第132話 また幻の彼女が出るらしい

 ゴールデンウィーク最終日。

 海里と綾佳は、北島に呼ばれて事務所に来ていた。


「それにしても、伝えたい用件ってなんだろう?」


「北島さんのことだから、仕事のことじゃないか。でもメールで伝えてこないのは謎だな」


 北島は二人に呼んだ理由を教えていない。


 少し経ち北島がやって来た。

 そして机の上に数冊の雑誌を置き、口を開いた。


「お待たせしました。それでは、本日お二人をお呼びした理由を話しますね」


「北島さん、これって有名雑誌だよね?」


 綾佳が一冊の雑誌を手に取り、北島に聞いた。

 

 どうやら綾佳は雑誌のことを知っているらしい。


「そうです。若者を中心に人気がある雑誌です」


「その雑誌を持ってきたということは、何か関係があるのですか?」


「寺本さん、察しがいいですね!」


 海里に指を指したあと、北島は咳払いをして、「それでは」と続けた。


「話しますね。今回、この雑誌の表紙を撮りたいとオファーを受けまして、事務所はこれを受けることにしました」


「おぉ!綾佳、凄いじゃないか!!人気雑誌の表紙ってなかなか取れないって聞いたことあるけど、綾佳すごい!!!」


「いやー、照れますね。海里くん、そんなに褒めても何も出ないぞ!」


 綾佳はニヤニヤしながら、海里の腕をツンツン突いていた。

 

 その姿を見ていた北島は、また咳払いをして、「話はまだ終わってません」と言った。


「北島さん、それってどうゆうこと?」

「綾佳が表紙を飾る以外に、何かあるのですか?」


 二人とも首を傾けながら、北島に質問した。


「実は… 綾佳さんの表紙を飾るのにあたり、とある方も一緒にお願いしたいと頼まれました」


「とある方… あっ、レイナちゃんか麗音ちゃんでしょ!!」


「いやいや、水瀬翼かもしれないぞ(笑)」


 二人で共演者の予想をして盛り上がっていると、北島は海里に視線を向けた。


(えっ… なんで急に俺の方を凝視してくるの…?)


 恐る恐る、自分の方を向いている理由を北島に聞くことにした。


「あの… 何故、俺の方を凝視するのですか?」


 すると、綾佳が何か閃いたように、手を ポン…っと叩いた。


「まさか… 北島さん、まさかですか」


「はい。綾佳さんが想像しているのが私と同じなら、そのまさかになります」


「これは うぉ〜!!ですね!」


「はい。私も最初聞いた時驚きましたよ。こんなこと、業界で滅多にありません」


「確かに、こーゆう話は聞いたことないね」


 二人の話が盛り上がっていた。

 

 その話についていけない海里は、交互に二人の顔を見ていき、タイミングを見て口を開いた。


「あの。さっきから盛り上がっていますが、俺には何が何だか分からないのですが。一体誰なんですか。その共演者は?」


「ねぇ、共演者の名前を私が言ってもいい?」


「えぇ、綾佳さんがしたいならどうぞ」


 綾佳は海里の方を向き、口を開いた。


「私と一緒に出る共演者は…」


 次に出てくる名前を待ちながら、海里は唾をゴクリと飲み込んだ。


「私、瀬倉綾佳のバイトマネージャーをしている、寺本海里くんでーす!」


「…………えっ?」


 理解が出来なかった。

 マネージャーであるはずの自分が、何故雑誌の表紙の撮影に出るのか。


「海里くん、もっと驚かないとダメだよ!折角のチャンスなんだから!」


「その… なんというか… えっ? しか出ないのだが」


「綾佳さん、寺本さん、この話にはもう少し続きがあるのです」


 未だに理解できていない海里を置いて、北島は追加の説明を始めた。


「確かに寺本さんも撮影に出るのですが、もう一つ条件があります」


「だよね。私もここまでくると、北島さんが次言う言葉が分かったかも」


 綾佳は苦笑しながら、海里の方を見た。


「えっ… 待って、なんか嫌な予感がするのだけど」


 流石の海里も、綾佳の様子を見て何かを察したようだ。


「お二人が想像した通り、寺本さんが出演する条件は、女装した姿で出ることです」


「ですよねー」


「おぉ、私、あの海里くんと表紙撮れるんだ!」


 海里は想像通りの言葉が来てため息をついた。

 綾佳に至っては、ニコニコしながらガッツポーズをして喜んでいた。


「でも、あれってレイナさんが化粧したから難しいですよね?」


 レイナに限らずプロなら誰でもできると思うが、海里的には彼女の技術の方が安心だった。

 一度体験したことあるし、他の人にやられるなら自分はレイナに頼みたい。


(まぁ、女装して雑誌デビューは黒歴史だがな)


 すると、綾佳がある提案をした。


「じゃあ、レイナちゃんも呼んじゃう?」


「それだと、レイナさんと編集部に迷惑では…?」


 海里はチラリと北島の方を見た。


「ちょっと、待っててください」


 そう言うと、北島は立ち上がって机の方に行き、どこかに電話を掛けはじめた。


 数十分後、北島が戻ってきた。


「先方に聞いてきました。どうやら、レイナさんも呼んでも大丈夫そうです。なんなら、三人で撮影しましょうでした」


「編集部緩いな!!そんなに緩くて、よく有名雑誌まで上り詰めたな!!」


「海里くん、そんなことを言ってはダメだよ!」


「いたっ…」


 綾佳は海里のおでこにデコピンをした。


「でも、そうか… レイナちゃんとも表紙飾れるんだ…」


 綾佳はさらに嬉しそうな顔をしていた。


(綾佳、嬉しそうだな。幸せオーラが溢れてるし)


 そんなオーラは見えないが、綾佳の周りだけ急にマイナスイオンを感じたので、そう思ってしまった。


「では、レイナさんの事務所には私から伝えておきますので、続いては撮影日について話しますね」


「分かりました」


「お願いします!あ、私もレイナちゃんにメールしてもいい?」


「………いいですよ。なら、私も事務所に電話しましょう」


 綾佳は携帯を取り出し、レイナにメールをした。

 北島も再度立ち上がり、レイナの事務所に電話を掛けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る