第160話 暴露会は無事?に終わった
「さて、海里よ。言い訳を聞かせてもらおうじゃないか」
颯斗はお茶を啜ると、海里の方に視線を戻して言ってきた。
「言い訳か… 俺は言い訳はしないぞ」
「ほう、なら聞かせてもらおうじゃないか。俺に黙っていた理由を」
颯斗は腕を組みながら睨んできた。
その横で楓はため息をつきつつ、「ほどほどにしてあげなよ」と言った。
「率直に言うと、颯斗の口が軽そうだったから言えなかった。綾佳優先で考えたらこうなった」
「なるほど… 確かに俺は口が軽いとは言われるけど、俺のどこが口が軽いだって?」
親指を自分の方に指しながら、颯斗はドヤ顔で海里の方を見た。
海里と綾佳はお互いに顔を見合わせると、颯斗にジト目を向けた。それと同時に楓がまた口を開いた。
「颯斗、口軽いじゃん。前だって、私が秘密にしていたことをお姉ちゃんに言って恥ずかしかったんだから… 」
よっぽど恥ずかしかったのであろう。楓は下を俯き、手で顔を覆っていた。
颯斗は、「それは——」と弁解をしていたが、楓は頬を膨らませて拗ねていた。
「えっと… 話を進めてもいいか?」
このままでは話が進まないと思った海里は、苦笑しながら颯斗に言った。
綾佳は楓の方に行き、拗ねた彼女の頭を撫でてあやしている。
「あっ、すまん。———んで、口軽いとか置いといて、同棲していることは分かった。これ以上、俺が驚くような隠し事はないよな?」
颯斗の台詞に、海里はゆっくりとそっぽを向いた。その行動に颯斗は、「ま、まさか何かあるのか?!」と驚いている。
もう一つの隠し事。それは綾佳のマネージャー(バイト)をしていることだ。
この発表をしたら、颯斗は腰を抜かして倒れるか、再度殴り掛かってくるであろう。
(同棲の勢いに乗って、マネージャーの仕事をしていることも言うべきかな…)
自分の判断では決められなかったので、綾佳の方に視線を送った。
綾佳は視線に気づくと、思案するような雰囲気を出し、一つ頷くとサムズアップしてきた。
(言っていいってことだな… )
そう解釈した海里は一息つき、颯斗に視線を向ける。
「前もって言っておくが、暴力反対だからな!絶対だぞ!!」
「分かったよ。殴る蹴るとかはやらないから言ってみな。優しいお兄さんに」
「 どこが優しいお兄さんだよ」と思いながら、海里はもう一度一息ついてから口を開いた。
「俺、実はバイトだけど仕事しているんだよ」
「バイトなら普通じゃね?」
「そのバイトが普通じゃないんだよ」
「どうゆうことだ?」
颯斗は首を傾げながら聞き返してきた。普通のバイトならわかるが、海里は普通のではないと言ったので、颯斗は余計に分からなくなっていたのだ。
海里は綾佳ともう一度視線を合わせると、お互いに頷き、視線を颯斗に戻す。
「綾佳… 瀬倉綾佳のマネージャーをやっているんだ。バイトだけど… 」
「………… 」
「はや… 颯斗?」
海里のカミングアウトしたあと、颯斗は下を俯き、そして固まった。
「颯斗くーん?生きてますか?」
綾佳は颯斗の顔の前で手を上下に振りながら、意識確認をしている。
その反対側で楓は手刀を構えて、颯斗の腹を狙って刺した。
「……うっ。か…楓、手刀はダメだ…ろ」
颯斗は腹を抱えながら、後ろにゴロンと倒れた。
「楓ちゃん… 容赦ないね。 あはは… 」
「なんだか颯斗が可哀想に見えてくるよ」
「綾佳さん、海里さん、お気遣いありがとうございます。でも颯斗にはこれくらいしないとダメなので」
楓は笑顔で二人の顔を交互に見ながら微笑んだ。
海里と綾佳は顔を見合わせて苦笑していると、颯斗が左手で腹を押さえながら右手で起き上がってきた。
「それで海里はマネージャーのバイトしているんだな。そうか… 」
「颯斗怒らないのか?マネージャーの仕事とかずるいだろとか言うと思ったんだが… 」
「暴力はしないって約束しただろ?だから、俺はその約束を守り見守ることにしたよ」
「颯斗…!」
「あぁ、海里!」
海里と颯斗は涙を浮かべながら立ち上がり、ハグをしようした。
綾佳と楓は、「男の友情になるのかな?」や「ただのバカな男なんですよ」とお互いの相方を見ながら談話していた。
が、
ここでまさかの颯斗の裏切りが起こる。
「なんて言うと思ったか!!アイドルのマネージャー?!てことは、他のアイドルとも会えるじゃん!!ライブだってタダで行き放題だし、グッズだって簡単に貰える。そんなの羨ましいに決まっているじゃん!!!!!!」
颯斗は床にへたり込み、床をドンドンっと叩き出した。時間的に夕方なので、下の階の人に迷惑になる程の音だ。
「おいおい、数秒前までいい雰囲気になっていたのに、突然の裏切りって… よく分からね… 」
突然の颯斗の行動に、海里は頭を抱えながらその場に座り込んだ。
「凄い… 颯斗くんの裏切りっぷりがもう漫画的展開になっているよ」
「まったく… とりあえず、黙らせますか」
未だに叫んでいる颯斗の方に近寄ると、楓は手刀を構え、今度は首元を狙った。
楓の手刀は見事に颯斗の首に当たり、ずっと叫んでいた彼は意識が失ってバタリと倒れ込んだ。
「楓ちゃん… これって颯斗は生きているんだよね?」
「物凄い音がしたから、ちょっと不安なんだけど…」
海里と綾佳が颯斗の事を指差しながら聞くと、楓はニコニコしながら、「大丈夫です!」と答えた。
そして楓は颯斗を椅子に寝かせると、座っていた位置に戻りお茶を啜った。
「それでは颯斗が起きるまで、私たちは楽しくお話でもしてましょうか♪」
「そ、そうだね…」
「う、うん。三人でお話しようか」
海里と綾佳は苦笑しながら、楓に返答した。
それから三人は楽しく談話していると、颯斗が意識を失って三十後に意識を取り戻した。
「あれ… なんか途中途中記憶が抜けているが、何をしていたんだっけ?」
「颯斗、貴方が覚えていることは何ですか?」
意識を取り戻した颯斗に、楓が優しく尋ねる。
「海里が瀬倉さんと同棲していて、マネージャーの仕事をしていた」
「そうですね。それで海里さんに何か言いたいことはありますか?」
颯斗は、楓から海里の方に視線を向けて口を開いた。
「………とりあえず、頑張れよ」
さっきまでの言動との違いに、海里と綾佳は同時に楓の方を向いた。
楓は舌をペロッと出し
「秘孔を押しただけですよ!」
と言った。
だが、海里と綾佳は顔を見合わせたあと、楓の方を向き、「いやいや、それはありえないでしょ!?」と手を振りながら驚いた。
その後、颯斗と楓は帰宅時間と言って帰宅し、波乱の暴露会は無事?に終わった。
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