第147話 どちらか一つを選んでください

 あれから数日が経ち、中間テストの最終日になった。水瀬家で勉強会をした海里たちは、それから学校や自宅にて必死にテスト対策に取り組んだ。


「海里くん。全てのテストが終わったけど、手応えはどうだった?」


「………っん。あまり自信ない。だけど、綾佳や颯斗に教えてもらったから赤点は回避できたはず」


「とりあえず、赤点を回避できそうならよかったね!赤点だったら仕事に影響しちゃうもんね」


「俺よりも綾佳の方がどうだったんだよ」


「私はね…… そこそこ行けたと思う!」


 海里は机にうつ伏せになった状態で綾佳に尋ねた。マネージャーである自分は赤点取っても支障はないと考え、アイドルである綾佳は赤点取ったら大問題。なので、心配をしていたが、そんな心配はいらないようだ。


「海里!瀬倉さん!テストお疲れ!」


 ご機嫌な様子で颯斗が二人の元へやって来た。


「お疲れ。俺はもう力が抜けたよ」


「颯斗くんもお疲れ様!颯斗くんはどうだった?」


「俺はもう完璧だぜ!」


 サムズアップしながら自慢げに言ってきた。


「まぁ、颯斗はテストの結果を見てたからそんなことだと思っていたよ」


「海里はもう少し元気を出せよ。きっと赤点は取ってないし、五十点以上は取れてるさ」


「そうだといいけどな」


 すると、海里と綾佳の携帯が鳴った。


 確認すると———


『学校が終わり次第、事務所に来てください』


 北島からのメールだった。


「あっ、颯斗くん。今日はもう学校終わりだよね?」


 メールを確認した綾佳は、颯斗に尋ねた。

 

「そうだな。あとは先生の話があって終わりだな」


「ありがとう!早く先生来ないかな〜」


「何かあるのか?」


 ウキウキしている綾佳を見て、颯斗は首を傾けながら聞いてきた。


「えっとね… 詳しくは言えないのだけど、仕事の話がありそうなの」


「それで楽しそうだったのね」


「もちろん!無理をしない範囲で頑張りたいし、仕事を楽しみたいからね!」


「その情報が聞けるのを楽しみにしているよ。なっ、海里!」


 颯斗は机でうつ伏せになっている海里の肩にトンっと手を置き呟いた。


 海里はその姿勢のまま、「……あぁ」と言った。


「みんなー席に座れ。ホームルームするぞ」


 教室の前から先生が入ってきて、ホームルームが始まった。


◇◆◇◆


 放課後。

 海里と綾佳は事務所へとやって来た。

 室内に入ると、社長の国見はどこかに出掛けているみたいで、北島が忙しそうにしていた。


 なので、海里たちは北島の仕事が一段落つくまで椅子に座って待つことにした。


「北島さんが話したいことって、やっぱり仕事の内容だよね?」


「そうだな。北島さんが仕事を持って来てくれるし、それしかないだろ」


「今回はどんな仕事になるのか、いまからワクワクするね!」


 綾佳は微笑し、用意されていたお茶を啜った。


 それから数分が経ち、北島が仕事を一段落させて海里たちの元へやって来た。


「お待たせしました。では、早速仕事の話をしましょうか」


「お願いします!」


「今回の仕事の話は二つありまして、綾佳さんにはどちらかを選んでほしいのです。もちろん、二つとも受けてほしい気持ちもあるのですが、所属アイドルの意見を大事にするのがうちのモットーなので」


 北島は説明をすると、机の上に二枚の紙を乗せた。


 一枚目の紙には、『恋愛リアリティーショー』と書いてあり、出演した俳優・モデル・タレントなどが恋愛をする番組だ。


 だが、これに関してはアイドルが出るのはダメだろうと海里は思った。


 二枚目の紙には、『自宅撮影』と書かれてあり、そのままの意味で自宅でグラビア撮影などをするらしい。


 どちらも選びにくい仕事だった。


「綾佳さん、どちらも無しは辞めてくださいよ。どちらか一つを選んでください」


「そう言われると、自宅撮影しか選べないね。私、恋愛番組とか出たくないから」


「分かりました。では、選ばなかった方はこちらでお断りの電話をしときます」


「ありがとうございます」


 綾佳が恋愛番組の出演を断ったので、海里は内心ホッ…としていた。


 自分の担当アイドルが、他の男とイチャイチャしている姿を見たくないし付き合う可能性がある番組に出てほしくない。


(あれ… もしかして、ヤキモチ妬いているのか…?)


 それがヤキモチとはまだ納得できていない海里。

 いわゆる、鈍感男である。


「それでは、自宅撮影について話していきたいと思いますが… 」


 北島は海里と綾佳をそれぞれ見ると、一つ咳払いをしたあと、「まず始めに」と続けた。


「撮影日までに寺本さんの荷物は見えない所に移しておいてください」


「「……えっ?」」


 北島からのまさかの発言に、お互いに顔を見合わせてから同時に驚いた。

 

 

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