第144話 楓、感激です!
中間考査まであと五日と迫った週末のお昼。
海里と綾佳は以前約束していた通り、楓の家にて勉強する為に最寄駅にて颯斗を待っていた。
楓の家は初めて行くので、颯斗が案内してくれる手筈になっていたのだが、いつも通り遅刻している。
「私、颯斗くんが遅刻するの慣れてきたよ」
「綾佳は遅刻なんてしたらダメだぞ。芸能界は遅刻したものには容赦しないって聞いたことあるし」
「そうそう、前にね私と共演した人が、その日に遅刻したの。そしたら、監督さんが物凄い鬼の形相になって、撮影が一時間も遅れたんだよね」
「それは怖いな… その人は最後は許してもらえたのか?」
「控室に土下座しに行ったって聞いてるよ。それを聞いて、私は遅刻しないようにしようと決意した瞬間だったね」
綾佳はその時のことを思い出しているのか、腕を組みながら頷いていた。
海里にとっては生々しい体験を聞いたので、苦笑しながら頬を掻いた。
「おーい。海里、瀬倉さん、お待たせ」
目の前から名前を呼ぶ声が聞こえた。
二人は目を凝らして見つめると、大きく手を振りながら走ってくる颯斗がいた。
「はぁ… はぁ… お待たせ。ちょっと、楓の家でゆっくりしていたら時間が経っててさ… 」
「待ち合わせをしているのに、ゆっくりする奴がいるか?もう少し、時間を気にしろよ」
「まぁ、いいだろ。瀬倉さん、楓が待ってるから、早速行こうか」
「ははは… それじゃあ、お願いします」
颯斗は踵を返して案内を始めた。
その後ろに綾佳も続き、海里は嘆息しながら彼女の背中を追いかけた。
「ここが楓の家になります!」
「一軒家なのか」
「楓ちゃん家、とても素敵だね!」
駅前から十五分歩き、やっと楓の家に着いた。
五月の中旬なのでまだ暑くは感じないが、真夏になれば汗ばむだろう。
(そー言えば、楓ちゃんの家ってことはアイドルの水瀬翼もいるんだよな)
一応、綾佳は大丈夫と言っていたが、やはり一度戦った相手だ。
何かしら起こるな違いないと海里は思っていた。
「綾佳、もし水瀬翼にあっても敵意だけは剥き出さないでくれよ」
結果、海里はよく分からないことを言った。
「大丈夫だよ。私、翼ちゃんが大好きだし!」
「そ、そうか。まぁ、怒らせるようなことはするなよ」
「もちろん!」
綾佳は口角を上げて、サムズアップした。
「それじゃあ、中に入ろうぜ」
颯斗は外のインターホンを鳴らし、楓を呼んだ。
———ガチャ
「海里さん、綾佳さん、ようこそ水瀬家へ!」
ドアを開け、楓が出てくると満面の笑みをして、二人を歓迎した。
「楓ちゃん、私の無理なお願いを聞いてくれてありがとう!」
「いえいえ、私の家を選んでいただきありがとうございます。頑張って、部屋の掃除しました!」
「うふふ… それじゃあ、部屋楽しみにしてるね!」
「は、はい!どうぞ!」
楓に連れられ、他の部屋は一つも見ることはなく彼女の部屋へと連れてかれた。
「あの… どうぞこちらに座ってください」
楓は部屋の真ん中に小さい机と四つの座布団が置いてある所を指差し、もじもじしながら言った。
彼女の部屋は姉の翼とは別らしく一人部屋。
部屋の中には先程の小さい机のほかに、勉強机やベッド、それに本棚などがとても綺麗に配置されていた。
「ありがとう!」
「失礼します」
海里と綾佳は一言言ってから座る。
颯斗は無言のまま座布団の上に乗り、そのまま腰を下ろした。
「あっ!楓ちゃんにお土産があるの!」
そう言って、教科書やノートを入れてた鞄の他にもう一つビニール袋があった。
その中には、駅前で買ったケーキが入っている。
「ありがとうございます!こちらはすぐに用意してきますので、お二人はゆっくりしていてください」
「おっ、それなら俺も手伝うぞ」
「当たり前でしょ」
海里と綾佳を部屋に残して、楓と颯斗は台所へ向かった。
相変わらずの主従関係を垣間見て、二人は顔を見合わせて苦笑した。
「それじゃあ、俺たちは準備でもして二人が戻ってくるのを待とうか」
「うん!勉強会は楽しみだけど、話し込んで勉強が捗らないかも(笑)」
「試験勉強あるあるだな。とりあえず、頑張ろう」
「もちろん!仕事に影響が出ないように頑張る!」
仕事に影響とは、テストで悪かった場合のみに行われる補習がある。
その補習が仕事と被っていたら、どちらか選ばないといけない。特に芸能活動を許可してもらっている分、二人は特に頑張らないといけない。
「お待たせしました。綾佳さん、とても素敵なケーキありがとうございます!」
楓がお盆にお皿に乗せたケーキを持って部屋に入ってきた。その後ろには、颯斗が片手にコップを持ち、反対の手には紅茶のペットボトルを持っていた。
「喧嘩になるとあれだから、四つともモンブランにしちゃったけど、喜んでもらえてよかった!」
「いえいえ、そこまで気を遣っていただき、私感激です。部屋の中にいるだけでもう泣きそうです」
楓は両手で口を押さえ、綾佳の方を見つめる。
そんな彼女に見つめられ、綾佳は照れ隠しなのか頬を掻きながら苦笑する。
「それじゃあ、あとでツーショットでも撮る?」
「そんな恐れ多いですよ!!お金も払っていないのに、タダでツーショットなんて… 」
「楓ちゃんならいつでもウエルカムだよ!」
「うぅ… それじゃあ、お言葉に甘えて… 」
楓はもじもじしながら言うと、一気に恥ずかしくなってのか颯斗の腕をぽんぽん叩き出した。
そんな中、マネージャーとしては止めなければいけないはずの海里は
(楓ちゃんはいい子だし、悪用はしないから大丈夫だろ)
と考え、二人の会話を微笑ましく聞いていた。
すると、颯斗が珍しく咳払いをすると…
「それじゃあ、勉強会を始まるぞ」
教科書をケーキや飲み物の邪魔にならないように机の上に置いた。
その一言で一気に空気は変わり、四人は試験勉強の姿勢へと移した。
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