第166話 楓は焚き付けようと頑張る
綾佳が事務所で交渉している裏で、海里は喫茶店にて楓と対面していた。
彼女は頼んでいたアイスティーを一口啜ると、海里に視線を向けて口を開いた。
「それでは海里さん、進捗について話していきましょう」
「進捗って… 颯斗にカミングアウトしてから、まだ数日しか経ってないから何もないぞ?」
「そうですね。ですが、私が話そうと思っているのはこれから先についてです」
「……」
海里は楓の話を聞くと、下を俯きながらストローをいじっていた。
その姿を見て楓はため息をついた。
「海里さん、すぐ下を向くのは貴方の悪い癖ですよ。そんなことでは、綾佳さんと付き合うことなんて夢のまた夢ですよ」
楓は綾佳に迷惑を掛けないようにと、小声で海里に伝えた。
海里はストローから手を離して、視線を楓に向けて口を開いた。
「それでも、俺は綾佳と付き合いたいと思っている。だけど 綾佳は現役アイドルだし、俺のせいでスキャンダルを出して迷惑をかけたらと思うと…」
海里は綾佳と付き合いたい気持ちが少しずつ高まっていたが、雑誌やニュースサイトで見るスキャンダルを見て、自分は本当に彼女と付き合っていいのかと悩んでいた。
「確かにスキャンダルが出てしまえば、綾佳さんの地位は下がってしまうかもしれませんね。ですが、綾佳さん自身が海里さんと付き合いたいと思っていたらどうですか?」
「もし綾佳が俺と付き合いたいと思っているなら、俺は綾佳の気持ちに答えたい。でも…」
海里はまた下を俯いてしまった。
楓はもう一度アイスティーを口に含むと、腕と足を組んでから口を開いた。
「海里さんってほんとヘタレですよね。私がいくら焚き付けようとしても、『自分には…』や『スキャンダルが気になって…』と言って逃げてます」
そして楓は一つ深呼吸をしてから、再度口を開いた。
「男なら当たって砕けろです!!何か障害が起きたらその時に考えればいい。余計なことは考えずに、一つのことを思っていなさい!」
「わ…分かりました」
楓は周囲の人に迷惑かけないように小声で話し、人差し指を海里に向けて差した。
今まで萎縮していた海里だったが、彼女の勢いに姿勢を正して返事をした。
「よろしい!それでは具体的な内容をしていきましょう。何か聞きたいことはありますか?」
「綾佳と付き合うのに必要なこと」
「そうですね…綾佳さんはプールや海で告白されるのが憧れだそうです。例えばですけど、夏休みとかに綾佳さんを誘い告白するのはどうでしょう?」
「なるほど… 確かに夏休みに付き合うカップルは多いな。だけど急な誘いだと、綾佳に不審に思われないか?」
「えっと… 大丈夫だと思います!それでも海里さんが不安なら、私たちとWデートという形でもいいかもしれませんね!」
「颯斗に告白するシーンを見られるのは不服だが、告白する為には犠牲が付き物か… 」
楓は海里の言葉に苦笑した。
「颯斗がまた暴走したら、私が止めるので安心してください。得意のチョップしますから」
楓は手刀の形にして、軽く斜めに振った。
「それは颯斗が可哀想だから、意識が失わない程度でやってね。流石に見てられなかったから」
「うふふ… 海里さんはほんと優しいですね!颯斗にも見習ってほしいものです」
「颯斗には難しい話かもね」
「そうですね」
颯斗の話で盛り上がりお互いに微笑した。
きっと、颯斗は海里と楓を繋いでくれる一つの会話材料なのだろう。
「それで具体的な話をもう少ししたかったのですが、時間的に帰る時間になってしまいましたね」
「本当だ。放課後だと、時間があまりないな」
「まぁ、おいおいメールで続きの話をするので、それまで勝手な行動はしないでくださいよ?」
「楓ちゃんの言う通りにします」
海里はサムズアップをして、楓に返答した。
「もう調子のいい人ですね。では、私はお先に失礼しますね」
そう言って楓は立ち上がり、そのまま喫茶店を出て行った。海里は彼女が出て行った数分後に店を出た。
◇◆◇◆
side 楓
その日の夜。ベッドでくつろいでいた楓は、喫茶店で話したことを思い出していた。
「もう…海里さんはヘタレすぎて困ります」
自分の気持ちに気づいているはずなのに、色々と考えている所為で弱腰になっている。
「私があんなことを言うなんて、お淑やかな私はどこに行ったのでしょう… 」
あくまでもお淑やかな女性で行きたい楓は、海里に言った言葉に恥ずかしくなった。
だけど今更そんなことを考えても意味がないので、楓は携帯を取り出し画面を開いた。
「今日あったことを綾佳さんに伝えないと」
一応、綾佳にメールするのは告白に望みがない時だったが、今回は成果があったので彼女にメールをすることにした。
『今日お話をして、海里さんが前向きに告白について考え出しました。期待大です!』
と、綾佳にメールを送るとすぐに返信が来た。
『その話、詳しく!!土曜日のお昼に会おう!!』
突然のお誘いに楓はベッドから勢いよく起き上がり、画面に喰らい付いた。
「綾佳さんって、いつも突然すぎますよ…」
楓は苦笑しながら、『分かりました♪』と返信をした。
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