第131話 side 事務所
海里たちが水族館を回っていた頃、事務所では一本の電話が掛かってきていた。
「はい。こちらXX事務所の北島と申します」
電話に出たのは北島絢美で、綾佳のマネージャーをしている。あと海里(バイト)の指導員も担当だ。
「………はい、お世話になっております。それで、電話のご用件とは…?」
電話の主は、とある雑誌の編集部からだった。
「えぇ、確かに瀬倉綾佳はこの事務所に所属しています。……えっ?SNSに写っていた女装マネージャーと瀬倉の二人を表紙にしたいですか」
突然の依頼に、北島は驚きを隠せないでいた。
「少々お待ち下さい。社長に聞いて参ります」
北島は保留ボタンを押して社長室へと向かった。
———ガチャ バン
彼女はドアを勢いよく開けて、国見を呼んだ。
「社長!国見社長!!大変です!!」
「騒々しいな。どうしたんだ?」
「いま、〇〇編集部から瀬倉綾佳さんを表紙に起用したいと電話を受けまして」
「ほぉ、それは凄いじゃないか。その仕事は受けることにしよう」
国見は仕事内容を聞くと、自分の顎をいじりながら言ってきた。
「ですが、もう一人起用したいそうで…」
「もう一人だと?うちにはタレントはいないぞ?」
北島の台詞に、国見は首を傾けた。
起用したいと言われたらアイドル、女優、タレントなどだが、彼の事務所には綾佳しかいない。
彼は、「どーゆうことだ?」と続けて言った。
「その… 昨日、綾佳さんのSNSにこのような写真が投稿されたのですよ」
北島は懐から携帯を取り出し、綾佳が上げた投稿を画面に出した。
「これって、海里くんだよな?」
「そうでしょうね。女装マネージャーって書いてある時点で、答えているもんです」
「やばい… これは、ツボりそうだ」
国見は片手で口を押さえながら笑いを堪えていたが、どう見ても我慢は出来てはいなかった。
北島に関しては、笑いすぎですよ… という感じに視線を送っていた。
「で、その女装マネージャーも表紙に起用したいということか」
「そうです。ですが、寺本さんはバイトマネージャーなので、参加はできませんよね?」
「………いいんじゃね?面白そうだし、海里くんに色んなことを経験させるのもいいだろう」
国見はニヤニヤしながら北島に伝えた。
「えぇ ?!本当にいいのですか?!」
「もちろん。それより、先方を待たせるのはよくない。早く返答をしてくるんだ」
「そ、そうでした。では、私は戻ります」
北島は入ってきた時と同様に、勢いよく部屋を出て行った。
「はっはは… これはこれで面白いな」
北島が出て行った部屋で、国見は窓から外を見ながら楽しんでいた。
◇◆◇◆
「お待たせしました。先程の仕事依頼ですが、是非お願いしたいと思います」
北島は戻ってきてすぐに電話を取り、仕事を受けることを伝えた。
「えぇ、女装している方に関しては、こちらの所属なので」
編集部の方に、「女装マネージャーの方は事務所の方なんですよね?」と聞かれたので、一言呟いた。
ここ数ヶ月共に行動していた北島や国見なら、あの写真ですぐ分かる。
親友のはずの颯斗が分からないのが謎である。
「はい。ゴールデンウィーク明けの日曜日ですね。分かりました。こちらこそ、よろしくお願いします」
北島は受話器越しにお辞儀をして、電話を切った。
「ふぅ… まさか、寺本さんが雑誌デビューとは。しかも、女装で…」
手帳に予定を記しながら、先程の写真を思い出していた。
「世の中、何があるか分からないな。だけど、これから海里くん=女装マネージャーってバレないようにしないとだな」
後ろから声が聞こえてきた。
どうやら国見が続きが気になったらしく、北島の元へやって来たようだ。
「ほんと、寺本さんはトラブルメイカーですね」
「まぁ、瀬倉が彼と出会ってから、彼女の輝きは増えたと思う。いいじゃないか、トラブルメイカーで」
「そうですね。この荒波を、私たちも乗りますか」
「そうだ。何が来ても、俺が守る。だから、北島もあの二人を任せたぞ」
「はい。任せてください!」
北島は胸の前でガッツポーズをしながら言った。
国見は一つ頷き、社長室へと戻った。
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