第158話 颯斗、ついに招待される

 翌日、海里と綾佳は通学路を歩きながら、放課後に行われる暴露会の話をしていた。


「ずっと秘密にしていたことを颯斗に伝えるのか… あいつがどんな反応するか予想できるから、余計に気が重いわ… 」


 海里は肩を竦めながら、ため息をつく。


「うん、私も想像できるよ。それでも友達なんだから、いつまでも秘密にするのは良くないと思うよ」


「そうだけど、友達に隠し事をしている人なんて沢山いるけどな」


「他人は他人。私たちは私たち。だから、他と比べたらダメだよ!」


 綾佳は海里の方に顔を近づけて、右手の人差し指で "めっ!" としてきた。

 

(怒っている綾佳も可愛いな。それに "めっ!"ってなんだよ… 可愛すぎるよ… )


 綾佳のことを見ていると、首を傾げてきた。

 どうやら彼女のことを見つめすぎたようだ。


「海里くん、どうしたの?」


「ちょっと考え事をしていた」


「そっか。内容は気になるけど、学校が見えてきたから見逃してあげよう」


 綾佳が見逃してくれたことに、海里は苦笑しながら視線を前に戻した。


 校内に入り、海里と綾佳が靴を履き替えて教室に向かおうとしたら、今回の主役の颯斗が声を掛けてきた。


「よぉ!海里、瀬倉さん!梅雨が近づいて来たのかねじめじめするね〜」


 靴を履き替えると、ワイシャツをひらひらさせて空気の入れ替えをしていた。

 どうやらじめじめの所為でワイシャツが体にピッタリくっついて気持ち悪いようだ。

 

「おはよう颯斗くん!確かにじめじめするよね」


「おはよう颯斗。そろそろ衣替えの季節だな」


 衣替えのタイミングは六月の下旬なので、まだ海里たちはブレザーを着ている。

 教室に着けばブレザーを脱いでカーディガンの姿になっている人もいるが、学校まで来るのが辛い。


「衣替えなぁ〜 早く半袖になりたいぜ!」


「ほんとだな。だけど、俺はワイシャツ派よりポロシャツ派だから夏はポロシャツだな」


「海里くんポロシャツなんだ〜 私もポロシャツにしようかな… 」


 綾佳は海里の方をチラッと見ながら呟いた。

 だけど段々と声が小さくなり、最後の方は二人には聞こえていなかった。


 教室に着き、それぞれの席に着く。

 颯斗は荷物を置いただけで、すぐに二人の元へやってきた。


「海里くん」


 綾佳は海里の名前を呼んで、颯斗に例の話をするように促してきた。

 海里は彼女を見てため息をつくと、「分かった」と言って頷いた。


「颯斗、今日の放課後暇か?」


「俺は万年暇だから、いつでも誘いはウエルカムだぜ!」


「そ、そうか。なら、颯斗に重要な話をしないといけないから、家に来るか?」


「………… 」


「颯斗…?」


「………… 」


「………… 」


 時間にして数秒だが、お互いに沈黙になった。


「うおぉぉぉ!!!!!ついに海里の家に行けるのか!!!待ちに待った海里の家だ!!!」


 それからすぐに固まっていた颯斗が万歳をして叫んできた。

 同時に颯斗が大声を出したので、教室内にいたクラスメイト達が一斉に向いてきた。


「颯斗落ち着けって。これは俺と綾佳、颯斗の三人だけの話なんだから」


「うふふ… 颯斗くん、海里くんの家に行けるのが嬉しくて感情爆発しちゃったんだね」


「面目ない… んで、重要な話って言ってたけど、学校では話せないことなのか?」


「話せなくはないのだけど、家の方が都合がいい」


 学校でも別に話せる内容だ。

 それでも楓というストッパー係がいないと、話をするのは難しいだろう。


 すでに、家に招待しただけでこの喜びよう。


「分かった。今日一日やる気出てきたわ!」


 それと同時に先生が教室に入ってきたので、颯斗が一言言って席へと戻った。


「海里くん、やっぱり楓ちゃんに協力を募って正解だったかもね。あそこまで喜ぶとは、私も想定外だよ」


「俺もだよ。颯斗のやつ、そんなに家に来たかったのかよ… はぁ、面倒くさいな」


 海里は机の上で突っ伏し、ため息をついた。

 その様子を横で見ていた綾佳は、肩をぽんぽん叩き、「頑張ろうね!」と耳元で囁いた。


◇◆◇◆


 放課後になり、海里と綾佳は靴箱で颯斗が来るのを待っていた。

 教室を出た時に先生に捕まり、そのまま職員室に連れていかれてからだ。


 颯斗が連れて行かれた理由は分からない。


「なぁ、そろそろ帰る?」


「いやいや、颯斗くんを家に招待するんだから、帰ったらダメでしょ!」


 綾佳は手を大きく横に振りながら驚いていた。

 

 颯斗を待ち続けて数十分。

 海里は段々と待つのに飽きてきて、思わず口に漏らしてしまったのだ。


 仮にこれが女子とのデートだったら、速攻で嫌われるに違いない。


「だよな。仕方がない、待つとするか」


「ははは… 海里くん… 」


 海里の台詞に綾佳が呆れた顔をしていると、名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


「海里、瀬倉さんお待たせしました。早速、案内お願いします!」


 颯斗は元気よく呟きながら、テキパキと外履きへと履き替えた。


「分かった。それじゃあ、俺の後に着いてきて」


「おうよ!ついに… ついに海里の家に行けるのか。ほんと楽しみだぜ」

 

「うふふ… 私も色んな意味で楽しみだな」


 海里が歩きだすと、綾佳、颯斗の順に後ろに並んで、二人の家・・・・へと向かった。

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