第138話 颯斗の隠れた実力?

 ゴールデンウィークが終わり、また学校に通う毎日が戻ってきた。

 海里と綾佳は朝からドタバタしながら準備をして、学校へ向かった。


「海里、綾佳ちゃん、おはよう!」


 校門を入り、靴箱で履き替えていると後ろから声を掛けられた。

 声のする方を向くと、ゴールデンウィーク初日ぶりの颯斗がいた。


「おはよう、颯斗。なんか久しぶりに感じるけど、連休初日に出掛けているんだよな」


「おはよう、颯斗くん!確かに連休があると、久しぶりって感じになるよね」


「二人とも酷いな… まぁ、俺もそんな気はするけど、長期休暇とかになったら忘れられているんじゃね俺?」


「そんなことはないよな。綾佳」


「うん。クラスメイトのことは忘れないよ」


 海里は綾佳の方を向き聞いた。

 すると、彼女は颯斗に向けてサムズアップした。


「それなら、長期休暇も予定立てような!!俺、楓、海里、瀬倉さんでプールや海とか行こうな!!」


 颯斗は二人に近づき、涙目になりながら懇願してきた。


 あまりの勢いに嘆息した海里は、とりあえず自分たちの意見を聞かないことに対して聞くことにした。


「俺たちの意見は聞いてくれないのか。楓さんとかも了承しているのか?」


「楓は、『綾佳さんの水着みたいです。是非、誘ってきてください』と言っていた」


 まさかの楓さんからのご提案だった。

 颯斗の提案だったら、自分と楓と綾佳の三人でプールかなと考えていたが、楓の提案なら断る理由はない。きっと、綾佳も行きたいに決まっている。


 チラッ… と綾佳の方を見た。


「水着か… 楓ちゃんに見られるの恥ずかしい…」


 頬に手を当てながら、綾佳は照れていた。


「グラビアとかで慣れているんじゃないのか?」


「いやいや、仕事とプライベートでは全然違うからね?しかも楓ちゃんに見られるとなると… ダイエットしなければ…」


「そこまで… いや、楓ちゃんはそのままの綾佳に会いたいと思うぞ。なぁ、颯斗?」


「えっ… えっと、そうだな」


「そうか… なら、楓ちゃんの為にこのままでいようかな… てことで、私と海里くんは参加します!」


「………えっ?」


 何も言っていないのに、自分も参加することになっていた。


 綾佳は海里の方を向き、ニコニコしてきた。

 颯斗に至っては、「よしゃ!瀬倉さんと楓の水着が見れるぜー!!」と喜んでいた。


(あっ… 俺の意見はないようですね)


 とりあえず断る気はなかったので、このまま話を進めることにした。


 が、その前に。


「あのさ、そろそろ教室に行かない?」


 靴箱で5分も話をしていた四人。

 逆に邪魔にならずに話せたのが奇跡だ。


「そうだな。予鈴もそろそろなりそうだしな」


「それじゃあ、みんなで教室へ行こう!」


 海里は頷き、三人は教室に向かった。


◇◆◇◆


 昼休みになった。

 いつもの場所で三人がお昼を食べていた。


「五月といえば中間考査だけど、二人とも勉強の方は大丈夫?」


 颯斗が、ボソッ…と呟き、お弁当のおかずを箸で持ち口に持っていった。


「中間テストか… 私、テスト嫌い」


「俺も赤点は取ってないけど、テストは苦手だな。たまには高得点を取ってみたいな」


「なるほど… 二人の意見は分かりました」


 不敵な笑みを浮かべる颯斗。


 海里と綾佳は顔を見合わせ首を傾げると、海里が颯斗に聞き返した。


「その、「意見は分かりました」って何?」


「海里は知らないと思うけど、俺って実はテストの点数がいい方なんだよね」


 そう言うと、颯斗が携帯を出し操作をすると、二人の方に画面を向けてきた。

 画面を見ると、そこには高一のテストが写っており、どれも90点前後だった。


 それを見て海里は驚いた。

 高校に入ってから、颯斗にテストの点数は聞いたことがなかったからだ。

 自分があまりいい点数を取れなかったというのもあるが、彼が自慢をしないのもある。


 あと実力テストの時も、イマイチな顔をしていたからだ。


「凄い!!颯斗くんって、頭良かったんだね!」


 綾佳は尊敬の眼差しを颯斗に向けていた。


「まぁね!楓にも勉強を教えているし、それなりに出来るよ」


「海里くん、これは教えてもらうしかないね!楓ちゃんも誘って、四人で勉強会かな?」


「………そうだな。お店だと迷惑になるから、誰かの家でやることになるな」


「楓ちゃんの家に行ってみたいな… 」


 颯斗の目をチラッと見て、綾佳が呟いた。

 

 ここ最近、さらに友情が深まったと思っている綾佳は、友達の家に行くのに憧れていた。

 友達の家と言っても、レイナや麗音のアイドルの家ではなく、普通の友達の家である。


「もし楓ちゃんの家に行ったら、水瀬翼に会うことになるかもしれないな」


 海里の言う通り、水瀬楓は水瀬翼の妹。

 つまり彼女の家に行けば、高確率で姉である翼に会うだろう。

 そして普通の友達の家の分類にはならない。


「そうだね。でも最近翼ちゃんに会えてないから、久しぶりに会いたいと思っているの!」


「そういえば、水瀬翼もそうだけど、桐崎遥香も最近見かけないな」


「楓の姉なら、アイドルを頑張っているよ」


 颯斗の言葉で翼の近状を知った。


 アイドルランキングで三位になったが、彼女は地道に己の道を進んでいるようだ。


 綾佳はそれを聞いて、「元気そうで良かった」と安堵していた。


「とりあえず楓に聞いてみるから、ちょっと待ってて」


 颯斗は再度携帯を取り出し、楓にメールをした。

 綾佳はそれに頷き返信が来るまで、再び箸を動かしお弁当を美味しそうに食べ始めた。


(桐崎遥香… あの人は何しているんだろう…)


 アイドルランキングで最下位になってしまった桐崎遥香を思いながら、海里はおにぎりを一口齧った。

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