第162話 桐崎遥香は這い上がることを決意する
「……はい。分かりました」
海里たちが颯斗に秘密を伝えていた頃、桐崎遥香は自宅でオーディション結果の電話を聞いていた。
エンブレムカップでアイドルランキング五位へと順位を下げてしまった遥香。
その影響は大きく、今まで余裕で受かっていたオーディションも受からなくなっていた。
今、来ていた電話も不合格の電話だった。
「くそ…!!なんで私がこんな目に遭わないといけないんだよ!ランキングが下がったくらいでこんなに影響が出るもんなのかよ!」
遥香は枕に携帯を投げつけると、そのまま自分もベッドに飛び込み横になった。
彼女が焦るのも無理もない。
一位〜四位までの綾佳たちは安定した仕事を受け取れている。なんなら、あのイベントのおかげで専属のお仕事の話まで来ている。
だが、遥香に来ていた話は全て怪しい仕事の話か演歌歌手のオファーばかり。
「これ以上、ランキングを下げる訳にはいかないし…」
遥香は携帯を手に取り、今のランキングを画面に映した。
ランキングは今のところ五位までは順位変動は起こっていないが、六位以降は余裕で変動はある。
そして現在六位にいるアイドルが、遥香のランキング順位に近づいてきていると噂が流れていた。
もちろん、遥香の耳にもそれは入っている。
「何かしら手を打つしかないか…」
遥香は思案するためにベッドから起き上がると、部屋の外から名前を呼ばれる。
「遥香ちゃん。夕飯出来たわよ」
遥香の母親が夕飯の支度を終えたので、彼女を呼んだのだった。
遥香は軽く返事をして、リビングへと向かった。
「遥香ちゃん、無理していない?お母さん、遥香ちゃんが大変なのに何も手伝えなくてごめんね」
食卓に着き夕飯を食べ始めたとき、母親が箸を置き心配そうな顔をして遥香に尋ねた。
遥香も箸を置き、母親の顔を見て口を開く。
「大丈夫だよ!今は大変かもしれないけど、必ず這い上がってみせるから!」
母親を心配させない為に、遥香は必死に笑顔で返答をする。
その光景に母親は少しの沈黙のあと口を開く。
「………分かった。それでも、何か辛いことがあったらお母さんに相談してね?」
「もちろん!一番頼りになるのはお母さんだって知ってるから!」
母親は遥香に頷き、「食べよっか」と優しく微笑み掛けた。
夕飯を終えた遥香はリビングでテレビを見ながらゆったりしていた。母親はお風呂に入っているので一人である。
『続いての話題はこちらです。俳優の○○と女優の○○に熱愛報道が出たようです』
ちょうど見ていたワイドショーで熱愛報道が流れてきた。
「マジか。あの人達の熱愛報道とか超ヤバいんだけど。ファンの人達が可哀想だな」
金髪ギャルで見た目が緩そうだが、遥香はアイドルとして真面目にやっている。
自分が恋愛するのも、アイドルを卒業してからだと決めていた。
なので、テレビとかでスキャンダルを見るとファンを心配することもある。
これが、彼女がファンから好かれる理由なのかもしれない。
「でも、スキャンダルか… あいつらにスキャンダルとか無縁そうだな…」
遥香は四人を思い浮かべながら、持ってきていた紅茶を啜った。
遥香の頭の中で思ったのは、彼女たちのスキャンダルが出れば自分はランキングが上がるのではと考えた。それでも、自分で言った通り彼女たちはスキャンダルにならないように徹底しているはず。
「まっ、私はお母さんとの約束もあるし、地道に這い上がっていこう!」
遥香は母親との約束を胸にガッツポーズをして、頑張ること改めて決意した。
(でも、偶然見かけたらいいよね…)
最後の最後に、心の中で悪魔遥香ちゃんが出てしまった。
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