第137話 例の件が気になる
撮影が全て終わり、北島の運転で海里たちは自宅へと帰ってきた。
「ふぅ… 家は落ち着きますね」
「仕事から解放されたって感じになるよね。あっ、このお菓子美味しいよ」
「あら、いただきますわ」
レイナは綾佳から渡されたお菓子を、袋から出して一口齧った。
とても美味しかったようで、貰ったお菓子を一気に食べておかわりをした。
「気に入ってもらえてよかった!ね、海里くん」
「そうだな………それより、なんでレイナさんがうちにいるんだ?」
海里はレイナの方に視線を向けて言った。
「ふぇ?だって、この後は予定もなく家に帰るのも暇だったので———」
「———そうそう、それで私が家に誘ったの!」
「なるほど… それで、ゆったりしながらお菓子を食べていたと… 満喫しすぎか!!」
「私は満喫などしていませんよ。寧ろ、貴方のために来てあげたのです」
「俺の… ため?」
自分の為にと言われて、海里は首を傾けた。
何も問題もなく仕事が終わり、女装も全て解除した海里にとって、レイナの言っていることが分からなかった。
「えぇ… これからの話をしようと思いまして」
「これからと言うと?」
「もう、海里くんは察しが悪いね〜 定期的に女装モードの海里くんについてだよ!」
「………はっ?!」
驚きすぎて、海里は机に膝をぶつけた。
(いたた… それよりも、また女装するのかよ)
膝を摩りながら、二人に聞き返した。
「なんで、また女装することが確定なの?!今回の雑誌撮影で終わりなんでしょ?」
「「………」」
綾佳とレイナは顔を見合わせると、ふっふふ… と笑って口を開いた。
「だって人気雑誌の表紙飾ったら、さらに人気が出て辞めるの勿体無いでしょ?」
「そうですよ。折角人気が出たのに辞めるなんて勿体ないですわ!」
「そんなことある訳ないだろ… 確かに雑誌の表紙は予想外だったけど、これ以上は盛り上がらないよ」
「と言ってますが、レイナさんどうしますか?」
「そうですわね… 」
レイナは顎に手を当てて考え、すぐに綾佳の元に近寄った。
「(綾佳さん、これは動画配信とかするのはどうですか?)」
「(動画配信って、昨今話題のゲーム実況とかそーゆうやつ?)」
「(そうです。機材は私が用意しますので、綾佳さんと二人でやってみるのはどうですか?)」
「(レイナちゃんがそこまで言うなら… やってみてもいいかな…)」
綾佳はレイナの提案に、頬を掻きながら前向きに検討した。
「あの… 何の話をしているか分からないけど、俺の意見も大事にしてほしいのだけど…」
小声で話しているため、二人の会話が何も入ってこない海里は横から話を遮った。
それに合わせて綾佳とレイナは話をやめて、海里の方に視線を向けた。
「安心して海里くん。海里くんが心配することはなーんにもないから。私に任せなさい!」
「そうですよ。綾佳さんに任せれば、貴方はとっーても有意義に過ごせますわよ」
安心させる言葉を言ってくる二人だが、海里には安心は出来なかった。
だって、二人はいたずら顔をしながら微笑んでいたからだ。
「ということで、海里さんは編集者から貰った服を大事に持って置いてくださいね♪」
「レイナちゃん安心して!私がちゃんと見張っておくから!」
「うふふ… それなら安心ですわね」
レイナは微笑むと、紅茶を一口飲んだ。
「はぁ… 分かりましたよ。好意で頂いたので、そんな無碍には扱いません。(タンスの奥にはしまうかもしれないけど…)」
「海里くん、最後の方聞き取れなかったけど、なんて言ったの?」
「な、何でもないよ!!」
海里は大きく手を振って誤魔化した。
綾佳は、「そうなの?」と半信半疑で、レイナはお菓子を食べていたので聞かれていなかったようだ。
「それじゃあ、私は北島さんにメールするね」
「何のメールをだ?」
「それは… お・し・ご・との話だよ!」
そう言って、綾佳は近くにあった鞄から携帯を取り出してポチポチと打ち込みだした。
「ははは… 今のはどうゆうことだ…?」
そんなことを、ボソッ…と言いながら、海里も自分用に用意していた紅茶を一口飲んだ。
「はぁ… 堪能しましたわ。さてと、私はそろそろ帰りますわ」
レイナは満足した顔をすると時計を見た。
時刻は午後六時を過ぎており、窓から映る空には夕焼けが綺麗に見えた。
「レイナちゃん、一人で帰れるの?」
「綾佳さん… 私、一人で帰ることは出来ますわよ?ですが、マネージャーさんが迎えに来ているので安心してください」
「いつの間にマネージャーを呼んでいたんだ?」
「ふふふ… いつでしょうね」
レイナは微笑むと、その場を立ち上がった。
それに合わせて綾佳も立ち上がり、海里も続けて立ち上がる。
そして、玄関まで歩いていった。
「綾佳さん、海里さん、今日はお邪魔しました。また会いましょう」
「うん!またとは言わずに、明日でも来てもいいこらね!」
「綾佳… それは無理だとは思うけど。まぁ、俺もレイナさんが来るの楽しみにしているよ」
「ありがとうございます!」
レイナはお辞儀をすると、踵を返してマネージャーが待つ駐車場へと向かった。
が、
もう一度振り返り、レイナは口を開いた。
「あっ、そうですわ。綾佳さん、
「分かった!レイナちゃん、ありがとう!!」
レイナはもう一度お辞儀して、踵を返して再度歩き出した。
海里と綾佳は、レイナの姿が見えなくなるまで手を振って、部屋へと戻った。
「それで例の件ってなに?」
「………それは、お楽しみに♪」
レイナの台詞が気になって聞いてみたが、綾佳に見事にはぐらかされた。
海里は頭を掻きながら、「まっ、いっか」と言って、『例の件』を楽しみに待つことにした。
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