第152話 何でも頑張れる気がします

「海里さん、初めてジムはいかがでしたか?」


 ルームランナーを終えたレイナが、海里の元へやって来た。そして初ジムの感想を聞いた。


「そうですね。最初に飛ばし過ぎたので、次はペース配分を考えながらやろうと学びました」


「あらら… 確かに初心者の方はペース配分が分からずにやってしまい、最後の方はヘトヘトな方をよく見ますね」


「ほんとはルームランナーもやりたかったんですけど。今日はもう無理ですね(笑)」


「なんだ、海里はこんなのでヘトヘトなのか?」


 レイナと話していると、ルームランナーを終えた麗音がやってきた。

 彼女もまた走っていたので、蛍光灯のライトもあり汗が輝いて見えた。


「張り切り過ぎて体が限界を迎えました(笑)」


「アイドルのマネージャーをやるなら体力は必須だから、これからは適度に運動して体力をつけて行かないとな」


「そう思い、体を鍛えることを新たな目標にしました。三日坊主にならなければいいのですがね(笑)」


「それはあれだ。綾佳に監視してもらえばサボることもないだろ。一緒に住んでいるのだし」


 麗音の言う通り自分は綾佳と同棲している。

 一人だったらサボっているかもしれない筋トレも、綾佳が近くにいるなら頑張れる気がした。


 ふと、綾佳の方を見ると彼女は必死に走っている。そして視線に気づいたのか、海里の方を向き手を振ってきた。

 海里は手を振り返りして、麗音の方に視線を戻した。


「そうですね。綾佳がいれば何でも頑張れる気がします」


「惚気だな」

「惚気ですわね」


 麗音とレイナはお互いに顔を見合わせると、一言言って頷いた。


「惚気てませんよ!!」


 即座に反応して二人の台詞を否定した。


「なになに、皆何の話をしているの?」


 そこへ走り終わった綾佳もやってきた。

 彼女もいい汗をかいており、タオルで汗を拭いていた。

 

「………っん。綾佳さんがいれば海里さんは何でも出来るそうですわよ。なので、これから体を鍛えるらしいので監視してほしいらしいですわよ」


「海里は綾佳のことが大好きなんだな」


「あの… ほんと恥ずかしいので、リピートみたくするのはやめてください… 」


 海里は下を俯きながら、ボソッ…と呟いた。

 ふと、綾佳の方を見ると、彼女もまた下を俯いたいたが、耳が赤くなっているのが見えた。


「分かったよ。それと瀬倉も何赤くなっているんだ?ほら、いつも見たいに元気な瀬倉に戻れ」


 麗音は綾佳の脇腹を両手で掴み、そしてくすぐりだした。

 綾佳はくすぐりに耐え切れなくなり、ポツポツと声が漏れていた。


「もう、麗音ちゃんくすぐるのはやめてよ!!海里くんに恥ずかしい所を見せちゃったじゃん!!」


「そのおかげで、もう一つの方は気にならなくなっただろ?」


「そうなんだけど… 」


 麗音はやれやれと思いながら綾佳の耳元に近づき口を開いた。


「(海里は綾佳のことを意識はしているぞ。ただ、あいつはヘタレだからその先に進めないだけだ。綾佳がもっと誘惑すれば堕ちるのも時間の問題だな)」


「(誘惑か… どんなことをすればいいんだろう)」


「(例えば、海里がお風呂に入っている所に瀬倉も侵入していく方法や胸元を軽く開けたパジャマを着て海里のベッドで一緒に寝るとかな)」


「れ、麗音ちゃん?!なに言ってるの!!」


 突然大きな声を出した綾佳に、休んでいたレイナと海里は不思議そうな顔をして視線を向けた。


「綾佳急に大声を出してどうしたんだ?」


「そうですわよ。綾佳さん、もう少し静かにしましょう」


「そんなことを言われても、麗音ちゃんがとんでもないことを言ってきたから」


「瀬倉が知りたいって言うから例を教えたんだろ。とんでもなくはないはずだ」


 あくまでも麗音は綾佳のために教えたから何も悪くないと言いたいらしい。

 その会話でレイナは、「あぁ、例の話ですか」と何となく察したらしい。


 だけど海里だけ会話にはついてこれず、首を傾げながら耳を傾けていた。


「とりあえず、私が言ったことのどれかをやれば成功率は上がるだろ。それをやるかは瀬倉次第だがな」


「綾佳さん。焦らずに慎重に行くのも大事ですから、よく考えてくださいね」


「うん… 分かった」


「結局、三人は何の話をしていたんですか?」


 話がまとまったと思い、海里は三人に聞いた。


「うふふ、海里さんは楽しみに待っていたらいいのですわよ」


「そうそう。だが、一言いうとすれば、海里は男なんだからへっぴり腰にはなるなよ」


「は、はい。まだお二人の言っていることは分かりませんが、頑張っていきたいと思います」


 海里の言葉を聞き、麗音とレイナは微笑しながら頷いた。


「では本日はこちらでお開きにしましょう。第二回も再開できるのを楽しみにしてますわ」


 レイナの台詞で海里たちは着替えをして、それぞれ帰路についた。


◇◆◇◆


 夜の身支度を終えた綾佳は自室のベッドでうつ伏せになりながら、麗音に言われた言葉を思い出していた。


『海里がお風呂に入っている時に、綾佳が侵入して体を洗ってあげる』


 だけど海里はすでにお風呂を終えて、自室の部屋にてもう寝ている可能性がある。


 なら、もう一つの方法は———


『胸元を軽く開けたパジャマで海里の部屋に行き、ベッドで一緒に寝る』


 綾佳はベッドから起き上がり、今着ている自分のパジャマを見た。


「これは… お色気作戦に向いていないよね?」


 綾佳が着ているパジャマはTシャツタイプなので、ボタンなどが一つもない。


 つまり海里を誘惑することができない。

 

「………うん。とりあえず、今回は見逃してあげよう。そして、私は誘惑できるパジャマを探そう」


 綾佳はもう一度ベッドにうつ伏せになり、携帯で新しいパジャマを検索して探していたら


 寝落ちした。

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