第139話 side 水瀬楓
海里たち三人が屋上で昼食を取っていた頃、同時刻、別の学校の庭園にて昼食をしていた人がいた。
「楓ちゃん、今日のお昼も美味しそうだね!」
「ありがとうございます!」
彼女の名前は水瀬楓。
颯斗の彼女で、水瀬翼の妹である。
「最近の楓ちゃん生き生きしているけど、何かいいことがあったの?」
楓の友達は、ニヤニヤしながら聞いてきた。
「………えっ。そんなことは無いよ」
「もしかして、例の彼氏くんのおかげかな〜?」
友達は楓の彼氏のことを知っている。
以前、彼女が颯斗とお出掛けしている時に、友達と鉢合わせになり、それ以降ずっとこの調子だ。
楓にとっては少しだけ迷惑と思うところもあったが、構ってくれる嬉しさもあり複雑な気持ち。
「颯斗は関係ない」
「はっはは… だとしたら、何だろう」
友達は顎に手を当てながら考えだした。
すると———
楓の携帯が鳴った。
彼女はポケットから携帯を取り出し、操作をすると颯斗からのメールだった。
『テスト勉強する為に瀬倉さんが楓の家に行きたいって言っているんだが、大丈夫か?』
メールを開くと、楓の推しである瀬倉綾佳が自分の家に来たいと書いてある。
その文を見るだけで、彼女の口元が緩んでしまう。
「……っな?!私が知らない楓の表情をしているだと… 私の楓なのに… 」
「いやいや、私の楓って… 私は貴方のものではありむせんよ」
「ねぇ〜 そんなこと言わずに、ほら、唐揚げあげるからさ〜!!」
友達はお弁当から唐揚げを一つ取り、楓の方に渡そうとしてきた。
それを無視して、楓は颯斗にメールを返信した。
『大丈夫!是非とも来てください!!部屋の掃除をしておかないと!!それと、お姉ちゃんと鉢合わせになる可能性があるんだけど、大丈夫?』
楓は綾佳と翼が鉢合わせらことに不安を感じていた。彼女の姉は綾佳のことを敵対している訳ではないのだが、好敵手なので妹として心配だった。
「あの… 唐揚げ…食べませんか?」
「はぁ… 仕方がありませんね」
楓は諦めて、友達から唐揚げを貰った。
その唐揚げを一口齧ると、少し冷めてはいたが外はカリッと中はジューシーでとても美味しかった。
「どうですか?私のお母さんが作った唐揚げは?」
「とても美味しいですよ。お返しと言ってはなんですが、ミートボールをあげます」
楓は四つあるうちの一つを箸で取り、友達のお弁当に入れた。
友達は一口でミートボールを食べると、頬に手を当てて美味しそうな表情をしていた。
すると、また携帯が鳴った。
『瀬倉さん、前向きにお姉さんに会いたいって言っているから大丈夫だと思う』
楓はメールの内容を見て、うふふ… と漏らして返信をした。
『綾佳さんらしいですね!では予定が決まったら教えてください。それと、今回もちゃんと私のテスト勉強も付き合ってくださいよ!』
送信すると、すぐに颯斗から返信が来た。
『中間テストの一週間前の休日になると思う。もちろん、並行して勉強教えるぜ!』
楓は微笑し、携帯をポケットにしまった。
「もう一個、唐揚げ貰いますね!」
気分が良くなった楓は、友達のお弁当から一つ唐揚げを箸で取った。
友達は、「あー!!私の唐揚げちゃんが…」と涙目になりながら嘆いていた。
「楓ちゃん、覚悟は出来ているね… 隙あり!!」
「………っん?!………私のミートボールが!!」
楓が唐揚げを堪能していると、友達が横から一つのミートボールに箸を刺して自分の方に持っていった。
彼女は唐揚げを飲み込むと、友達の方に手を伸ばして食べられそうになっているミートボールを見つめた。
「ふふふ… 美味しかったよ」
「私のミートボールちゃんを二個も食べられて良かったですね」
「いやいや、ミートボールは四つだったんだから。私の唐揚げは三つだよ。私、一つしか食べれてないんだよ?」
「ミートボールの恨みです」
「理不尽すぎるよ……」
友達はため息をつき、楓の方を見つめる。
そして彼女も友達と顔を見合わせると、お互いに、ふふふ… っと思わず微笑を浮かべた。
———キンコーン カンコーン。
それから昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り、二人は急いで片付けをして教室へと戻った。
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