第154話 自宅撮影はスピーディーに
「———という感じに撮影を進めて行きたいと思っています。何か分からないことなどありましたか?」
「質問ではないのですが、なるべく外は写らないようにしてほしいですね。もし目ざといファンがいたら、特定されてしまうので」
「分かりました。こちらも慎重に撮っていきたいと思っております」
「お願いします」
綾佳は座ったまま頭を下げてお辞儀をした。
綾佳が危惧していたのは写真から彼女のファンやゴシップカメラマンが家を特定して押し掛けてくることだ。一般のファンならすぐに見つけられて警察案件になるのだが、ゴシップカメラマンは陰から写真を撮るので見つけられない。
これでもし海里の存在がバレたら、翌日のトップニュースになるだろう。
「それでは綾佳さん時間も押してきているので、早速撮影に移りましょう」
編集部の人が綾佳に声を掛けてきた。
どうやら時間が押しているから、スピーディーに動いていくようだ。
「分かりました!———海里くん、私の携帯でいくつか写真を撮ってほしいのだけどいいかな?」
綾佳は編集部の人に返事をすると、海里の方を振り向き携帯を渡してきた。
「大丈夫だけど… 携帯で撮る必要あるのか?」
「うん。よくSNSとかでオフショットって写真を見るでしょ?本当は北島さんに撮ってもらおうと思ったんだけど、海里くんが暇そうにしていたから仕事をあげようと思ったの!これなら海里くんも簡単なお仕事になるし、撮影見学もできるし一石二鳥みたいな感じになるでしょ♪」
「一石二鳥… か。まぁ、撮影するのは嫌いではないからこれくらいなら喜んで受けるよ」
「それじゃあ、最高の写真を期待しているぞ♪」
綾佳は踵を返し、撮影場所となるリビングの中央へと戻った。
「さてと、俺は俺の仕事を頑張りますか… 」
海里は預かった携帯のロックを開き、カメラを起動した。暗証番号は少し前に教えてもらっていたので、すぐに開くことはできた。
「それでは撮影を始めます」
編集部の人は手を叩きカメラマンに合図をする。
カメラマンは構え、綾佳も指定の位置へと立つ。
「綾佳さんはもう少し二歩横に移動してください。そこだとテレビの反射で写ってしまうので」
「分かりました」
綾佳は指定された位置から数歩右に移動した。
それを確認すると再度合図をして、カメラマンがカメラの位置を調節した。
綾佳のいる場所はリビングで、周囲には観葉植物やハンモックが置いてある。
これらは編集部の人たちが持ってきたもので、部屋掃除した時に空いたスペースに置かれている。
「綾佳ちゃん可愛いね〜 いいよ!! もっと笑顔になっちゃおうか」
カメラマンが綾佳のことを褒めながら次々にシャッターを切る。
その後ろの方では海里が綾佳の携帯を使い、彼女のことを撮っていく。
「それじゃあ、リビングのシーンは次でラストになります」
数十枚と写真を撮っていき、ラストに本を読みながらのシーンを撮る。
「では、和室での写真撮影に移ります。皆さん、早急に移動しましょう」
その掛け声と共にスタッフたちは一斉に動き出し、和室に荷物が移動した。
和室での撮影は何故か水着になり、寝そべっているシーンや将棋をやるというよく分からない設定だった。
スタッフたちが荷物を移動させている間に、綾佳は自室で水着に着替えてきた。彼女の水着は薄紫の水着で、海里としては似合ってないなと思った。
「それでは和室での撮影を始めます」
先程と同じ掛け声をしてカメラマンもまた同じくカメラを構えた。
(綾佳の水着をまた見ることになるとは… だけど、夏の日はもう少し似合っている水着を見たいものだな)
夏への期待を込めながら、海里は綾佳に向けて携帯を向けた。
「綾佳さん。少し机の上に乗ってポーズをしましょう。そうすれば、売り上げは上がるはず… 」
編集部の人は段々と声が小さくなり、最後の方はここにいる人たちは誰も聞こえていなかった。
そんなことを知らずに撮影と割り切りながらも、海里に見られているので綾佳は少しだけ頬を赤く染めていた。
「綾佳ちゃんいいね〜!だけど、少し頬を赤くしているのはダメだからね」
「すみません!すぐに抑えます!!」
撮影は一旦休憩になり、綾佳は北島がいつの間にか用意していたタオルに巻かれた保冷剤を頬に当てて赤かった頬を冷ましていた。
「うん、撮影再開しようか」
ものの数分で赤みを抑えた綾佳は、カメラマンに声を掛けて撮影が再開された。
それからいくつかのポーズをして写真を撮ったが、数枚に編集部の人(女)の趣味だろうと思われる際どいポーズがあった。
その写真を撮った時も海里はオフショット用に携帯で撮っていたが、内心他の人には見られたくないと独占欲が湧いていた。
「これで撮影は終了になります。あとは確認になりますので、綾佳さんお願いします」
「はい!いま、行きます」
綾佳は水着の上にパーカーを一枚羽織、編集部とカメラマンのいるパソコンの元へ向かった。
確認作業は数十分で終わり、何も問題はなかったので片付けをして撮影スタッフたちは撤収した。
撤収までの時間は確認が終わってから15分だった。かなり時間が押していたらしい。
「海里くん、携帯見せてくれる?」
「あっ… うん、分かった」
綾佳に言われて海里は携帯を彼女に返した。
その時にパーカーの隙間から見える水着とふくよかな胸元に目がいってしまう。
(綾佳って、改めて見ると着痩せするタイプなんだよな。制服や私服の時はあまりないように見えるし)
そんなことを思いながら彼女の胸元に視線を向け続けていると、綾佳もその視線に気づいたようだ。
「海里くん… そんなにジロジロ見ないで… 恥ずかしいから… 」
綾佳は胸元を腕で軽く隠しながらもじもじして、段々と声が小さくなっていった。
「ご、ごめん」
海里は急いで視線を横に移しながら謝った。
「………うん。あと、海里くんが撮ってくれた写真は全て大丈夫だったよ… 」
「そうか… 全て使える写真で一安心だよ」
「もし… 海里くんが見せたくない写真があったら後で教えてね… 」
海里は頷き、そして頭を掻いた。
気まずい雰囲気の二人を見ながら、一人遠目から見ていた人がいた。
それは———撮影スタッフたちに挨拶をして、駐車場まで見送りに行き戻ってきた北島だ。
帰ってきたらお互いに気まずい雰囲気になっていたが、どうみても周りにハートが浮かんでいる。
北島はため息をつき、ジト目で二人を見つめた。
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