第128話 ガチャをしよう!

「ふぅ〜!みんな可愛かったし、楽しかった!」


 水族館の出口にて、楓は両腕を上げ胸を張りながら背伸びをしていた。


 あれから、カワウソエリアを離脱した四人は二階へと移動していた。

 そこでは熱帯魚や珊瑚、クラゲの水槽を見てすぐに移動をした。


 そしてお土産コーナーに着いたが、レジに物凄い行列が出来ていて、今回は諦めることになった。


「ほんと楽しかったわ。置いていかれたことを除けばな」


「颯斗くん、まだ根に持ってるんだね」


「まぁ、あれは颯斗が悪いでいいんじゃね?」


「なんで?!やっぱり、辛辣になってる気がする」


 颯斗は顎に手を当てながら、海里に疑いの目を向けていた。


「そんなことはない。気のせいに決まっている」


「瀬倉さんもそう思うよね?」


「う〜ん… そんなことはないかな」


 綾佳は笑みを溢しながら颯斗に言った。


「そんな… 俺、味方がい———」


———パン パン


 颯斗が最後まで言い切る前に、楓が手を叩いて自分の方に注意を引いた。


「はい、その話はここまで。時間がもったいないので、次に移動しましょ!」


「楓… 君までも…」


 彼女は颯斗に指を指したあと、海里と綾佳の方を向いて微笑しながら呟いた。


 颯斗はため息をつきながら下を俯いていた。


「そ、そうだね!楓ちゃんの言う通り、時間がもったいし移動しようか!」


「そしたらどこに行くかだな。このショッピングセンターだと———


「———ガチャポンのデパートに行こうぜ」


「「「!!!」」」


 突然の提案に一斉に颯斗の方を向いた。


「な、なんだよ?俺、何か変なこと言ったか?」


「いや、颯斗の立ち直りの速さに驚いて」


「私も海里くんと同じ意見で」


「颯斗、貴方、いつの間に立ち直りが早くなったの?お泊まりの時なんか、立ち直るのに私のひざま———」


「———待て待て待て。楓は一体、何を言おうとしているんだ?ちょっと向こうで話そうか」


 そう言うと、颯斗は楓を連れて少しだけ離れた。


「ねぇ、海里くん。楓ちゃん、いまひざ枕って言おうとしていたよね?」


「あぁ。確実に、楓ちゃんはひざ枕と言おうとしていた。証拠に颯斗がいきなり誤魔化してきたから」


「だよね。で、海里くんは私にひざ枕をしてほしい?」


「………えっ?!」


 海里は驚きながら、綾佳の方を向いた。

 

 まさか自分にもひざ枕が体験できるかもしれない日が来るとは思ってもいなかった。

 だけど、彼女が提案してきたということは、海里にやってあげると言っているようなものだ。


(そんな、いいのか… 俺が綾佳の太ももに頭を乗せても…)


 海里は頭の中でひざ枕した時のことを考えた。


「ねぇ… 恥ずかしいからさ、早く何か言ってほしいのだけど…」


 綾佳は手のひらを口に当てながら下を俯いていた。横から見ると、少しだけ頬が赤くなっているのが見えた。


「ごめん。俺は綾佳にひざ枕してもらえたらとても嬉しいよ…」


「そ、そっか。なら、機会があったらしてあげるね!覚悟してね〜!」


 綾佳は悪戯顔して、海里の顔を見た。


(覚悟しとけって… もう、ひざ枕だけで俺の残機は0になりますから)


