第175話 撮影前の打ち合わせ

 その日の夜。海里と綾佳は配信に向けて、リビングにて打ち合わせをしていた。


「まず最初に自己紹介から始めて、そのあと軽くコメント読んでからゲーム配信にしようか」


「その案で問題はないと思う。あと時間が空いた時に色んな人の配信を見たんだけど、最初にポーズをしながら挨拶をする人が多かったよ。そして印象に残ったから俺たちも考えてもいいかもしれない」


 他の配信者は動画の始めに挨拶として、独特の挨拶をして視聴者に印象付けていた。その挨拶は動画を見終わったあとも、頭の中でずっとループしていた。


 なので、自分たちもポーズや挨拶を考えたらいいのかもしれないと思い、綾佳に提案してみた。


「なるほど…そのチャンネルの決まった挨拶というものがあるのね。そしたら私たちも考えよう!」


「あぁ…どんなものがいいかね」


「いま、パッと思いついたやつをやってもいい?」


「まぁ、期待してないけど、一応見てみよう」


 綾佳は咳払いをすると、手を挙げて口を開いた。


「どうも綾佳です!そして隣にいるのが私の自慢のマネージャーの海ちゃんです!二人合わせて綾海あやうみです!———って感じなんだけどう?」


 綾佳は言い終えると、首をコテンと傾けて海里に聞いてきた。


「まぁ、いいんだけど… 海ちゃんって誰?!」


「海里くんのことだよ。女装しているし、本名のままやると学校の人にバレるかもしれないでしょ?だから海里くんの名前から里を取って、海ちゃんというのを今さっき考えたの!」


 海ちゃん…確かに女装の時は偽名は必要だけど、その名前はな…あまり乗り気にならなかった。


 が、海里と書いて"うみさとちゃん"や変なあだ名つけられるよりからマシだったので承諾することにした。


「偽名としてはいいかもな。女装で女性になっている訳だし」


「よかった…ダメ出しされると思ったよ」


「よくよく考えた結果、妥協して承諾したものだな」


「そうなんだ!ありがとうね!」


「それはいいとして、挨拶は綾佳の案で行くことにするか?」


 実際、あの台詞は今も頭の中でループしていた。そう、記憶に残る挨拶だった。


「海里くんが嫌じゃないなら、私はこれでいいよ。まぁ、正直に言っちゃえば考えるのが…ね」


「分かるぞ。一回パッと思いつくと、そのあとは何も思いつかないことあるよな」


「そうそう。だからパッと思いついたのを海里くんが気に入ってくれてよかったよ」


 綾佳は胸に手を当てながらホッとしていた。


「何度も言うけど、配信では第一印象が大事だから、あれはあれでいいと思う。お笑い芸人みたいだけどね」


「あはは。やっぱり海里くんもそう思うよね。私も言った後に思ったもん(笑)」


「とりあえず、視聴者に面白いと思ってくれて、チャンネル登録してくれたら一石二鳥になるしいいんじゃね?」


「そうだよね!チャンネル登録をいっぱいしてもらうぞー!!」


 綾佳は右手を挙げた。


 海里は頷き、一つ咳払いをして口を開いた。


「あとはゲームだが… 綾佳は何か得意なのジャンルはある?」


「う〜ん…昔、少しだけやったことがあるレース系なら多少はできるよ」


「レース系か… それなら、明日撮影前にゲーム機本体とカセットを買わないといけないな」


 家と事務所には本体とカセットが無かったので、撮影に使うために買いに行く必要があった。


「えーっとね…ちょっと待っててね」


 綾佳は携帯を取り出すと、どこかにメールをしだした。そして数分後、メールが返信来たらしく画面を見せてきた。


「レイナちゃんがね、全て用意してくれるって!」


「マジでレイナさんは頼りになるな。今度何かお礼しないとダメじゃね?」


「だよね。色々とお世話になっているし、何かしら考えておくね!」


「俺も何か考えておくよ」


 その後、日付が変わるまで挨拶の練習をした。

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