第125話 イケメン彼女ですか?

 レイナの技術により、海里の女装姿が完成したので、綾佳に見せるために部屋へと向かった。


 部屋の前に着くと、レイナがここで待つようにと海里に指示をして、先に部屋の中へと入った。


「綾佳さん、お待たせしました!私の技術による、海里さんの変身をじっくりとご覧になってください」


「わーい!待ってました!早く、女の子になった海里くんを見せて〜!!」


「そう慌てないでください。では海里さん、どうぞ中へと入ってきてください」


 レイナの掛け声が聞こえたので、海里はドアノブを回して二人のいる部屋へと入った。


 鏡で見た時に、自分が女の子になっていて不思議な感覚になっていたが、綾佳から何て言われるか内心ドキドキしていた。


「えっ… ほんとに、海里くん?全くもって別人なんだけど… レイナちゃんの技術凄すぎる」


 綾佳は、入ってきた海里を見て驚いていた。


(綾佳がそこまで驚くなんて… レイナさんの技術は、やっぱり凄かったのか…!)


 自分が不安になっていた言葉が来なかったことに、少しだけ安堵した。


 そしてレイナの方を見ると、彼女は綾佳が驚き、喜んでくれたことに、凄く嬉しそうな顔をしていた。ていうか、表情で感情がダダ漏れ的な。


「よかった… 」


「………ん?よかったって、どうして?」


「完成した時に鏡で見たんだけど、男のはずなのに女の子にしか見えなくて驚いたんだよ。だけど女子から見たら、ほんとに女の子ぽく見えるのかな…って?あっ、レイナさんの技術に文句をつけるとかではないからね」


 海里は手を横に振りながら、レイナに悪気がないことを伝える。

 折角、好意で今回の話を受けてくれたのに、今の言い方だと彼女に対して失礼に聞こえたからだ。


「えぇ、分かってますよ。安心してください、誰だってそう思うものなんですから」


 レイナは手を前に重ねて海里に微笑んだあと、「それで」と続けた。

 

「綾佳さん、海里さんの女装は何点ですか?」


「んー……… 100点と言いたい所だけど、90点ですね!」


「90点… 綾佳、残りの10点は何がダメだったんだ?」


「それはもちろん一つしかないでしょ」


 海里は生唾を飲み込み、綾佳の言葉の続きを待った。

 レイナに至っては、ずっとニコニコしていた。


「声だよ!!女の子の格好をしているのに、男の声がするのは減点に決まってるでしょ!!」


 綾佳は指を指しながら、減点の理由を指摘してきた。


「そんな事を言われても、声ばかりは変えることは出来ないやろ…」


「海里くん、裏声という言葉を知っているかい?」


「あれだろ?地声とはまた違って、高音域を出せる特殊な発生法だよな」


「そうです。それを海里くんもやれば、女の子の声を出せるはずです」


「簡単には出来ないやろ…」


「やるだけやってみよう!」


 綾佳の無茶振りに、海里は、はぁ… とため息をつき、とりあえず挑戦することにした。


「…………っあ」


 変な声が出た。

 まるで、化け物がこの世に出てくる時に叫ぶうめき声だ。


 恥ずかしくなり、顔を隠すも二人のことが気になり、指の隙間から彼女たちを見た。


「うふふ… っふふふ…」

「……っふふふ」


 綾佳もレイナも口に手を押さえて、笑いを堪えていたが漏れていたので全く意味がなかった。


「笑うなよ!!!頑張ってやったのに…」


「ごめん、ごめん」「ごめんなさい」


 二人同時に謝ってきた。


「うん… まぁ、いいけどさ」


「それでは、綾佳さんも変身しましょうか」


 レイナは、パンっと手を叩き、提案してきた。


「そうだね!では、私も変身するとしましょう!」


「綾佳が、どのように変身するか楽しみにしているぞ」


「見事な変身に、腰を抜かさないようにね」


 綾佳はそう言うと、レイナと共に先程まで着替えていた部屋へと移動した。


◇◆◇◆


 レイナと綾佳が別室に移動してから、数十分が経った。

 その間、海里は携帯で自分の姿を見ながら、女の子の仕草をしていた。


———ドン


「やぁ、海里くん。私の姿はどうか——」


 タイミング悪く、綾佳が入ってきた。

 その瞬間、海里はどっと冷や汗が出た感覚に陥った。


「あれあれ〜 海里くん、一体何をしていてのかな?」


「綾佳さん、きっと海里さんは自分の姿に見惚れていたのですよ」


「なるほどね〜!海里くんも隅に開けませんね〜」


 綾佳とレイナは顔を見合わせながら話すと、海里の方を向いてニヤニヤしてきた。


「その… はい。ちょっと、自分の姿に見惚れていたのかもしれません」


 海里はそっぽを向きながら、ボソっと呟いた。

 だけど、見惚れていたのかは自分でも分かってはいなかった。

 

