第124話 海里、変身するらしい
「海里くん、早速だけど変身してね!という訳で、レイナちゃんお願いします!!」
「ふふふ… 任せてください。この私のゴスロリ技術で、海里さんを可憐な女の子に変えて見せますわ」
「お手柔らかに頼みます… そして俺が終わったら、綾佳にも頼みますよ」
「うふふ… 似た者同士なのですね!もちろん、綾佳さんにもやりますよ〜!」
ある日の土曜日、海里と綾佳はレイナの家にやって来ていた。
目的は、彼女の家にある衣装で、コスプレをする為である。
何故、コスプレすることになったのか、話は昨日に戻る。
『海里くん、君を女装させたくなったから、明日レイナちゃんの家に行こう。彼女の家にはゴスロリの他にも、コスプレ衣装がありそうだし!』
アニメ番組を見ながら、綾佳がふと口にした。
『……なぜ?』
『この人、男なのにこんなに可愛くなってるから、海里くんも行けるのではと思い』
『いやいや、アニメだから可愛い訳で、現実の人がやったら無理があるだろ。俺なんか女の子ぽくないし』
『海里くんは、女装したらとても可愛い女の子になると思うよ!スタイルなんか女の子に負けないくらい良いし、顔だって化粧したら女の子に見えるはずだ!』
綾佳は海里の体を下から上へと見ていき、一人で納得したように頷いていた。
確かに自分は身長に対して体重は適正ではないし、よく女の子になれるよと言われていた。
だからと言って、海里は女装したいとは一回も思ったことはなかった。
『それでも、俺はやりませんよ』
『え〜 つまらない。私も一緒にコスプレするから、それならいいでしょ?』
手を合わせながら懇願してくる綾佳に、はぁ… っとため息をつき、口を開いた。
『分かったよ… 綾佳もちゃんとやるんだぞ!!』
『もちろん!』
綾佳はサムズアップをしながら、満面の笑みをした。
(なんだか、綾佳に甘くなってきたな…)
そんなことを考えながら、頭を掻いていた。
そして、今に至る。
「では海里さんは、私と一緒にこちらへ来てください。綾佳さんはそのあとになるので、少々お待ちください」
「はーい!海里くん、楽しみに待ってるね」
「はいはい」
海里はレイナに案内されて、彼女の部屋へと案内された。
部屋に案内された時、なぜ?と思ったが海里はすぐに理解した。
レイナの部屋には、服・メイク道具・化粧台の変身に必要な物(三種の神器)が揃っていた。
ただ、彼女は荷物を移動させるのが面倒くさいから案内されたのだった。
「では、海里さんはこちらに座ってください」
レイナは化粧台の前にあった椅子を自分の方に引き、人一人が座れる空間を作った。
海里は頷くと、椅子の元へと行き、そのまま座った。座る時、レイナは海里に合わせて軽く椅子を押した。
「それでは、今から寺本海里さんの改造を始めていた思います」
「改造って… ただ、女装するだけなんだし…」
レイナは両手を胸の前に出して、手のひらを内側に向けて言ってきた。まるで、外科医が手術をする直前のように見えた。
彼女の台詞と仕草に、海里は苦笑した。
「いいじゃないですか。こっちの方が面白いし、変身した感じになるでしょ?」
「………?」
レイナの言葉に首を傾げる海里。
(ごめんなさい。レイナさんの言ってる意味が分かりませんでした…)
心の中で謝りながら、鏡に映るレイナを見た。
「まぁ、いいでしょう。では海里さん、早速始めますので髪を纏めさせてもらいますね。メイクがしやすくなるのと、カツラを被るのに必要なので」
「は、はい!お願いします」
そう言うと、レイナは慣れた手つきで海里の髪をウィッグネットでまとめていく。
元々、海里の髪は長くはないので、すぐにまとまりおでこが出ている状態になった。
「次に化粧下地の為に、化粧水を付けていきたいと思います。これをすることにより、メイクの完成度が一段上がるのです」
「なるほど」
レイナはコットンを手に取り、そこに化粧水を数滴垂らしていく。
そして化粧水を染み込ませたコットンを、海里の顔に優しく馴染ませていく。
「これが終わったら、次はファンデーションですね。役割としては、肌の凹凸や質感を整えてくれるのですが、肌とファンデの色が合わないといけないので、右手を出してくれませんか?」
「右手? 分かった」
レイナに言われるがまま、海里は右手を彼女の方に
すると、彼女は海里の手の甲にファンデーションを軽く付けていった。
「ちょっと、えっ…?これは何しているの?」
困惑した海里は、レイナに尋ねた。
「これはですね、先ほども言いましたが、右手を使って同じファンデの色を探しているのです。ここで色を間違えると、不自然に見えてしまうのです。まぁ、首の色味で確認するのが普通なのですがね」
「そーゆうことでしたか」
どうやらファンデーションの色を確かめるのに色味の見本となるのが普通は首らしい。
人によっては手の甲で確認するらしく、レイナは後者の方だった。
「続いては、コンシーラーです。こちらはニキビや吹き出物といったファンデで隠せなかった所を隠せる物です。ただ、男性が女装で使う一番の目的としたら、髭が多いですね」
「確かに髭は、女装にとって一番の天敵ですね」
「はい。この髭があるのとないのでは、全く変わりますよ。なので、髭隠し用のコンシーラーを使っていきたいと思います。海里さんは見た感じ肌は綺麗なので、髭用でも軽くでいいでしょう」
