第135話 楽しい楽しい撮影?

「ほんとに海里さんですか…?全くの別人ではないですか…?!」


 編集部の堀北は、化粧を終えた海里を見て驚いていた。

 

「別人ではありませんよ。彼女・・は、さっきまでここにいた寺本海里さんですよ」


「レイナさんの化粧技術が、以前よりも上がってますね。これでまだ十代とは… いやはや恐ろしい」


 レイナの技術が以前見た時よりも上がっていたことに、堀北は頭を抱えていた。


 その横で海里は顔を引き攣りながら、「彼女… 俺、男なんですが…」と思っていた。


「また女の子の海里くんが見れるなんて… 私、感動だよ…」


 綾佳は手で口を覆いながらとても感動していた。

 彼女に自分の女装が褒められるのは、嫌ではなかった。


「その… 綾佳が喜んでくれたなら良かった。だけど本音を言えば、早く着替えたい…」


「ダメだよ!まだ撮影すら始まってないんだから」


「分かってるよ。だから、我慢して楽しむことにするよ」


「そうそう。撮影は楽しまないと!」


 綾佳は頷きながら微笑んだ。

 

「では綾佳さんも着替え終わったみたいなので、撮影を始めたいと思います。三人とも、まずは目の前に見える白バックで一枚撮ってみましょう」


 海里、綾佳、レイナは頷き移動した。


 白バックの前に着くと、誰がセンターになるかの話し合いが始まった。


「ここは私がセンターに決まってますわ」


「いやいや、私でしょ!トップなんだから!」


「今回の撮影では、トップとか関係ありませんわ。誰が一番目立つかが大事なのです!!」


「それはそうだけど…」


 自分を挟んで言い合っている二人に、海里はため息をついた。


(もう、どっちでもいいから早く決めてくれ… 俺はスタッフさんに迷惑掛けたくないんだよ…)


 そんな悲痛な叫びが聞こえたのか、堀北が咳払いをして口を開いた。


「綾佳さん、レイナさん、今回の主役は海里さんなので、センターは彼になりますよ」


「「「………えっ?」」」


「なので、海里さんは真ん中に立ちポーズを決めてください。綾佳さんは手を握って、レイナさんは手を前で重ねて、カメラに目線をください」

 

 三人は困惑しながらも、堀北はどんどん話を進めていく。

 そして言われるがまま、三人は彼女の指示通りに動くことにした。


「ポーズ… 女の子ぽいポーズってなんだ?」


「なら、腕を組みながらカッコつけてみたら?」


「なるほど… 綾佳もよくやるのか?」


「えっ… やらないかな」


 綾佳は視線をずらしながら呟いた。


(やらないのかよ。もっと人気が出そうなポーズとかないのかな…)


 そう思いながら見つめていると、綾佳は、ニコッ…と微笑んできた。


「……とりあえず、綾佳の言う通りのポーズをしてみるよ」


「話はまとまったようだね。それじゃあ、早速一枚目撮るから視線をお願いします」


 堀北は三人に声を掛けた。

 そして彼女はカメラマンの後ろに立ち、視線を貰うために手を振ってきた。


「「「お願いします!!!」」」


 三人は大きな声で返事をして、撮影が始まった。


 最初の撮影はすぐに終わった。

 試し撮りというのもあるが、プロカメラマンなのですぐに20枚以上の写真が撮られていた。


「それでは、続いてはあちらに移動してください」


 移動先というのはすぐ横にあるセットだ。

 そこのセットはソファーが置いてあり、余裕で三人は座れる大きさだった。


「ここでも海里くんがセンターなんだよね?」


 綾佳がふと呟いた。


「先程も言ってたじゃないですか。今回の撮影の主役は海里さん。つまり、ずっとセンターですよ」


「まぁ… 今回だけは譲ってあげるか」


 綾佳は、ふっ…といいながら、ソファーの左側に座った。レイナも続いて右側に座る。


「ほら、海里くんここに座って」

「海里さん、ここが空いてますよ」


 二人はソファーの真ん中をトントンと叩き微笑んできた。


(嘘だろ… 俺を誘惑してこないでくれ)


 自分が女性の格好をしているのを分かっているが、二人に誘われると男心がくすぐられる。

 そして海里は二人の元へ行き、ソファーの真ん中に座った。


「それじゃあ、私は海里くんの左腕に抱きつきまーす!」

「では、私も僭越ながら右腕に抱きつかせてもらいますわ」


 そう言って、二人は急に抱きついてきた。


(……っな?!そして、む…胸の感触が…)


 左右から柔らかい感触が服越しに感じ、それに気づいてなのか二人はさらに強く抱きついた。

 さらに、二人からいい匂いがした。


「ちょっと、二人とも撮影に集中出来ないから」


「はいはい。海里さん、こちらに笑顔をください」


 困惑している海里に、堀北は視線を求めてきた。

 海里は、えっ… としながらも、撮影を中断する訳にはいかないので、色々と我慢して笑顔をした。


「はい、ありがとうございます。綾佳さん、レイナさん、とても良かったですよ。ファンの方は嫉妬するかもしれませんけどね」


「ふふふ… ドラマとかの撮影でキスとかあるのですから、それくらいは我慢してもらわないとですわね」


「そうだね… (私は海里くんだけがいいな…)」


「………っん?何か言ったか?」


 綾佳が、ボソッ…っと呟いたのを微かに聞こえたのか海里が彼女の方を向いて聞いた。


 だけど、綾佳は、「ううん、何でもない」と言ったが未だに抱きついている。

 レイナの方は既に離れている。


「ではお昼休憩前に最後の撮影にしましょう」


 スタジオ内にある時計を見ると、すでに11時を回っていた。

 今回の撮影は15時までなので、お昼休憩があるのだ。


「前半、最後の撮影はみんなでお花を持って、受け渡しをしましょう。視線は大丈夫なので」


 堀北は近くの机の上にあった段ボールの中から、数本の花を取り出して三人に渡した。

 そして再度白バックの所に行き、綾佳とレイナが海里に花を渡すシーンを撮った。


「それでは、前半の撮影はこれにて終わりです。皆さんお昼休憩になります。再開は13時からです」


 堀北の合図で、スタッフたちはお昼休憩に入った。海里たち(海里、綾佳、レイナ、北島、レイナマネ)も控室に連れられ昼休憩となった。

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