第163話 綾佳外堀大作戦②

 週末、綾佳は麗音とレイナから呼び出されて、指定されたカフェに来ていた。

 綾佳が来たときすでに二人は座っており、その場所だけオーラが放っていた。


「二人ともお待たせ!」


「私たちが早く来すぎただけだから大丈夫だぞ」


「そうですわ。とりあえず、飲み物を頼みましょうか」


「そうだね!」


 レイナは手を挙げで店員を呼び、飲み物を注文した。綾佳がアイスティー、麗音がアイスコーヒー、レイナがカフェラテだ。


 少しして店員が飲み物を運んできて、三人の前にそれぞれの前に置き、一礼して戻っていった。


「それでは綾佳さん、今どんな風に進んでいるのか話してもらいましょうか」


「やっぱり、呼び出した理由はそれになるよね。まぁ、私も二人に話したいことあったから、タイミング的にはバッチリだったけどね!」


「おっ?私たちに何か言いたい事でもあるのか?」


「気になりますわね」


 麗音とレイナは自分たちが呼び出したはずなのに、逆に呼ばれようとしていたことに少し気になった。


 綾佳はアイスティーを少し啜り口を開いた。


「私、海里くんから告白されるのを待つつもりなんだけど、夏休みまでになかったら自分から行くことにした」


「………」

「………」


「麗音ちゃん?レイナちゃん?沈黙しちゃってどうしたの…?」


 盛大な報告をしたのに二人が沈黙になったので、綾佳は緊張しながら声を掛けた。


「綾佳さん!その言葉を聞くのを待っていましたわ!!ついに決心したのですね!!」


「そうか… そうか… 瀬倉が動き出すのか」


 すると、レイナは綾佳の両手を握り、微笑しながら喜んだ。麗音は腕を組みながら、感慨深そうに頷いていた。


 綾佳はそんな二人を見て苦笑しながらも、自分の決心を認めてくれて嬉しくなった。


「それでね、今外堀大作戦っていうのをやってて、二人にも手伝ってもらおうかなと思ったの」


「ほほう… なかなか面白いことをやってるな」


「そうですわね。外堀大作戦… ちょっと、作戦名はダサいですが」


「ダサいって言わないでよ!」


 綾佳は顔を赤らめながら抗議し、頬を膨らませて拗ねた。


「ごめんなさい。悪気があって言った訳ではないので、それは分かってください」


「瀬倉、レイナもこう言ってるし許してくれないか?」


「もう… 仕方がないな」


 綾佳はため息をつきながら、二人に視線を向けて微笑した。そして許されたレイナはホッとした様子で胸に手を当て、飲み物を一口啜った。


「それで、私たちは何をすればいいんだ?」


「えっとね… とある人には海里くんを焚き付けるように頼んでいるから… 何があるかな?」


「それを私たちに聞くのかよ(笑)」


「考えたんだけど、何も思いつかなくて」


「う〜ん… 確かに私たちがやれる事はあまりなさそうですわね。学校も違いますし、仕事も合う訳ではないですもんね」


「そうなんだよね」


 三人は腕を組みながら、どうすればいいか考えた始めた。


 レイナの言う通り自分たちとは会うことが少ないので、協力してもらうにはなかなか難しい。

 それでも、最初から相談に乗ってもらっているので、綾佳は二人にも何か出来ることをしてもらいたかった。


「やはり動画配信の件をもう少し早めに進めた方が良さそうかもしれませんね」


 レイナは、ボソッと呟いた。

 彼女の言う動画投稿とは、以前撮影後に綾佳の家で海里に隠れて話していたことだ。


 あれから数回会っていたが、裏ではレイナはちゃんと準備を進めていた。

 

「動画配信…やりますか。海里くんにはまた女装をしてもらって」


「本来の目的はそれですからね(笑)」


「すまない。私にはどうも話が見えないのだが、動画投稿とはなんだ?」


 どんどん話が進んでいく二人に、一人だけ取り残されていた麗音が横から声を掛けた。


「以前、綾佳さんに提案したのです。これで海里さんと綾佳さんの距離を縮ませよう作戦と思い」


「なるほど。だが動画配信と言っても機材とか金が掛かるらしいが、それらはどうするつもりなんだ?」


「あら?私の二つ名を忘れてしまって?私は社長令嬢のレイナ様ですわよ!」


 レイナは立ち上がり、両手を腰に当て、胸を張りながら自慢するようにドヤ顔で言ってきた。

 それに対して麗音は、「はいはい、そうでしたね」と言い、綾佳は、「レイナ様!!」と拍手しながら言った。


 気分が良くなったレイナは、さらに言葉を続けた。


「機材に関してはすでに用意は出来ております。あとは、設置と設定をすれば始めることはできますよ」


「社長令嬢って凄いな」


「だよね…!そんな簡単に用意出来るなんて!」


 社長令嬢だからと言って、そんな簡単には用意出来ることは普通はできない。

 だけど佐倉ホールディングスの社長、つまりレイナの父は娘のことを溺愛していたので、彼女の一言で何でも買ってくれるのだ。

 それがバレて、父親が母親に怒られるのがよくある日常なのだ。


「それで綾佳さんはどこで動画配信をやりますか?」


「そうだね… 家だとスペースが無いから、事務所に置いてもらう感じになるのかな」


「とりあえず、マネージャーに聞いてみれば?あっ、海里ではなく北島さんの方な」


「もう麗音ちゃんったら何を言ってるの」


 綾佳は苦笑しながら、携帯を取り出しすぐに北島へとメールをした。


『動画配信をやりたいのだけど、事務所に機材を置いてもいいですか?機材の方はレイナちゃんが貸してくれるそうです』


 北島にメールを送り携帯を閉じた瞬間、すぐに返信がきた。


「はや!!」


 綾佳は驚きながら、携帯を再度開いた。


『それなら事務所の一角を開けますので、そこで是非やりましょう♪社長に聞いたら、面白そうだからやってもいいよでした!』


 綾佳はその文面を読み、ふっふふ…と笑みを溢す。


 その姿を見て、麗音はコテンと首を傾げて聞いてきた。


「んで、北島さんは何だって?」


「是非やりましょう♪だって。社長までもノリノリでOKしたらしい」


「綾佳さんの事務所の人はフレンドリーな人たちでほんと羨ましいですわね。特に社長と仲が宜しいことが… 」


「だよな。私も社長とはなかなか話せないから、綾佳の事務所が羨ましい」


 麗音とレイナは綾佳の話を聞きながら、自分が社長と話しているもしものシーンを想像していた。


「それなら、私の事務所に移籍しちゃう?」


 冗談混じりに綾佳は二人に言った。


「そんなことが出来たらしたいが、事務所間の移籍はなかなか大変だから難しいな」


「そうですわね。事務所の移籍はそれだけで大事おおごとになりますし」


「そうだよね… だけど仕事は一緒になれるようにしたいね!」


「そうだな」「えぇ、ですわね」


 綾佳の言葉に、麗音とレイナは微笑しながら頷いた。


「では近々綾佳さんの事務所に機材を運びますので、そんな感じで進めていいでしょうか?」


「うん!私もその時は手伝うからね!」


「私も行こうかな」


 麗音は二人の会話を聞き、自分も行きたくなったらしい。


「もちろん!皆んなで機材のセッティングをしようね!」


「はい!」「あぁ、よろしくな」


 二人は元気よく返事をした。


(海里くんとの動画配信が楽しみだな)


 綾佳は海里と動画配信をすることを、今から楽しみにしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る