 そう思っていると、離れていた二人が戻ってきた。


「お待たせ。いや〜 楓がさ、変なことを言うからちょっと焦ったよ」


「変なことってなによ!そんなことは言うなら、私二人に言っちゃうよ」


「ごめんなさい。俺が変なことを言いました」


 颯斗が綺麗なお辞儀をした。


「(ねぇねぇ、やっぱり颯斗くんって楓ちゃんに尻に敷かれているよね?)」


「(まぁ… そうだな(笑) 楓ちゃんに一生逆らえないかもな)」


 綾佳は うふふ… と言うと、「そうだね!」と呟いた。


「海里さん、綾佳さん、お待たせしてすみません。では、ガチャガチャの場所に行きましょうか」


 話を終えた楓は、海里と綾佳の方に向き直して移動することを伝えた。


(やっぱり、楓ちゃんが先導するんだね)


 早速、四人はショッピングセンターの三階にあるガチャポンのデパートへと向かった。



 ガチャポンのデパートは、カプセルトイ機の最多数で世界記録に認定されている。

 ここに行けば、欲しかったガチャが見つかる可能性が高くなるかもしれない。


「いいね〜!なんのガチャがあるか楽しみだね」


「俺も久しぶりにガチャやろうかな」


「お二人に喜んでいただけてよかったです!」


「いや、提案したの俺なんだが…?」


 お店の入り口に立ち、それぞれが思い思いに呟いて言った。

 

