第133話 何故!?
あれから三十分経った。
海里たちは未だ事務所にて、北島との話をしていた。ただ仕事の内容は一旦中断して、世間話を。
その理由は、二十分前に戻る。
綾佳がレイナに仕事の内容をメールで送ったところ、すぐに返信がきた。
(返信早すぎるだろ… その早さは暇人の人だぞ?)
そう思いながら、綾佳がメールの内容を話すのに耳を向けた。
『話は分かりました。いまから、綾佳さんの事務所に向かいますので住所を教えてください』
そして綾佳は北島から許可を貰い、レイナに事務所の住所を送った。
『ありがとうございます。三十分前後で着けるようにしますわ』
と、返ってきた。
そして、今に至る。
「レイナちゃん、そろそろ来るかな?」
綾佳は時計を見ながら、海里に聞いてきた。
どうやら、時間が近づいてきたので、彼女もソワソワしているようだ。
「そうだな。まぁ、車で来るかもしれないし、渋滞とかに巻き込まれなければ、そろそろだな」
「だよね。でも、レイナちゃんもノリノリで受けてくれそうでよかった。私、海里くんと表紙飾るのとっても楽しみなんだよね!」
「女装だぞ?俺にとっては、黒歴史になるぞ?」
「………でね、雑誌が出来たら大事にしないとね!」
「俺の話をスルーしないでくれー!!!」
綾佳は海里の方を向き、てへぺろ した。
海里は嘆息したあと、「可愛いから許したくなる…」と心が揺れていた。
———ドン!
すると、後ろのドアが勢いよく開き、声が聞こえてきた。
「お待たせしました。私、佐倉レイナが到着しましたわよ!」
ドアの前に立っていたのは、佐倉レイナだった。
彼女は、いつもと変わらない服装(ゴスロリ)で来た。
「待ってたよ!レイナちゃん、ここに座って!」
「失礼しますわ」
綾佳に促されて、彼女の隣にレイナが座った。
海里はパイプ椅子を端から持ってきて座る。
「では皆さん揃ったようなので、先程の話の続きをしましょうか」
海里、綾佳、レイナは頷き、北島の方を見た。
「まず撮影日なんですが、今週の日曜日になります。なので、明後日ですね」
「いきなりすぎません?!」
「海里くん、芸能界というものは、いつもいきなり予定が出来るものなんだよ」
「そうですわよ。私なんか、楽しみにしていた予定を潰されたことがあるのですから」
綾佳とレイナが、芸能界というものを諭してきた。レイナに至っては、ほとんど愚痴だったが。
「話を続けますね。寺本さん、綾佳さんは私が現場まで送ります。レイナさんは彼女のマネージャーが送りますので」
海里たちは真剣に北島の話を聞いた。
「それでレイナさんは寺本さんが着き次第、彼のメイクをやって欲しいのですが… 自分のメイクと合わせると、もしかしたらレイナさんは早く来ることになるかもしれません」
「えぇ、マネージャーから聞いていますよ。メイクの為なら頑張って行きますよ!」
レイナはどこからか扇子を出し仰いでいた。
(ほんと、どこから扇子が出てきたんだよ)
海里は自分の為に早くに現地入りするレイナに一言感謝を伝えることにした。
「あの… 俺の為に現地入りまで早くして頂き、ありがとうございます」
「いえ、私はまた貴方を女装させることが出来るので、辛くはありませんよ。寧ろ、最高?」
「レイナちゃんも海里くんの女装にハマったんだね!やっぱり、三人で雑誌撮ろうか!」
「もちろんですよ!あのSNSの反響を見れば、断る理由もないです!!」
綾佳とレイナは、「いえーい」と言いながらハイタッチした。
「寺本さん、貴方の衣装は編集部が用意するので期待しといてください」
綾佳とレイナをチラっと見た後、海里の方に視線を向けて呟いた。
(なんだと…?!)
あの時はレイナから服を借りた海里。
それが編集部が用意した服となれば、確実にプロセンスにより女装レベルが上がるはずだ。
「もう覚悟を決めるしかないですね… 」
「はい。あっ、女装する前の写真は既に送りましたので」
「………えっ?」
北島は机の上に一枚の写真を置いた。
「これって… 学校生活の時に撮られた写真…」
写真に写っていたのは、制服の海里が誰かと話しているものだった。
話している相手はきっと颯斗だろう。
「学校で撮られたという事は…」
海里は犯人であろう人物に視線を向けた。
その犯人は、銀髪の少女と談話していた。
「綾佳。ちょっと、この写真について聞きたいのだけど、いいかな?」
「うん?どうしたの、そんな目が笑っていない笑顔を…… って、それは!?」
写真を見ると、綾佳は急に立ち上がり後ろに倒れそうになっていた。
「あらあら、海里さんの制服姿、とても新鮮ですわ。この写真、一枚貰ってもいいですか?」
「何故!?」
「えぇ、欲しいのであればあげますよ。これは複製した内の一枚なので」
北島は机を通じて、レイナの方に写真を渡した。
レイナは、「レアな写真ですわ」と言いながら鞄の中に大事にしまった。
「だから、何故!?」
「別に写真一枚くらい、いいじゃないですか。何も減る物は無いのですから」
「そうそう。細かい事を気にしたらダメだよ、海里くん。だから、写真のことは終わり」
綾佳は周りに便乗して、写真の件を終わらせようとしてきた。
「今は終わりにしようか。家に帰ったら覚えておけよ、綾佳?」
「あはは… 覚悟しときます」
綾佳は苦笑しながら、お茶を一口飲んだ。
「では、これにて仕事の話は終わりですね。あとは、お若い者同士で」
そう言って、北島は立ち上がり部屋を出て行った。
残された三人は、それぞれ顔を見合わせて苦笑していた。
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