますし、すでにパソコンに繋いでいますので、配信の時はすぐに出来ますよ」
レイナが指差した方を見ると、パソコンに繋いであるゲーム機があった。その横にはカセットが入っている箱がある。
「レイナちゃん。ちょっとだけやってもいい?」
「そうですね。軽く練習するのもいいかもしれませんね… 分かりました。ゲームを起動させますね」
「ありがとう!!」
綾佳たちはパソコンの所に行くと、レイナに軽くやり方を教わりゲームを始めた。
それらを終えると、レイナは海里の方に視線を向けて口を開いた。
「では海里さん。貴方の準備も始めましょうか」
「そ、そうですね」
海里は苦笑しながら、レイナと共に事務所の応接室へと向かった。ちなみに使用許可は、ここに来た時に国見社長から取っているらしい。手際のいいことだ。
◇◆◇◆
応接室へと着いた海里は近くにあった椅子に座った。レイナの方は机の上に化粧箱を置き、中身を開いて準備を始めた。
「それでは今回は配信ということなので、化粧については以前より少しだけ薄めに塗っていきたいと思います」
「配信なのに化粧が薄めなの?テレビとかだと、化粧が濃いように見えるんだけど」
「テレビでは確かに濃いですが、動画配信では薄めでも問題ないです。それに海里さんは元がいいので、薄化粧で完璧に女性になれるはずです。とりあえず、やっていきましょう」
海里はそれを聞き、「分かった」と言い頷いた。
レイナは化粧箱から化粧道具を取り出し、机に並べていった。そして並べた順に道具を手に取り、海里の顔に塗っていった。
「うん…これは薄すぎましたね。もう少しだけ足していきますので、我慢してください」
レイナは海里の顔に化粧を塗った後、少し離れて確認して、また塗っていくを繰り返した。
その光景に海里は笑みを溢しそうになったが、彼女が真剣にやっているのを邪魔したくないと思い我慢していた。
「ふぅ…やっと出来ましたわ。以前より化粧を薄くして女性らしい雰囲気を出せたので、私はかなり満足しています」
「レイナさん的には、今回の点数はどれくらい?」
「そうですね…以前のが85点くらいだとしたら、今回は94点くらいですかね。薄化粧で完成出来たのがポイントが高いのです」
「そう言われると、俺も少し楽しみだな」
「待ってください。海里さんが見るのは、カツラと服装を全て終えてからです」
「レイナさんは厳しいね」
「厳しくはありませんよ。私は全て完成してから、ちゃんと見てもらいたい派なので」
そう言って、レイナは海里の頭にカツラを付けてから、彼に女装用の服を渡した。
そしてレイナは一旦部屋の外へと出た。
「……」
海里は渡された服を見つめていた。
レイナが用意した女装用の服だが。
上半身はストライプのブラウスにブルーカーデ。
下半身はスキニーパンツだった。
「はぁ…とりあえず、時間も無いし着替えるか」
着替えを終えた海里は部屋の外にいるレイナを呼んだ。海里の声に返事をした彼女は、ドアノブを回して中に入ってきた。
「海里さん、とても似合っていますよ!ほら、こちらの写真を見てください」
レイナは自分の携帯で海里を撮ると、その写真を海里に見せた。
「うん、確かに似合っている…な。ほんと自分でもあり得ないというほどに」
「薄化粧でも問題はありませんでしょ?」
「そうだね。それに薄化粧のおかげで、この服装にも合ってる気がする」
「うふふ…海里さんも段々とオシャレというものが分かってきましたね」
「身近なアイドルのお陰でね」
海里はレイナに向けて微笑した。
だが、その笑顔は男性ではなく、女性による笑顔にしか見えなかった。
それから二人は綾佳のいる応接室へと戻った。
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