第153話 堂々としないと!

 日曜日になり自宅撮影当日となった。

 マネージャーの北島から仕事内容を聞いた日から少しずつ部屋の模様替えをしていき、無事に室内は撮影をしても大丈夫になった。


 元々、部屋の中にあった海里の荷物は日用品などばかりで、それらは一旦自分の部屋へと持っていった。


「これで部屋の中は綺麗になったし、撮影されても何も困らないね!」


「あとは、どこで撮影を行うかだな」


「リビングとキッチンになるのかな?」


「う〜ん… 今回は時間も短いからその可能性はありそうだな」


 普段の撮影はほぼ一日になるのだが、今回の自宅撮影に関しては二時間ほどで終わると書いてあった。

 

「でも短い時間で終わってくれるのは嬉しいね!そのあとは仕事から解放されるし、どこかの喫茶店にでも行く?」


「それは仕事が終わってからな」


「楽しみがないと私、仕事頑張れないかも…」


 綾佳は頬を膨らませると、ボソッと呟いた。


(思ったんだが、最近の綾佳は俺に甘えるようなことが多くなってないか?)


 自分の考え過ぎだと思いながら、綾佳のご機嫌をなおすことにした。


「綾佳の言う通り、喫茶店行くから機嫌直してくれないか?」


「………」


「綾佳仕事頑張れ!!」


「ふっふふ… 海里くん、私の機嫌直すのに必死だね。もう仕方がないな。喫茶店行こうね!」


「う、うん… 行こうか」


 なんだか綾佳の手のひらで転がされてる気がしたが、機嫌を直してくれたので海里は頭を掻きながらやれやれとなった。


 

 それから数時間が経ち、北島と撮影クルーが家にやって来た。


「寺本さん、綾佳さんお疲れ様です」


「北島さんお疲れ様です!」


「お疲れ様です。スタッフの方は本当に少ないのですね」


「えぇ、自宅撮影なので必要最低限の人数になりました。これなら大所帯にならずに、綾佳さんも伸び伸び撮影できると思います」


 北島の言う通り普段は数十人といるスタッフだが、今回家にやってきたのは三人(カメラマン・メイクさん・編集部)だ。


「うん!これなら普段のプライベートな感じに撮影できるかも!」


「ということで、綾佳さんは撮影スタッフたちに挨拶に行きましょう」


 北島は綾佳を連れて撮影クルーの元へ行った。


 彼らは着々と撮影準備をしており、部屋の中にはすでに機材が数点置かれている。


 海里は綾佳の邪魔をしないように、なるべく端の方に行き影を薄くしていた。


「海里くん、そんな端にいないで北島さんの横にいなよ!君だってマネージャーなんだから、別に変ではないでしょ」


「………そうだな。バイトのマネージャーだから、あまり邪魔しないようにと思ってた」


「いやいや、私の仕事にずっと着いて来ているし、何なら雑誌デビューしているんだから堂々としないと!!」


「あはは… それもそうだね。いまの綾佳の言葉で色々と吹っ切れたよ」


「海里くんいきなり変わりすぎ(笑) ほら、一緒に撮影内容を聞きにいこ!」


 綾佳に手を差し出された海里は逆の手を伸ばして握り、彼女と共に北島の元へ行った。


「北島さんお待たせしました」


「寺本さん、綾佳さん打ち合わせ始まりますよ」


 四人席にてスタッフの人たちが座り、その対面に綾佳と北島が座った。

 海里の席はなかったが、今回は綾佳の後ろに立つことを決めていた。


「それでは打ち合わせを始めたいと思います」


「綾佳さん、今日は短い時間ですがよろしくお願いします」

「瀬倉さんのことを綺麗に撮りますよ!」


「皆さん、本日はよろしくお願いします」


 北島の合図を機に、スタッフの二人が挨拶をした。そのあとに綾佳は椅子から立ち上がり、二人に向けてお辞儀した。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る