第167話 報告会① 前編

side 水瀬楓

 

 約束をしていた土曜日がやってきた。


(あれ…今日って、綾佳さんにこの間の話をするために集まったんだよね…)


 楓は恐る恐る綾佳の隣にいるレイナを見つめた。


 話は15分前に戻る。楓は綾佳とのメールで指定されたレストランへと来ていた。一足早く来てしまったので先にドリンクバーと軽食を頼み、持ってきた紅茶を飲みながら綾佳が来るのを待っていた。


 それからすぐに軽めの変装をした綾佳が来たのだが、その後ろには銀髪の女性がいた。


 楓にはその人が誰だかすぐに分かった。

 銀髪に変わった服装をする人はただ一人。アイドルの佐倉レイナだ。


 そして綾佳は自分に気づくと、手を振って駆け寄ってきた。彼女はそのまま対面に座り、その横にレイナが座った。


 そして、今に至る。


「あの…私は綾佳さんと二人だけだと思ったのですが…?」


「最初はそのつもりだったの。だけど、出掛ける直前にレイナちゃんからちょうど連絡が来て話をしたら着いてくることになったの」


「そうなんですね。その…初めまして、水瀬楓と言います。姉がいつもお世話になっています」


 楓はレイナの方を向き、軽くお辞儀をした。

 彼女は自分の姉とはライバル関係ではあるものの、切磋琢磨する仲間でもあるので妹としては礼儀正しく行きたかった。


「私のことは知っていると思いますが、佐倉レイナと言います。水瀬という名字に姉ということは、水瀬翼の妹なんですか?」


「そうだよ!楓ちゃんはね、翼ちゃんのことがとっても大好きななんだよ!」


「綾佳さん?!突然、何を言い出すのですか!!」


「えっ…?この間の勉強会でも翼ちゃんが来てから、ずっと隣にいたよね?」


「それは…」


 確かにあの時は姉の側にいた。それは姉に話すことがあったからで、別に颯斗の隣でもよかった。

 

(まさか、こんなことになるなんて… あの日に戻りたい気分だよ…)


 楓は嘆息をすると、レイナは微笑して口を開いた。


「仲が良い姉妹ですわね。私は一人っ子なので、姉や妹など憧れの存在です。これからも、お姉さん(翼さん)と仲良くしてくださいね」


「は、はい。こちらこそ、姉の翼のことをよろしくお願いします」


 楓はレイナに向けて、もう一度お辞儀した。

 その時に自分の言った言葉を思い出し、何をよろしくするんだ?っと思った。


「うんうん、二人とも仲良くなれそうだね!てことで、何か頼もうか」


 綾佳は机にあるタブレットを手に取り、メニューを一つずつ吟味していた。

 そんなマイペースな彼女に、楓とレイナは苦笑しながら一緒にタブレットを見た。


「その…私、ドリンクバーを頼むために軽食を頼んでしまいました… ごめんなさい」


「大丈夫だよ!もし、まだ頼みたいなら頼みな!今日は私の奢りだから!」


「そんな、綾佳さんに奢ってもらうなんて悪いですよ!!自分の分は自分で払います」


「今日は私が無理矢理誘ったような感じだから、私が奢るのは当然だよ!」


「……では、お言葉に甘えさせていただきます」


 楓は軽く俯くと、手先を合わせながら呟いた。


「綾佳さん、もちろん私の分も奢りですわよね?」


「レイナちゃんはお金持ちなんだから、自分の分は自分で払ってね」


「なっ…私と楓さんとでは、こんなにも対応に差が生まれるなんて… どうゆうことです?!」


「さっきも言ったじゃん。楓ちゃんは私が無理矢理誘ったから、そのお礼で奢るの。レイナちゃんは勝手に着いてきただけじゃん」


「ぐっ… それを言われますと、何も言い返せまさんわ。どうしましょう」


 レイナは顎に手を当てて考え始めた。


「うふふ…お二人はほんと仲がいいですね!その輪の中に、お姉ちゃんも入れてほしいな」


「そうですわね。あれ以降、トップ5での集合はないので集まりたいですわね」


「って言っても、遥香ちゃん以外は会っているのだけどね。遥香ちゃんは何しているのかね」


「私もお姉ちゃんと同じことを話したことあります。危ないことに手を染めていないといいねと」


「あの人はよく分からない人なので、私たちには理解出来ないことをしているのでしょう」


 桐崎遥香のことは気になるが、本来の目的から脱線してきたので楓はこのあたりで咳払いをした。


「その…本来の目的の話をしましょうか」


「そうだね!女子会で終わる所だったよ」


「まったく…綾佳さんったら」


 三人は同時に微笑し、詳しい話を始める前に料理を注文した。

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