第165話 綾佳、交渉をする
ある日の放課後、綾佳は北島に呼ばれて事務所へと訪れていた。メールには海里には内緒で、綾佳一人で来るように書いてあった。
「綾佳さん、あのメールはどうゆうことですか?」
「何のことですかな?(笑)」
「顔が笑ってますよ。そもそもメールを送ってきた本人が知らぬ顔なんて出来るわけないでしょ!」
「ですよね〜(笑) メールの内容はそのままの意味ですよ!」
綾佳は微笑しながら、サムズアップをした。
綾佳が北島に送った内容は
『ご相談。動画配信の時、海里くんの為に給料を上げてください』
回りくどい言い方をせず、率直に北島に送った。
「何故、動画配信に出演しただけで給料を上げないといけないのですか?」
「海里くんを動画に出演させる為に、雑誌撮影の話題を出したの。その時に給料が少し上がったから、今回も上がるかもよって話をして… 」
綾佳は軽く俯きながら、人差し指をツンツンして北島をチラッと見た。
北島は呆れたような顔をしながらため息をついた。
「あのですね、雑誌撮影の時はクライアントからお仕事を貰い、それに対して賃金が発生したのです。ですが、動画配信となれば個人チャンネルとなります。収益化されてないと一円も入りませんので、給料など発生しません。趣味の一言で片付けられます」
「そんな… 海里くんお金沢山貰えるからやる気出してくれたのに、これじゃあ出てくれなくなるよ」
「知りませんよ。自分でよく考え、寺本さんをやる気にさせることですね」
北島は腕と足を組みながら、綾佳に言った。年上の威厳を見せようとしたのだろう。
そんな威厳に屈することなく、綾佳はその場を立ち上がりとある場所へと向かった。
「社長!!!」
それはすぐ側にある社長室だ。
「綾佳さん?!」
北島は綾佳の後ろを追いかけた。
「社長…国見社長!!海里くんの給料を上げてください!!私の計画が狂ってしまうんです!!」
綾佳は泣きながら社長室の部屋を開けて、魂の叫びをした。
国見は持っていた資料を机に置き、いきなり入ってきた綾佳の方に視線を向けた。
「いきなり入ってきて、一言目がそれかよ(笑) ほんと瀬倉は面白いな」
「面白い面白くないは今はどうでもいいので、海里くんの給料を上げてください!動画配信の時だけでいいので!!」
「そう言われてもな…」
国見は頭を掻きながら、顔を引き攣らせた。
「だから言ったでしょ。動画配信とかでは給料を上げることは出来ないと」
綾佳に追いついた北島は、彼女に向けて言った。
「そんな…どうにかなりませんか?私の計画がほんとに崩れるので」
「そうだな…ちなみにだが、さっきから言っている計画って言うのは何だ?」
綾佳が度々口にしていたことが気になった国見は、顎を触りながら質問してきた。
綾佳は口角を上にあげ、腕を組みながら口を開いた。
「私の計画…それは———」
綾佳は夏までに外堀を埋め、夏にプールか海で告白あるいは告白をしてもらうことについて話した。
国見は耳を傾けて頷き、綾佳の話を聞いていた。
「なるほどね… ついにそこまで話が進んでいたのか。確かに今回の件はかなり重要になってくるな」
「でしょ!だからこそ、海里くんの給料を上げる必要があるのです!」
決まったとドヤ顔をする綾佳。ここまで来たら、国見は頷くだろうと思っていたのだが、北島がそれを邪魔をしてきた。
「ダメです!!そんな簡単に給料を上げられるなら、私の給料も上げて欲しいものです!!」
北島が反対する理由は自分の給料が少ないのに、バイトの海里を上げるのが気に入らないからだった。単なる逆恨みみたいなものだ。
「それを言われると、俺は頷けねぇーな。どうしてもと言うなら、北島を説得してみろ」
「それは…なかなか厳しい話ですね」
「綾佳さん、私は一つも頷きませんよ」
北島は腕を組みながら、目を逸らして言った。
「北島さんお願いします!!」
「嫌です。何があっても頷きませんよ」
「そんなことを言わないで、ほら笑ってくださいよ」
そう言うと、綾佳は北島のお腹を擽りだした。
「あ、綾佳さん?!やめてください!!」
北島は擽りを我慢していたが、段々と堪えきれなくなり笑ってしまった。
「それじゃあ、私の勝ちだから給料を上げることを了承してくれますよね?」
「いつの間に勝負になっていたのですか?!この勝負は無効なので、了承などありません」
「くっ…… これで駄目なら、私はどうすればいいのだろうか」
「はぁ… 仕方がない。瀬倉、一つ課題を出す。これは海里くんには内緒の課題。いわば、シークレットミッションだ」
なかなか話がまとまらないので、国見は痺れを切らして横から口を出した。
「シークレットミッション!なんだかやる気が出てきますね!!」
「それなら良かった。でだ、ミッション内容だがこれをクリアー出来たら考えてあげよう。北島もそれでいいか?」
「社長がおっしゃるなら、私は反論はしません」
「北島の了承を得たので話す。ミッション内容は…一日でチャンネル登録者数を1000人以上にしろ。その他の条件はまだ無理だが、これをクリアー出来たら考えよう」
国見の課題は動画配信初心者の綾佳には難しそうに聞こえるが、彼は口角を上げて言葉を続けた。
「トップアイドルの瀬倉綾佳なら、こんな課題は余裕でクリアー出来るよな?」
「もちろん!私を誰だと思っているの?トップアイドル瀬倉綾佳が一瞬でクリアーしてみせるよ!」
「そうか、その時が来るのを楽しみにしているぞ。北島もそうだよな?」
「えぇ、頑張ってください」
北島は少し納得出来ない顔をしながらも、綾佳にエールを送った。
(よし、海里くんの為に頑張るぞ!)
綾佳は胸の前でガッツポーズをして、ミッションクリアーにやる気を燃やしていた。
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