「えっと… ありがとうございます。肌はちゃんとするように頑張っていたので…」
「トップアイドルのマネージャーとしては、いい心掛けをしてますね」
鏡に映る海里を見ながら、レイナは微笑んだ。
そして、すぐに作業へと戻った。
「ここから一気に三つやりたいと思います」
レイナは指を三本立てて説明を続けた。
「一つ目がアイブローです。こちらは眉毛を書くのですが… 海里さんは眉毛が整っているので大丈夫そうですね。では、二つ目に行きましょう。二つ目がアイライナーです。これをやる理由としては、女装メイクではなるべく目を大きく見せないと始まりません」
「女装にそこまでやるとは… てか、レイナさん詳しすぎませんか?」
「ふふふ… 調べたので!私はもう完璧なんですの!」
アイライナーを持ちながら、ドヤ顔をするレイナ。
それを見ながら、「わざわざ、ありがとうございます」と海里は感謝を伝えた。
「それでアイライナーには二種類あり、リキッドタイプとペンシルタイプがあります。今回はリキッドタイプを使いたいと思います」
リキッドタイプのコンシーラーを使い、海里の目元にアイライナーを引いていく。
「そして、アイシャドウを付けますのでそのまま目を瞑っていてください」
「わ、分かりました」
海里の目元にアイシャドウを塗る為に、刷毛を使って優しく付けていく。
(刷毛がまつ毛に当たって少しくすぐったいな…)
自分は化粧をしてもらっている身だったので、レイナには何も言わずに我慢していた。
「それでは、目を開けていいですよ。続いては口紅を塗っていきます。海里さんはあまり赤すぎない色にしましょう」
「あの… 口紅って、その… レイナさんが使った物になるのでしょうか…?」
「うふふ… 心配する必要はありませんよ。海里さんの為に新しいのを買ってきたので。こちらは海里さんに差し上げますし」
レイナは化粧台の上にあった袋の中から新しい口紅を取り出した。
どうやら、海里の為に新しいのを準備してくれていたらしい。
「その… 何から何までありがとうございます」
「いえいえ、私は楽しんでいるので何も遠慮することはありません」
そう言いながら、レイナは海里の口に紅を塗っていく。
海里は鏡で、段々と自分が自分ではなくなっていく様子に不思議な感覚になっていた。
「化粧は他にもマスカラや二重などあるのですが、海里さんは大丈夫そうなので飛ばしますね」
「そ、そうですか… あはは…」
すると、レイナは化粧道具を片付けて、近くにあったカツラを手に取った。
「それでは、セミロングのカツラを被せていきますね」
「お願いします。一つ質問なのですが、なぜセミロングなのですか?」
カツラには、ショートボブやロング、ミディアムなどある中でのセミロングだ。
これは何かあるのではと海里は思った。
「……えっ? ただ、私が海里さんに似合うと思っただけですが?」
特に深い意味がなかった。
「そうですか… では、よろしくお願いします」
「はい!任せてください!」
そしてカツラを被せると、あっという間に自分が男から女になった。
(すごい… 俺が女になった。てか、誰?)
自分の姿に一瞬、他人に思えてしまった。
「さぁ、次に服ですね!まぁ、私がすでに選んでいるのですがね」
レイナは、ふふふ…っと微笑みながら、ベッドの方を指差した。
ベッドには、ブラウスとチェックのスカート、さらにタイツが置いてあった。
「こ、これは… えっと、俺が着る用なんですか?」
「もちろんです!私が頑張って選んだ物ですので、ちゃーんと着てください!!」
「……はい」
レイナの圧力に負けて、一言返事をした。
「あの… 服に着替えるので、一旦部屋を出てほしいのですが…」
「あら、すみません。服をちゃんと着れるのかなと思いまして。ほら、女の子の服って着たことないでしょ?」
「確かに… ですが、大丈夫です!なんとかなりますから」
「分かりました」
レイナは部屋の外へと出ていった。
それを見送ると、海里はすぐに着替えを始めた。
「えっと、上の服は普通に着ても大丈夫そうだな」
海里はブラウスを着て、元々着ていた服を畳んで椅子の上に置いた。
「タイツを履いたら、スカートか…」
ため息をつきながら、履いていたジーパンを脱ぎ、置いてあったタイツを履いた。
そして、その上にスカートを履いたのだが———
「なんだか、スースーする感じがする… 女子って、よくこんなの履けるな…」
微妙な感覚になりながら、我慢してスカートをなんとか履くことが出来た。
———トン トン トン
それと同時に、部屋のドアからノックする音が聞こえた。
「海里さん、準備できましたか?」
どうやら、レイナがタイミングを見計らって部屋に戻ってきたらしい。
「は、はい。出来ました」
「では、入りますよ」
———ガチャ
レイナが中に入ってきた。
「まぁ!!海里さん、とても可愛いじゃないですか!」
レイナは手を合わせながら、ニコニコして海里の全身を舐め回すように見てきた。
海里は、自分の体に寒気を感じて、両腕をさすった。
「うん!これなら、綾佳さんも満足しますわね!さぁ、綾佳さんの元へ行きましょう!!」
レイナは、自分を綾佳の元へ連れて行くために、右手を掴んでリビングへと連れて行かれた。
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