第159話 カミングアウトしたが…
「ここが海里の住んでいる家か。結構、立派なマンションに住んでいるんだな」
マンションに着いた瞬間、颯斗は上を眺めながら呟いた。海里と綾佳が住んでいるマンションはごく普通だが、颯斗は一軒家住みなのでそう思ったのだろう。
そして前方から名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「綾佳さん!海里さん!お待たせしてすみません」
遅れてやって来た楓だった。
彼女は学校の用事で少しだけ遅れると連絡を受けていた。
「大丈夫だよ。俺たちだって今着いたところだし」
「そうそう!楓ちゃんが謝ることは何もないよ!」
海里たちが楓と話をしている中、颯斗だけは理解が追いついていないらしく呆然としながら三人の会話を聞いていた。
それに気づいた楓は、颯斗の方に視線を向けて声を掛けた。
「颯斗どうしたの?」
「なんで楓がいるんだ?俺、楓のこと誘っていないよ…な?」
「それは海里さんから誘われたからですよ」
「どうゆうことだよ海里!」
颯斗は驚きながら、海里に尋ねてきた。
「えっと… 以前、楓ちゃんの家にお邪魔したから、そのお礼として招待した感じ…かな。だから、颯斗も呼んだんだよ」
「なるほど。そーゆうことなら俺は特に言わないが、前もって言ってほしかったぜ」
「ごめん」
海里は楓ちゃんが前もって伝えていると思っていた。だけど颯斗は何も伝えられておらず、当日のサプライズな感じになっていた。
この段階で海里は気が重くなり、自分たちが同棲していることを伝えるのが嫌になってきた。
◇◆◇◆
全員集合したので海里は部屋へと案内した。
「ここが海里が住んでいる部屋か。一人で住んでいるのに随分と広いんだな」
「こら、颯斗。そんなこと言ったら失礼でしょ!」
「そうだな。海里、悪い!」
颯斗は両手を合わせて謝ってきた。
海里は苦笑しながら返事をしつつ、楓ちゃんに視線を送った。
「楓ちゃん、その… ありがとう」
「いえいえ、これからはお二人のターンなんですから頑張ってくださいよ!」
「頑張りたいと思います」
海里は肩を竦めながら返事をした。
その横で綾佳も苦笑していた。
「それじゃあ、みんなリビングの方に行こうか」
海里は颯斗と楓に向けて呟いた。
楓はともかく、颯斗に他の部屋を見られるのを避ける為である。
リビングに着いた四人は海里と綾佳、颯斗と楓のペアで座った。
そして海里は綾佳と顔を見合わせ頷き、海里は口を開いた。
「それで話したい事があるって言ったじゃん?」
「そーいえば、そんなことを言っていたな」
「話してもいいか?」
「あぁ、大丈夫だぞ」
颯斗は呟き、お茶を啜った。
「実はこの家は俺の家ではないんだ」
「………はっ?海里の家ではないってどうゆうことだよ?だって、海里はここに住んでいるんだろ?」
「もちろん俺はこの家に住んでいるんだけど、本当の持ち主と同棲しているんだ」
「ごめん… 海里が何を言っているのか理解できないわ。海里が同棲?本当の持ち主?なにそれ… 」
颯斗は額に手を当てながら首を振っていた。
情報が整理出来ずに、ぶつぶつ呟いている。
「それで本当の持ち主なんだけど、その人は…」
「誰なんだ?!」
颯斗は顔を上げて聞き返してきた。
一瞬、ビクッとしたが、綾佳が海里の手を机の下で握り、「頑張れ!」と応援してくれた。
その応援に応える為に、海里は深呼吸をして口を開いた。
「俺の横にいる綾佳。瀬倉綾佳なんだよ」
「……… 」
海里がカミングアウトした瞬間、颯斗は急に黙り込んでしまった。
その横にいる楓はニコニコしながら、「よく頑張りましたね」と視線で伝えてきた。
「颯斗くん…?大丈夫?」
ずっと黙り込んでいる颯斗が心配になり、綾佳が恐る恐る声を掛けた。
「………海里。いつから瀬倉さんと住んでいる」
「えっ… その一月下旬くらいから」
「ということは、俺を家に呼ばなかったのは、同棲していることをバレないようにするためだったのか」
「そうゆう事になりますね」
すると颯斗は机をバンと叩くと、その場から立ち上がり海里の方に迫って来た。
「は、颯斗?!どうしたんだよ!?」
「海里、とりあえず一発殴ってもいいか?」
「それは断る!颯斗のパンチは手加減をしらないし、痛いから絶対に断る!!だから落ち着いて」
海里は必死に落ち着くように言うが、颯斗は一向に止まる気配がない。海里は楓に助けを求めた。
「はぁ… もう仕方がありませんね」
楓はため息をつき、立ち上がると颯斗の元へと駆け寄った。
「ほら、颯斗。ちゃんと話を聞きましょうね。そうしないと、海里さんも綾佳さんも困ってしまうので」
楓は颯斗の首を絞めながら伝えた。
行動と言動が一致していなかった。
「楓ちゃんって可愛い顔をして容赦ないよね」
「あぁ… 俺たちも楓ちゃんを怒らせないようにしないとだな」
「そうだね。楓ちゃんとは仲良くが一番だね」
海里と綾佳は顔を見合わせて、楓を怒らせないようにすることを誓った。
楓の首締めにより落ち着いた颯斗は先程いた場所に戻り、お茶を啜った。そして颯斗は、「それじゃあ」と言葉を続けた。
「言い訳を聞こうじゃないか」
颯斗は微笑しながら呟いたが、目は笑ってはいなかった。
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