第136話 俺、編集部の人達に遊ばれているらしい

「ちょっ… この格好は一体何なんですか?!」


 お昼休憩が終わり、控室を出ると堀北に止められた。その場にいた綾佳とレイナは先に行って、待つように言われた。


 堀北は海里を連れて別室に行き、そこで指示を出した。


『何も考えずに、あの服に着替えてください。ちなみにですが、着る服はもう一着ありますから』


『わ、分かりました』


 海里は渋々了承して、堀北は部屋を出た。


 海里はそれを確認すると、服掛けに掛かっている服を一着手に取った。


『これって… メイド服だよな?それに残り一着のやつも… 編集部の人たち俺で遊んでいるだろ」


 とりあえず、綾佳とレイナを待たせるのは良くないと思い、さっさと着替えてスタジオに戻った。


 そして、今に至る。


「海里くん… 」


 綾佳は自分の姿を見て驚いていた。


(これは… 笑われて馬鹿にされるパターンかな)


 そんなことを思いながら、綾佳の返事を待った。


「………可愛すぎる!!何でも似合うんだね!!」


「私のメイクは完璧すぎますわ。これは売れる…!」


 綾佳は海里の方に近づくと、海里の全身を舐め回すように見てきた。

 レイナはメイクの腕に確信を持ったようで、これを商売に活用と考えているようだった。


「二人が喜んでくれるのは嬉しいんだけど… 堀北さん、俺のことで遊んでませんか?」


「…………遊んでませんよ。ちゃんとした仕事です」


「今の間は何ですか?!確実に変でしたよね!?」


「………全然。さぁ、撮影を再開しましょう」


 堀北はカメラマンの元は行き、後半の撮影手順の話し合いをしにいった。


(確信したわ。編集部、俺のことで遊んでいるな)


 海里は綾佳とレイナの方を向き、声を掛けた。


「二人とも、撮影再開するらしいから向かおうか」


「うん!」「分かりましたわ」


 海里たちは堀北がいる場所へと向かった。



「それでは撮影を再開します。今回のお題は海里さんがオムライスに"萌え萌えキュン"とハート作りながら言ってください。綾佳さんとレイナさんは嬉しそうにしてください」


 堀北は、まるでメイドカフェに行ったことがあるような指示をしてきた。


 綾佳とレイナは ノリノリ で返事をしたが、海里は、「それは…」っと顔を引き攣った。


「ほら、準備できましたよ。移動してください」


 後ろを見ると、数分前まで何もなかった所に、椅子と机が用意されていた。机の上には、オムライスとスプーンと飲み物が置いてあった。


 綾佳とレイナは、談笑しながら椅子に座った。

 

「では海里さん、決め台詞をお願いします!」


 堀北はサムズアップしながらウインクしてきた。


「………はぁ、分かりました」


 海里は仕事だと割り切り、二人が待つ机に向かった。


「では撮影を始めます。お願いします」


 堀北の合図を聞き、海里は口を開いた。


「こ、これより、オムライスに愛情を入れたいと思います」


「お願いしまーす!」

「楽しみですわ!!」


「美味しくなーれ。美味しくなーれ。萌え・萌え・キュン」


 海里は手でハートを作り、オムライスにビームをした。

 

(思ったんだが、写真だけなら台詞いらないのでは?ポーズだけでもいいのでは?)


 堀北の方を睨みながら、彼女の返事を待った。


「最高です。海里さん、すごくいい写真が撮れましたよ!!」


 どうやらパソコンに映し出された写真がとても良かったらしく、海里にサムズアップしてきた。


「それは良かったですね」


「では、もう一着の着替えをお願いします」


「あれですか… 分かりました」


 海里はもう一度着替える為に、メイド服を着た時の部屋へと向かった。


「堀北さん、もう一着は何を着させるのですか?」


「私もそれ気になる!」


 レイナと綾佳は海里が見えなくなると、堀北に質問をした。

 彼が次に着る服が何か気になって、フライングで聞くことにしたらしい。


「ふふふ… それを先に聞いたら楽しみがなくなりますよ。次で最後の服なので、来てからのお楽しみです♪」


「仕方がありませんわね。綾佳さん、海里さんが来るのを待ちましょう」


「そうだね。海里くん、早く来てー!!」


 二人は堀北の言葉を真摯に受け止め、海里が来るのを待つことにした。


 ———五分後。


「お待たせしました。物凄く、足がスースーする感じが…」


 海里が扉から現れた。

 その姿は女子高生の制服で、スカートの下にはタイツを履いていた。

 ちなみに、制服は"なんちゃって制服"で、どこからどう見ても女子高生だった。(声以外は)


