第149話 がんばれ北島さん!

 目の前にある机の上には、自分が女装で参加した雑誌の献本が置かれている。

 それを手に取りページを捲ると、最初の6ページに海里たち三人が載っており、綺麗にまとめられていた。


「綺麗に写真まとめられていていいね!それに海里くんもちゃんと女の子に見えるし、捲るごとに私やレイナちゃんではなくて海里くんに目が惹かれる!」


「そうですね。私も届いた時に一足早く見させていただいのですが、寺本さんの才能を感じました」


 綾佳と北島は海里の女装を大絶賛してきた。

 それを聞いて、何だか恥ずかしくなった海里。


(恥ずかしすぎる。それに才能ってなんだよ?!)


 耳を真っ赤にしながら、海里は北島にそのことを聞くことにした。大体の予想はついているが。


「北島さんが言っている才能って何ですか?」


「……っん。女装に決まってるじゃないですか」


 予想通りの言葉が返ってきたので、海里は顔を引き攣りながら口を開く。


「ですよね… ですが、俺は女装の才能を開花させたくはないですね。もし開花させるなら、男らしい衣装を着こなしたり、もちろんマネージャーの仕事も望みたいですね」


「つまり海里くんはコスプレをしたいと?」


「コスプレ… そうだね。俺はコスプレに興味があるのかもしれない」


 以前、なんかの雑誌でアニメやゲームのコスプレをしているのを見てカッコいいと思ったことがあった。そして女装の時に変身が出来たので、コスプレの興味が出ていた。


 だけど、女装がきっかけにはしたくはない。


「そうか〜 海里くんはコスプレしたいのか!海里くんがコスプレするとしたら、魔法少女や漫画のヒロインとか似合いそうだな〜」


 綾佳は感慨深くしながら、海里がコスプレした時の想像をしていた。


 が、


 何故自分がコスプレするのが女性キャラ限定なのか、海里は彼女に一言物申した。


「綾佳には悪いが、俺は男性キャラをやりたいんだ。女性キャラは俺がやったらダメなんだ」


 突然の抗議にも関わらず、綾佳はコクコクと頷きながら海里の話に耳を傾けている。目の前にいる北島は携帯を取り出して何か操作していた。


 それから海里は、「何故かと言うと」と言葉を続けた。


「女性キャラには女性キャラなりの魅力があり、少しでも身長や体つきが変わるだけで全てが台無しになる。男性キャラに関しても、俺はそのキャラになれないと思ったらやりたくないと思っている。イメージを崩したくないんだ」


「なるほど… 海里くんが男性キャラね… あまり想像つかないけど、海里くんがやりたいならいいかもね!」


「ちなみにだが、俺が男性キャラをやるなら、女性キャラは綾佳だからな?」


「………えっ?!」


 海里の台詞に綾佳はすっごい驚いていた。

 彼女を見ると、「まさか自分までコスプレすることになるの?!」って感じに視線を海里に向けていた。

 

「綾佳の場合は… ラブコメのヒロインとか似合いそうだな。黒髪だし、胸もそこそこあるし」


「———っ!!海里くんのえっち… 」


 綾佳は両手で胸を隠すと、顔を赤らめながら頬を膨らませて、ボソッ…と呟いた。

 そして、「あと」と言葉を続けた。


「そーゆう話は、私と海里くんの二人のとき・・・・・にしてほしいな… 」


 綾佳は段々と話す言葉が小さくなっていった。

 隣にいた海里は最後まで彼女の言葉を聴こえていたので、自分の耳が赤くなるのが分かった。


「その… 今後は気をつけます… 」


「………うん」


 海里と綾佳は少しぎこちない感じになっていると、静かだった北島が口を開いた。


「何度も言いますが、私たちの事務所は恋愛してもいいので。アイドルが恋愛禁止なんて可哀想ですよ。なので、さっさと———」


「———北島さん。少し静かにしてくれませんか?」


 綾佳は笑ってはいるが、目の奥には何かしらの殺意が感じる。


 そして北島の言葉に、海里は少し考える。

 何度も伝えられている、『恋愛しても良い』と言う言葉。そして先程北島が言った、『アイドルが恋愛禁止は可哀想』の台詞。


(つまり身内であれば、アイドルとの恋愛は事務所的には想定内ということか。変な男に捕まるよりかは安心だもんな)


 それに北島は、「事務所が守ります」的なことを言っていた。


「まぁ、俺なんかでは相手にはならないよな… 」


「相手って何の相手?」


「……っあ」


 思わず溢れた言葉を綾佳に一語一句聞かれた。

 海里は、やばっ… という感じに彼女を見た。


「それで、相手ってどの相手のことを言っているのかな?」


「それは… まだ言えない。俺にはその権利はまだないから。もう少し待ってほしい」


「もう… 海里くんはいつもそうなんだから。だけど、そんな海里くんも好きだな〜(ヘタレだけど)」


「ありがとう」


「うん!———そうだ!土曜日にでも、一緒にジムに行こ!たまには気分転換に体を鍛えるのもいいかもよ?」


 綾佳は手を合わせると、微笑しながら海里に提案してきた。

 海里は体を鍛えるのは好きではないが、折角の綾佳の提案なので行くことにした。


「そうだね。俺、ジムって行ったことないから少し楽しみかも」


「初めてなんだね!それなら、全て頼んでおくから海里くんは手ぶらで大丈夫だよ!」


「頼んでおく?」


「そう!だけど、それは当日のお楽しみ!」


 綾佳は、うふふ… としながら、北島に視線を向けた。


「そうゆうことなので、土曜日は仕事が入らないようにしておいてください」


「分かりました。ですが、日曜日の撮影に影響がない程度にしておいてくださいよ」


「そこら辺は大丈夫です!」


 綾佳は自信満々にサムズアップした。


「では、寺本さんも監視の方を頼みましたよ」


「はい。頑張りたいと思います」


 話が一段落着くと、事務所の窓から見える外は夕焼けから暗くなっていた。

 ということで、海里たちはここいらで帰ることにした。


「それじゃあ、北島さん日曜日はよろしくお願いします」


「えぇ、集合は綾佳さんの自宅なので大丈夫だとは思いますが、早く起きておいてくださいよ」


「大丈夫ですよ!海里くんがいるので!」


 綾佳は海里の肩をぽんぽんと叩きながら微笑していた。


「起きていなかったら、俺が無理矢理毛布を奪って起こしますので」


「分かりました。それでは帰り道はお気をつけて」


「ありがとうございます」

「失礼します」


 二人は北島にお礼をすると、ドアを開けて事務所を後にした。


 残された北島は、事務所内をキョロキョロと見回すと一つ息を吸って———


「あの二人… さっさと付き合えよ!!見ているこっちが恥ずかしくなってくるわ!!」


 この数時間の間に言いたかったことを、一気に吐き出していた。

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