 一応、二人の会話に合わせただけなので。


「それじゃあ、海里さんも認めたことですし、綾佳さんの変身後の姿を見てもらいましょうか」


「そうだよね!!どう、私の変身の姿は?」


 綾佳の姿は、長かった黒髪がカツラにより茶髪のショートカットになり、ふくよかな胸はBホルダーにより胸がなくなっていた。


 服装は、何かのアニメに出てくる学生服で、シャツが第二ボタンまで開いていた。


 立ち姿は、ポッケに両手を突っ込んで、片目をウインクしながらの微笑みをしてきた。


 一言でいえば———


(えっ、イケメンだし、可愛すぎる… イケメン彼女ですか?)


 と、思ってしまうほどだ。


「ねぇー!!海里くん、早く感想を言ってよ!」


 いつまでも感想が来なかったので、綾佳は不満そうな顔をしながら言ってきた。


「えっと… カッコ良すぎるし、可愛いし、もうイケメン彼女ですよね?」


「うふふ… なにその感想(笑) 」


「いや、思ってたことをそのまま言ったらこうなった。でも、パッ…っと頭に浮かんだのがこれだったから」


「うーん… まぁ、及第点な所だね」


 綾佳は腕を組みながら、首を振って頷いた。


「それじゃあ、二人とも変身出来たことですし、ツーショットでも撮ってみませんか?私が写真を撮ってあげますわよ?」


 そんな二人を微笑ましく見ていたレイナは、携帯を取り出して指差しながら提案してきた。


「いいね!その提案乗った!そして、私のSNSに載せてバズらせよう!」


「羨ましいですわ!私も、その写真に写りたくなりました」


「もちろん!三人でのスリーショットも撮ろうね!」


「はい!!」


 綾佳とレイナは、互いに手を握り合いながら楽しんで話をしていた。


 一方、海里は自分の意見を聞いてくれないと分かっていたので、ため息をつきながらそんな二人を見ていた。


「では、あそこに立ってください」


 レイナが指さしたのは、白い壁になっている所だ。ここなら障害物などが無いので、綺麗に撮れると考えたのであろう。


「はーい!」


 海里と綾佳は指示された位置に着くと、カメラの方を向いた。


 綾佳は慣れた様子で男装にあったポーズをしていたが、海里は慣れてなくてもじもじしながらカメラを見ていた。


 逆に、それが女の子ぽくなっていたのだと、海里は気づいていないようだった。


「うん、いいですよ〜!では、綾佳さんが海里さんに壁ドンや顎クイをやってみましょう」


 レイナの指示により、海里は壁側に押されて、まさに壁ドン状態になった。

 

———カシャ


 その状態でレイナは一枚写真を撮ると、続いて顎クイをするようにとジェスチャーで求めてきた。


 綾佳はそれに反応して、海里の顎をクイっと軽く持ち上げた。


 まさに、少女漫画みたいになっている。


(これはやばい… なんか、綾佳にときめいている自分がいるのだが… 俺は男だぞ!!)


 謎の感情と戦いながら、海里と綾佳はレイナの指示に従って、順調に写真を撮っていった。


「ふぅ… 満足しましたわ。ありがとうございます!!これは、今すぐに綾佳さんに送りますね!」


「ありがとう!それより、大事な事を忘れているよ!!」


「大事な事ですか?」


「スリーショットを撮るんでしょ?いいの、撮らなくて?」


「……!!!撮ります!!撮らせてください!!」


 それを聞いて綾佳は、レイナが持っていた携帯を手に取った。

 そして、海里と綾佳の間にレイナを入れて、写真を一枚撮った。


「くぅ〜!!!ありがとうございます!!二人とも可愛いし、カッコいいし、最高な写真になりました」


「その、喜んでもらえてよかったです」


「そうそう、こーゆうのを定期的にやりたいね」


「いいですわね!今度は、麗音さんも呼んで…うふふ」


「意義なーし!!」


 何故だか、自分も次参加することが決定していた。

 そして知らない間に麗音も参加することになっていたので、同情の気持ちになった。


「では、写真を全て送りますね!」


「うん!」


 綾佳は写真を全て受け取ると、厳選した四枚を早速SNSにあげた。


 もちろん、僅か数秒で"いいね"の嵐となり、そしてコメントも沢山きた。


・綾佳ちゃん、男装似合いすぎてる!!

・マネージャーさん、可愛いすぎるだろ!!

・男なの!?女子にしか見えない

・レイナちゃんとの写真微笑ましい

・私も壁ドンや顎クイしてほしい!!!


 様々なコメントが来て、トップニュースになる程の注目度となった。



 この後三人で変身した姿で街へ出かけることになるのだが、それはまた今度…

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