「海里…ちゃん?」

「海ちゃんかしら?」


 綾佳とレイナは首を傾げながら揶揄ってきた。


「揶揄うのはやめてくれ。ほんとに恥ずかしいんだから… 」


「海里さん、とても似合っていますよ!」


 堀北も満面の笑みをしながら、海里に向けてサムズアップをした。


 海里は顔を赤くしながら堀北を睨み、ぷい… っとして綾佳とレイナの元へ行った。


「綾佳… 俺、編集部の人達に遊ばれているらしい…」


「大丈夫だよ。ファンのみんなは喜んでくれるから。これも成長への一歩だよ」


「うぅ… マネージャーなのに。ほんと、マネージャーって、一体なんだろうね…」


「と、とりあえず、人気が出ればお金増えるかもしれないから頑張ろ!っね!」


 綾佳は海里の背中を摩りながらあやした。

 だけど彼女の台詞は、お金に飢えている人に聞こえてしまった。


「そうですわね。撮影を再開しましょう」


 レイナは堀北に視線を送り、再開の合図をした。

 ちなみにだが、綾佳とレイナもいつの間にか制服に着替えており、お揃いコーデーになっている。


「最後は自然な感じでお願いします。スタジオの準備はもう出来てますから」


 また後ろを振り向くと、今度は学校にある机と椅子が三角形に配置されていた。


 それぞれ一つの座席に座り、学校で普段話しているイメージで談話を始めた。

 その間、カメラマンの人が、海里たちの周りをくるくる周りながらシャッターを押していった。



「「「お疲れ様でした」」」


 全ての撮影を終え、三人揃って言った。


「はい、皆さんお疲れ様です。今回の表紙の雑誌は二週間後に発売される予定なので、献本が出来ましたら事務所に送りますね」


「「ありがとうございます!」」


 綾佳とレイナは堀北にお辞儀をした。

 その間にいる海里は、虚空を見上げて放心状態になっていた。


「これは全てを出し切って魂が抜けた感じになっているね」

「覚悟を決めても、精神がダメでしたわね」


「では、トドメをささせていただきますね」


 突然、物騒な台詞を言った堀北に、綾佳とレイナは驚きながら彼女の方を見た。


「あっ、トドメって言うよりかは、プレゼント?ですかね」


「プレゼント… とは?」


 綾佳は顎に手を当てながら聞き返した。


 堀北は、ニッ…と笑い、海里を呼んだ。


「海里さん、貴方が本日着用した数着ですが、全て差し上げます。本来はお金が発生するのですが、私からのプレゼントということで」


「…………えっ。プレゼント?着用した服を?」


 未だに放心状態でいる海里は、堀北の言葉をオウム返しに言った。


「そうですよ。貴方に服をあげますよ」


「良かったね!これで、いつでも女装できるよ!」


「うぅ…!羨ましいですわ!!私も服が欲しい」


 綾佳は海里の肩に手を置いて喜んでいた。

 レイナの方はハンカチを咥えながら、羨ましい目線を向けていた。


(なら、レイナさんに服をあげたいのだが… 堀北さんの好意を無駄にする訳にはいかないよな…)


徐々に意識が戻ってきた海里は、そんなことを考えながら堀北の方に視線を向けた。


「分かりました。大切にします」


 これでいい。

 この服を自分がいつ着るかは分からないが、きっとすぐに着ることになるであろう。


(だって、綾佳の口調が軽い感じだったし)


 海里は綾佳の方を向いた。


 彼女はレイナと楽しそうに話ながら、時々レイナのお腹を突いていた。

 もちろん、レイナもやり返していた。


「では、私どもはこれにて撤収作業を行いますので、三人ともお疲れ様」


 堀北は手を振りながら他のスタッフの元へ向かった。そして彼女は的確に指示を出していき、素早く片付けが行われていった。


「えっと… とりあえず、着替えに行こうか」


「そうですわね。着替えましょう。海里さんも一緒の部屋で着替えますか?」


「レイナさん、いまはこんな格好ですが、俺は男だってことを忘れないでください」


「知ってますよ。でも綾佳さんも一緒でもいいですわよね?」


「も、もちろん。私、海里くんと一緒に着替えてもいいよ」


 綾佳は頬を赤く染めながら呟いていたが、視線は海里の方ではなく天井だった。


「あはは… とりあえず、俺は別室で着替えるから、ここで待ち合わせをしようか。北島さんは撮影始まってからずっと静かだったけど…」


「そうだね。着替えが終わったら、私が北島さんに帰宅の準備をお願いしとくよ」


「分かった」


 こうして撮影が終わり、綾佳とレイナは控室に行き、海里は別室の方で着替えをした。

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