第172話 レイナお嬢様は頼りになる

「レイナお嬢様、遅れてすみません。一個前のお宅で、話の長い人に捕まってしまい」


 そう言って入ってきたのは、レイナが用意していたパソコン設定をしてくれる人だ。


 彼が言ったお嬢様という言葉も気になるが、それは聞かない方がいいのだろうと思った。


 すると、綾佳はレイナの肩を叩き口を開いた。


「ねぇねぇ、なんでこの人はレイナちゃんのことをお嬢様って言ってるの?」


 綾佳は素直に聞いてしまった。


「綾佳…それは聞かない方がいいと思うのだが…」


「なんで?お嬢様だよ!とっても気になるじゃん」


「そうなんだが…」


 海里は恐る恐るレイナの方を見た。

 彼女はニコニコしながら彼の元へ行き、海里と綾佳に視線を送ると口を開いた。


「この方は佐倉ホールディングスの家電部門の方で、お父様から信頼されている人なのです。そのため、私のことをお嬢様と呼んでいます」


「なるほど…(私もレイナお嬢様って呼びたいかも)」


「その部門のエースってことじゃん」


「そうです。私たちはアイドルなので、信頼できる人に頼みました。秘密主義も必要でしょ?」


 レイナは人差し指を立てながらウインクした。


「そうだね。下手に知らない人に頼んで、盗聴器や監視プログラムを入れたら怖いもんね」


「確かに。それは大事な話だな」


「ということで、お願いします」


 レイナは男性の方に視線を向けると、微笑しながらパソコンの方に案内した。


 パソコンの前に着くと、男性は口角を上げ口を開いた。


「流石、レイナお嬢様だ。最新モデルで高性能のパソコンとは…設定のやりがいがあります」


「当然です。今回は私のライバルであり、友人でもある綾佳さんからの頼み。頑張りましたよ」


「それは頑張らないといけませんね。分かりました。三十分程お待ち下さい。その間、レイナお嬢様たちはごゆっくりしていてください」


 男性は鞄を机に置き、そのままパソコンへと視線を向けた。


「えぇ。では綾佳さん、海里さん、私たちはゆっくり紅茶でも飲んで待ちましょうか」


「賛成!!私たちがいても邪魔になるだけだもんね」


「それよりも、この事務所に紅茶セットなんてあるのか?」


 お茶ならあるかもしれないが、紅茶セットをこの事務所で見たことがなかった海里は首をコテンとした。


「私が紅茶を飲むためのお手軽セットを持ってきたのでありますよ。お湯さえ沸かせばすぐに飲めます」


「それじゃあ、私がお湯を沸かしてくるね!!」


 綾佳は事務所内にある給湯室へと向かった。


「海里さん。私たちも準備しましょうか」


 海里は頷いた。

 レイナはそれを確認すると微笑し、余っていた机の上に準備を始めた。


(いやいや、どこからお手軽セットを出したんだ?)


 急に出てきたので、海里は目を大きく見開いた。

 

「今までどこにあったん…だ?」


「普通に端に置いていましたよ。海里さんが気づかなかっただけでは?」


「そんな筈はないのだが…」


「それでは、海里さんが節穴だったと言うことですわね」


「結局、レイナさんの結論はそうなるのね」


 海里は微笑しながら、レイナの手伝いを始めた。

 机の上に人数分のカップを並べ、お好み砂糖も用意して綾佳のお湯を待った。


「お待たせ。お湯沸いたよ」


 綾佳は湯沸かし器を持って戻ってきた。


「待っていました。さぁ、綾佳さんここにお湯を入れてください」


「了解!」


 綾佳はティーポットの中にゆっくりと注ぎ、入れ終えるとレイナは軽く回した。そのあと、それぞれのカップに注いでいった。


「では、いただきましょうか」


「だね!」「いただきます」


 レイナの言葉に綾佳と海里は同時に返事をした。


「う〜ん。レイナちゃんが作ってくれた紅茶は美味しいな〜 また飲めて嬉しいな」


「そんな褒めても何も出ませんわよ」


「でも綾佳の言う通り、レイナさんの紅茶すっごい美味しいです!」


「海里さんまで…お二人とも、ほんと何も出ませんからね」


 レイナは膝をつきながら口に手を当て、そっぽを向きながら呟いた。横から見える頬は赤くなっているように見えた。


「大丈夫だよ。レイナちゃんにはいっぱいお世話になっているから、何も求めないよ」


「それならいいのですが」


 綾佳の言葉を信用していないのか、レイナは疑いの目を軽く向けていた。そのあと、「それで」と話を続けた。


「配信はいつにしますか?」


「う〜ん…平日だと皆んな疲れて見れないと思うから、土日のどちらかになるかな?」


「そうなると、北島さんにも伝えないとだな」


「綾佳さんはSNSにも告知しないといけないので、二日前の明日から明後日にはしないといけませんね」


「やることいっぱいあるね。それだけ配信するのは大変ってことだね」


 綾佳は二人の会話を聞いて、腕を組みながら頷いていた。


「とりあえず、初回ですし土曜日などいかがですか?アーカイブを残せば、翌日に皆さんも見るかもしれないですし」


「なるほど。それなら、レイナちゃんの案を採用!!」


「分かりました。こちらも海里さんの女装の準備を始めておきますね」


「よろしくね!」


 海里はすっかり忘れていた。配信するということは、自分が女装をして皆んなの前に出ることを。記憶の彼方に置いてきていた。


「やっぱり…初日は綾佳だけとか———」


「———設定終わりました。レイナお嬢様、綾佳様確認をお願いします」


 海里が綾佳に話し掛けると、同時に設定作業をしていた男性が終わったことを告げた。


———————————————————————

朝方になってしまい申し訳ございません。

今日の夜中にも本日分を更新する予定です。


誤字脱字報告もありがとうございます。

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