第171話 配信に向けての準備が始まる
水曜日の放課後。海里と綾佳は事務所にて、荷物が届くのを待っていた。
荷物というのは、レイナが用意してくれた動画配信用の機材たちだ。
「いよいよ、動画配信に向けての準備が始まるね」
「そうだな。それにしても、レイナさんはいつも突然すぎるんだよな」
昨日、綾佳の携帯にレイナからメールが送られてきた。その内容は機材を運ぶのでよろしく的のメッセージだった。
「でも北島さんが早急に動いてくれたから、すぐに荷物の搬入ができるね!」
「北島さんが優秀すぎて、頭が上がらないわ」
「あれこそが、海里くんが目指すべきマネージャーの姿だね!」
「多分だけど、他のアイドルのマネージャーよりも群を抜くマネージャーになれるよ」
「そうだな…タイトルをつければ、『寺本海里は最強マネージャーになるための奮闘記』って感じかな?」
「ごめん…それはちょっと無理だわ。タイトルがダサすぎて、誰も見てくれないな」
「そんな〜 絶対面白いと思ったのに…」
綾佳は肩を竦めながら落ち込んでいると、ちょうど目の前にトラックが止まった。
そして運転席が開くとおじさんとレイナが降りてきた。
「お待たせしました。頼まれていた機材を持ってきましたわよ」
レイナは海里、綾佳にそれぞれ視線を送ると、スカートの裾を持って挨拶をした。
「お疲れ様!今日は設定までやってくれるのかな?」
「レイナさん。今日はよろしくお願いします」
レイナは二人の挨拶に頷いた。
「えぇ、設定する為に信用出来る専門の人を呼んだのですが、少し時間が掛かるようなので先に組み立てしちゃいましょうか」
「分かった。それじゃあ、機材を設置する場所に案内するね!」
綾佳は踵を返して、事務所の中へと入っていった。その後ろをレイナが追いかけた。
「さてと、俺はどうしようかな」
完全に出遅れた感ある海里は、トラック前で立ち尽くしているとおじさんに話しかけられた。
「お兄さん、そこにいるなら運ぶの手伝ってくれないか?私一人じゃ、重くてな…」
トラックの中を見ると、パソコンのマークが描かれた箱や付属品が多く入っていた。それはおじさん一人では、結構大変な量だった。
「分かりました。では、こちらを自分が持っていきますね」
「ありがとうな」
海里は台車を受け取り、おじさんと一緒にパソコンの箱を乗せた。そして事務所へと入り、動画配信専用の部屋へとエレベーターで向かった。
「おっ、待ってたよ!!これが配信するのに使うパソコンちゃんか〜 これからよろしくね!!」
エレベーターにて上がり部屋の中に入ると、綾佳は微笑しながら近づき、そして箱に抱きついた。
「あまり動かすなよ。倒れたりしたら、画面が割れる可能性もあるんだから」
「分かってるよ!だから慎重に抱きついたんだよ」
慎重に抱きついた…?いや、綾佳が箱に抱きつく時、ドンって音が聞こえた気がした。
現に、彼女は今も箱に頬をスリスリしているし。
「とりあえず、箱から一旦離れようか。レイナさんも困っているし、パソコンの組み立ても出来ないぞ」
「はっ… そうだね!」
綾佳は箱から離れると、レイナの方に視線を向けた。
「それじゃあ、レイナちゃんよろしくお願いします」
「分かりましたわ。海里さん、パソコンを箱から出してください」
「箱から出す…分かった」
海里はレイナから指示をもらい、箱からパソコンを出した。出したパソコンは部屋の中にあった机の上に置いた。
「それでは私は線を付けていくので、海里さんはどんどん箱の中身を出していってください。綾佳さんは私の手伝いをお願いします」
「OK!レイナちゃんのお手伝い頑張ります!」
「分かった。出したら、この机に置いとくよ」
綾佳はレイナと共にパソコンの場所へ行き、一緒に配線など組み合わせ始めた。
海里は下から来るおじさんの荷物を手伝いながら、もう一つの机の上に次々に箱から荷物を出していく。
その中には自分たちが映る為に必要なパソコン用カメラと外ロケでも出来る小さいカメラなどが入っていた。どれもお値段が高そうだった。
海里は傷つけないように慎重に持ち上げ、そして机の上に置いていった。
そして全ての荷物の開封は終わった。
「レイナさん。こっちは全て出し終えたよ」
レイナの方を向くと配線をパソコンに差しており、少しだけ余裕ができたのか海里の方を向いて口を開いた。
「ありがとうございます。こちらは30%くらいなので、海里さんも手伝ってください」
「何を手伝えばいい?」
「とりあえず、そこの机の上にあるパソコン用のカメラを持ってきてください」
「分かった」
海里は机の上からカメラを手に取り、レイナのいる所へと持っていった。
「ここに置いておくよ」
「ありがとうございます」
レイナはすぐにカメラを手に取ると、パソコンの上にカメラを取り付け始めた。その横で綾佳は配線の絡まりを解いていた。
それから三十分後。
パソコンの組み立ては何とか終わり、あとは設定するだけになった。
「海里くん、レイナちゃんお疲れ様!いい感じに組み立てることが出来たね!」
「お父様に頼んで性能がいいのを買ってもらいましたし、組み立ても私の技術があればこんなもんですよ」
お父様。そんな風に呼ぶ人を初めて見た。
社長令嬢だから丁寧語なんだろう。
「海里さん、どうかしましたか?」
レイナは首をコテンと傾けて聞いてきた。
どうやら彼女のことを見つめていたようで、不思議に思ったようだ。
「いや、レイナさんの技術が凄いなと思って」
「それね!私も側で見ていたけど、何の迷いもなくテキパキこなしてて凄かったよ」
「そんなに褒めても何も出ませんわよ」
レイナは腕を組み頬を赤らめながら呟いた。
でも、よく見ると彼女の口角が少しだけ上がっていたので、嬉しかったことが分かる。
そして設定をする為に呼んでいた、信頼できる専門の人が一時間遅れでやって来た。
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