第146話 ノリが良い姉妹だ

 水瀬翼がクッキーを部屋に持ってきて、楓の隣に座ったのだが


(颯斗の顔がすごいことになっているな)


 彼女が座ったのが楓と颯斗の間なので、彼は隣にいる現役アイドルの顔を横目に見てはすぐに視線を戻して緊張していた。


「とりあえず、勉強会の邪魔をしてごめんな」


 翼は妹の楓を見てから海里、颯斗、綾佳とそれぞれ視線を向けた。


「大丈夫だよ!休憩中だったし、人数増えた方が楽しいし!」


「それって、勉強会ではなく、お話し会に変わる未来が見えるのだが…」


「水瀬さんの言う通りだと思いますよ。綾佳は何も考えずに言ってるだけだと思いますし」


「………あなたは誰ですか?」


 翼は海里に視線を向けると、腕を組みながら首を傾けた。


(えっと… これは何と言えばいいのかな…)


 自分の目の前と左には翼、楓、綾佳がいる、その右には颯斗がいるのだが———


 この颯斗が問題なのだ。


 彼には、自分がマネージャーであることを一言も言っていない。

 楓は何かしら気づいているらしいが、彼には何も話していないらしい。


(さて、どうしたものかな… )


 と考えていると、綾佳が口を開いた。


「この子は寺本海里くん。私と颯斗くんと同じクラスの友達だよ!」


「ふむ… クラスメイトなのか。それにしては瀬倉とかなり仲良いようだが」


 なかなか察しのいい翼さん。

 どうしようかと考えていると、楓が姉の翼に耳打ちしてきた。


 それを聞いた翼は、口角を少し上げた。


「そうか。瀬倉、なかなかいい人を見つけたな」


「えっ、翼ちゃん何言っているの?!」


「大丈夫だ。楓から大体の話は聞いた。私は口外することはない」


「………分かった。それとありがとう」


 綾佳は下を俯きながら、ボソッ…と呟くと、横目で海里のことを睨んでいた。


 何故、楓ちゃんが事情を知っているのかと。


 海里は目線を逸らしつつ、ずっと話を聞いていた颯斗の方を見た。


 彼の目には、「翼の言っていることを教えなさい」と訴えているように見えた。


「颯斗、俺にも何が何だか分からない。きっと、俺たちには関係がない話だろう」


 海里は自分・・には関係がないように颯斗に伝えた。

 

「………納得いかないが、海里がそう言うなら」


 颯斗は訝しい顔をしながら、海里の台詞に納得してくれた。

 

「それで、翼ちゃんは最近何していたの?」


「ちゃんとアイドルの仕事をしているぞ。それよりも、瀬倉の方は調子が良さそうだな」


「うん!あのグランプリのおかげで、仕事はとても順調だよ。だけど、マネージャーの調節のおかげで学生生活も楽しめているよ!」


「それにSNSも人気らしいな。見たぞ、女装マネージャーの写真を。あれには私も目を惹かれた」


 そう言いながら、翼は海里の方をチラッと見た。


 海里は頬を掻きながら苦笑した。


「ここでお知らせがあります。その女装マネージャーが表紙の雑誌が今度発売されます!まだ発表されていないので、口外をしないでね」


「ほぉ… それはまた面白そうな雑誌が出るな」


「そうなのですね!私、その雑誌は必ず買います」


「俺は楓から読ませてもらおうかな… 」


 翼、楓、颯斗の順に呟いた。

 特に水瀬姉妹は海里の方を見ながら言っているので、海里は、そっ… と視線をずらした。


「みんな、ありがとう!!発売されるのを楽しみにしていてね!」


 水瀬姉妹は首を縦に振り、サムズアップした。

 とても仲が良く、ノリが良い姉妹だ。


 それから話が盛り上がり、ふと窓から外を見ると夕焼けが綺麗に見えた。

 

「もうこんな時間か。話し込んでしまって悪かったな。勉強もあまり進んでいないようだし… 」


「翼ちゃんは何も気にしなくていいよ!ちゃんと家でもやるし、点数だって取れるから!」


「お姉ちゃん、私だってやれるもん!」


 楓の言葉を聞いて、姉の翼は信用していない視線を送った。

 

「とりあえず、楓の彼氏くんよ。妹の勉強をテストギリギリまで見てくれないか?自分のと両立は大変かもしれないが」


「は、はい!楓さんのお姉さんの命令には従います。はい… 任せてください」


 普段、綾佳と話している時は緊張していない颯斗が、楓の姉でありアイドルの翼には緊張して言葉が変になっていた。


(綾佳だってアイドルなのに、なんで翼にはあんなに緊張しているんだ?やっぱり、彼女の姉というのが関係してくるのかな…?)


 そう思いながら、海里は荷物を片付けていく。

 綾佳も帰り支度を始めていき、机の上には空になった皿とコップ、楓の教科書とノートが残っていた。颯斗は大体、床に置いていたので。


「今日はありがとうございました。楓ちゃん、一緒に試験を乗り越えようね!」


「はい!海里さんも頑張ってください!」


「翼ちゃんも、今度麗音ちゃんやレイナちゃんたちと一緒に遊ぼうね!」


「考えておく」


「それじゃあ、俺も帰るわ。楓、何か分からないことがあったらメールしろよ」


「うん!速攻で電話すると思う!」


「速攻かよ… (笑)」


 それぞれ挨拶をして、海里たちは水瀬家を出た。


 駅前に着いた海里たちは颯斗と別れ際の話をしていた。


「それにしても、あまり勉強進まなかったが海里大丈夫か?」


「多分… 大丈夫だとは思う。とりあえず、テストまで抗ってみるよ」


「安心して颯斗くん!私、海里くんに勉強教えるから」


「心強い仲間がいるな!俺も見てやりたいが、楓のもあるから瀬倉さんに頼んだ!」


 颯斗は綾佳に向けてサムズアップした。


「頼まれました!」


 綾佳は彼の台詞に対して、敬礼をして返答した。


「じゃあ、お二人さんまた学校でな!」


 海里と綾佳は、颯斗が見えなくなるまで改札口を見つめていた。

 

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