「それで提案なんですが、私と颯斗、海里さんと綾佳さんのチームに分かれてガチャを回りませんか?多分ですけど、その方が自由に回りやすいですよね?」


「う〜ん… 私は一緒に回ってもいいのだけど、楓ちゃんがそう言うなら…」


 綾佳は言い淀みながら、海里の方をチラ見してきた。


「そうだな… まぁ、俺はどっちでもいいよ」


「海里さん、綾佳さん、私の案を受け入れてくださりありがとうございます」


「なぁ、楓。海里の『どっちでもいい』って、さっきの俺の『どこでもいい』と同じだよな?なんで、海里にはそんなに優しいの?」


 颯斗は頬を膨らませながら、不満そうに聞いていた。

 すると、楓は口角を上げて口を開いた。


「海里さんはいいのですよ!海里さんは、綾佳さんの提案に合わせて言っているので。颯斗は、自分の意見を言ってるので」


「えっと、その… 」


「まあまあ、とりあえず好きな物をガチャしに行こうよ!一人二個選ぶの!」


 空気が悪くなりそうだったので、綾佳が苦笑しながら話を進めた。


「そうですわね。綾佳さん、見苦しい所をお見せしてすみません。さ、颯斗行きますわよ」


「お、おう…」


 颯斗は楓に引っ張られて中へと入っていった。


「俺たちも行きますか」


「あはは… そうだね。何があるかな〜?」


「ゆっくり見て、ちゃんと選ぼうな」


「はーい!」


 海里と綾佳も中へと入っていった。


◇◆◇◆


 あれから三十分が経った。


 海里と綾佳は一つずつガチャを見ていき、それぞれ気に入った物を回していった。


 綾佳の場合は、一つ目が人気アニメのキーホルダーで、二つ目が手のひらサイズのぬいぐるみ。

 海里の場合は、一つ目が綾佳と同じアニメのキーホルダーを選び、二つ目が缶バッチ。


 ちなみに、綾佳とお揃いで回したキーホルダーだが、自分は彼女とは違う物が当たった。

 それを見た時、彼女は少し残念そうな顔をしていたように見えた。


「さて、あの二人は何を取ってきたのかね?」


「颯斗の選んだ物が気になるわ」


「ふふふ… 楓ちゃんがいるからきっとまともな物だよ!」


「まぁ、尻に敷かれているもんな」


 二人で微笑んでいると、「お待たせしました」という声が聞こえてきた。


 声のする方を向くと、颯斗と楓が戻ってきた。


「お二人さん、なんのガチャを選んで来たんだい?」


「綾佳、急に口調を変えてどうしたんだ?!」


「うーん、なんとなく?」


「ほんと綾佳さんは楽しいお方です。そんな綾佳さんと一緒にいられる海里さんが羨ましいですよ」


 楓は海里の方を向き、どこか含み・・のある言い方をしてきた。

 綾佳と颯斗は首を傾げながら、「何のこと?」って感じだったが、海里は苦笑いをしながら視線をずらした。


「さて、私と颯斗が選んできた物ですが、こちらになります。ほら、颯斗も取り出して」


「分かったから、服を引っ張らないで」


 楓は指にチェーンを引っ掛けると、ひらひらさせながら二つの手のひらぬいぐるみを見せた。

 一つがおでんのぬいぐるみ(もち巾着)で、もう一つがメンダコのぬいぐるみだった。


 颯斗の場合は、ゲームのキャラクターキーホルダーとフード系のキーホルダーだった。


「それじゃあ、私たちも見せるね!」


「俺たちのはこれになります」


 次に海里と綾佳が、二人に見せた。


「とっても可愛いです!綾佳さん、最高です!」


「えへへ… ありがとうね!楓ちゃんのメンダコちゃんも可愛いね!」


「はい!メンダコ大好きです!」


「楓ちゃん、可愛い!!」


 すると、綾佳は楓に抱きついた。

 突然のことに楓は、「きゃっ…」と驚きびっくりしていた。


「おいおい、突然抱きつくのはダメだぞ」


 海里は綾佳の襟を掴んで、楓から離した。

 

「ごめんね。なんだか、楓ちゃんに抱きつきたくなって」


「いえいえ、私はとっても嬉しかったです」


「えっと… それなら、また抱きついてもいいの?」


「はい!」


 満面の笑みで返答をする楓。

 それを聞いている颯斗は、「俺の楓がアイドルに奪われそうだよ…」と、ボソっ…と呟いた。


 一方、海里は自分では止めることが出来そうになかったので、二人のことを見守っていた。


———ぐぅぅぅぅ〜


 綾佳と楓がイチャイチャしていると、どこからかお腹が鳴る音がした。

 すると、彼女たちはすぐさまお腹の鳴る音の方へと顔を向けた。


「ちょっと、何で俺の方を見るんだよ!」


 一斉に顔を向けられて、颯斗はヘラヘラしながら言ってきた。

 要するに、「海里が犯人かもしれないのに、俺を見るのはおかしいだろ」と言いたいのであろう。


「だって、ねぇ…」


「うん、海里くんはいつも少し恥ずかしそうにお腹を押さえるから、今回は違うんだよ」


「私の場合は、颯斗の方から聞こえたから」


「颯斗、諦めろ。お前には反論する余裕はない」


 綾佳、楓、海里と次々に証拠を出されてしまい、颯斗は、ぐぬぬ…っとしていた。


「ですから、犯人は颯斗…あなたです!」


 どこかの推理漫画のように、楓は颯斗の方を指を指した。


「そうですよ。俺が犯人ですよ。お腹空いたんだから仕方がないだろ」


「そうだな。時間もちょうど昼前くらいだし、混む前に向かってもいいかもな」


 時計を見ると、時刻は十一時半過ぎくらいだった。そしてゴールデンウィークなので、普段より人が多いので向かっても問題ない時間であった。


「では、この階にある飲食店へと向かいましょう」


 楓が先陣を切ってレストラン街へと向かった。

 その後ろを、海里、綾佳、颯斗が着いて行った。


 向かっていると、ポケットに入っていた携帯が震えたのを感じた。

 海里は携帯を開き、メールが来ていたのでそれを開いた。


『海里さん、二人きりになれましたらあの日の続きの話をしましょうか。少しだけですが』


 送り主は、目の前を歩いている水瀬楓。

 彼女の方をチラッと見ると、後ろを振り向きながらぺろっとしてきた。


(楓さん… 報告することは何もありませんよ)


 楓に目力で伝えようとしたが、すぐに前を向いてしまったので意味がなかった。


(ていうか、目力で伝えるってなんだよ… 我ながら、馬鹿なことをしたな…)


 海里は、はぁ… と嘆息した。

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